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お茶とケーキと謎解きと〜5分で読めるコージーミステリ短編集〜  作者: 地野千塩


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お局さんはお見通しです!〜とある不倫OLの調査報告書〜

 雪沢南は、世間知らずな女だった。お嬢様として蝶よ花よと育てられ、コネでとある化粧品メーカーへ就職。


 家族経営の中小企業ではあったが、経理部に配属され、入社当時はチヤホヤされていた。現代日本は少子化していたし、短大卒の若者というだけでも希少価値があったのだろう。実際、南は容姿が整い、見かけただけはアイドルのように可愛くもあった。


 そんな南は、悪い大人からしたら赤子の手をひねるぐらいイージーだった。上司も高野とあっという間に不倫関係になった。世間知らずの南からしたら、高野は大人の落ち着きがあり、イケメンに見えたのだろう。騙されているのも知らずに……。


 そんな不倫はあっさりとバレた。南は移動になったが、高野は何のお咎めなし。それどころか、南がハニートラップ的なことをしたと全責任を負わされた。逆に高野は出世していった。


「こんな理不尽な事ってありますー?」


 ぶつぶつ文句を言いながら、荷物をまとめ、移動先の部署へ向かっていた。


 移動先は「ハイパーメデア部」という何だかよく分からない部署。無能と障害者雇用人材しかいないという噂で、余計に憂鬱。いくら世間知らずとはいえ、不倫の代償は高くついたわけだった。


「本日から移動になりました。雪沢南と申します。よろしくお願いします」


 ハイパーメデア部は、薄暗い地下室にあった。席はデスクが四つ。これで島一つだ。あとは部長のデスクがあるが、他の本棚には大量の本や資料があり、一体ここって何? 本は「尾行」とか「盗聴」や「悪用禁止の心理学」という単語が見え、普通の本棚とは全く違う雰囲気。


 部長は、五十代の女性。見るからにお局。名前も坪根さんと言う。他の社員もADHDもちのオタクくん、言葉遣いが絶望的に悪いギャル、幽霊のように存在感がないアラフォーさん……。他の面々もなかなか濃く、ここって本当に会社か? 劇団にでも間違って入ってしまったような気がするのだが。


「ここはね、探偵を仕事にしてるのよ」


 この中で一番害のなさそうな幽霊アラフォーさんが、仕事内容を教えてくれた。ハイパーメデア部というのは名ばかりで、実際は社員の不倫、横領、サボりなどを調査している探偵団なのだという。最近は備品や商品を転売するものも多く、その調査もしているらしい。


 まさか、南の不倫もこの人達が調べた?


「その通り。私は何でもお見通し!」


 坪根さんはドヤ顔!


 逃げたい、何この変な部署!


 かと言って逃げられるわけもない。坪根さん達に南の不倫調査の経緯を説明してもらった。


 まずはギャルが社内の女子社員の噂を収集。ADHDのオタクくんが高野や南のSNSを調査。最後に幽霊アラフォー女が尾行し、証拠写真を押さえたという。


「っていうか坪根さんはドヤ顔している割に何もしてません?」


 思わず突っ込んだが、彼らに指示を出したのは全部坪根さん。確かに適材適所というか、リーダーらしくはあったが。


「不倫は辞めなよー」

「そうですよ!」

「ええ、不倫は絶対辞めた方が良いですね」


 色々と言い返そうとも思ったが、彼らに不倫のことを突っ込まれると、何も言えない。チームワークは悪くなさそう。


 こうして不倫をして、移動になってしまった南。元々仕事への意識は低く、結婚するまでの腰掛けだと決めていたが、ここいる面々は案外楽しそう。


 確かに営業部などにいたら、使えないタイプかも知れないが、こんな仕事だと適材適所で開花しているようにも見えた。やはり、この坪根さんってすごい人?


「でも何で私がこの部署に? 私、特に探偵とかできませんよ?」


 その不安もあった。噂やネットを調べたり、尾行をするのも出来なさそう。あるのは愛嬌と美貌ぐらいだ。


「そこでだ。雪沢にはターゲットへ色気大作戦をやってもらう。雪沢は容姿だけはいいから、是非と人事部に推薦したのだ。本当はクビだったんだぞ」

「え? つまり私はハニートラップ的な? あの噂は高野の作り話ですって」

「わかってる。愛想よくニコニコしながら話を聞き出せばいいから」


 坪根さんはそう言うが、これは逆らえられなさそう。お局オーラに震えてくる。それに鷹のように鋭い目を見ていたら、本当に何でもお見通しという雰囲気だった。


「それに高野は会社の金を使い込んでいる疑惑がある。何か知っていないか?」

「えー、高野さんって横領までやってたんですか?」


 坪根の情報には驚いたが、よくよく考えれば、怪しい所があった。繁忙期でもないのに一人で残業もしていたし、金遣いも荒かった。


「どうだい? 雪沢もちゃんと高野を調べて、成敗したくないかい?」


 と言われても……。


 坪根だけでなく、ギャルもADHDのオタクくんも幽霊アラフォーも乗り気だった。


「た、確かに高野は許せません。協力できる事はします。仕事ですし!」


 南もだんだんとやる気になってきて、高野を調べる事に決めた。


 さっそく他に面々も仕事を始めたが、私はまだ初日。高野の不倫調査の報告書をファイリングする作業から始まった。


「はは、雪沢。間抜け面で写真撮られてるなー」

「部長、笑わないでくださいよ」


 無邪気に笑っている坪根さんは、根は良い人そうだ。


 まあ、とりあえずここでの仕事も頑張ってみよう。世間知らずでバカだったけれど、今は仕事へのやる気も出てきた。


 まだまだ南の新しい日常は始まったばかり。ランチに美味しいワンコイン弁当を買って、帰りにはスタバでコーヒー飲んで帰ろう。


 それに高野の横領が明らかになったシーンを想像するだけで、胸がスカッとしてきた。このメンバーだったら、きっとそうなるだろう。


 今は不倫の心の痛みも、癒えていく気がしていた。


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