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お茶とケーキと謎解きと〜5分で読めるコージーミステリ短編集〜  作者: 地野千塩


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焼き芋屋さんは何でも知ってる

 結婚して三ヶ月。まだまだ新婚といっても良い時期だったが、ご近所の主婦達の関係に悩んでたいた。


 いわゆるママ友の巨大派閥があり、そのリーダー格に目をつけられてしまったから、大変。


 名前は里山幸子。名前だけはほのぼの平和そうだが、外見も性格もきつい。夫の年収や子供の学力、車、マイホーム自慢も吹っかけれ、嫌味も言われていた。特に夫の悪口を言われるのは、なかなかキツいものがある。


 原因も謎だった。私はごく普通に幸子さんに接していたつもりだったが、悪くとられる事が多かった。他の主婦達の聞くと「嫉妬でしょ」という。他にも若い主婦が被害にあい、根の葉もない悪い噂を立てられていたらしい。結果、この町にいられなくなり、引っ越してしまったそう……。


「石焼芋〜。お芋だよ、お芋〜♪」


 そんな悩んでいる時だった。自宅のベランダの方から呑気な音が響いていた。


「石焼芋?」


 もしかして昭和アニメでよく見るような移動販売式の石焼芋屋さんが来てる?


 その音楽も昭和レトロ風で可愛い。特に焼き芋は好きでは無いが、気晴らしに勝ってみる事にした。


 石焼芋屋さんは、トラックを路上につけて販売そているようだ。小さな町の住宅街に石焼芋屋さん。何とも平和な光景。夕焼けの空と石焼芋屋さんがマッチしている。


 ただ、ちょっと石焼芋を買うのは恥ずかしい。何となく太るイメージもある。本当は芋は健康に良いと聞くが、列の一番後ろに並び、他の客がいなくなった時に買うことに決めた。こんな光景を幸子さんに見られたら、厄介でもあるし……。


「いらっしゃいませ!」


 ちょっと恥ずかしかった私だが、石焼芋屋さんを見たら、余計に顔が赤くなってきた。


 石焼芋屋さんはイケメンだった。目が大きく、ちょっとハーフっぽい甘い顔立ち。それでも作業着は似合っていた。軍手もマッチしている。


「何で焼き芋屋さん?」


 ついつい聞いてしまった。このルックスだったら、別の仕事もありそうなのに。


「いや、俺、芋谷って名前なんですよ」

「確かに石焼芋屋さんにピッタリね」

「ええ。お陰で天職に巡り合いました」


 芋谷さんは、注文した石焼芋を袋で包んでくれた。私は慌てて五百円玉を出す。コンビニやスーパーの石焼芋より割だが、まあ、いいか。袋からはいいに香りしかしないし、ちょっと寒くなりかけてきた今の時期にはピッタリ。暖かな石焼芋を食べるのを想像するだけで、嬉しい。幸子さんの事なんて全部忘れてしまうそう。


「あー、このお芋、本当に美味しい!」


 家に帰って一人で石焼芋を食べてみたが、ねっとりと甘く、とても美味しい。砂糖なんて入っていないはずなのに、蜜のような味だ。どのスイーツよりも甘く感じた。


 そして私は石焼芋をよく買うようになった。芋谷さんは、あのルックスだし、お芋は美味しいし、すっかり町のアイドル化。行列や人だかりができているのも珍しくない。あのボスママの幸子さんも列に加わってうるのも見た。


 不思議な事に幸子さんから嫌な態度を取られるが減った。石焼芋を待つ幸子さんは、毒気が抜けたみたいに笑ってる。まる手品みたい。幸子さんの心を石焼芋でとかした?


「実は、幸子さんって旦那さんに浮気されて苦しんでいたみたいです」


 ある日、商品が全部売り切れて暇そうにしている芋谷さんを見つけ、声をかけた。


 幸子さんの事を話すと、芋谷さんは色々教えてくれた。


 町内で石焼芋を売り歩いていると、色々な噂を耳にし、幸子さんの夫が浮気している事を知ったという。


「そっか。そんな事情があったのね」


 そう思うと、幸子さんのこ事も同情心が芽生えてしまった。


「うん。だから、一番美味しい芋を幸子さんに勧めて、悩みも軽く聞いてあげたら、ストレス解消になったみたい」

「そうなんだ、よかったわ」

「美味しいお芋を前にすると、どんな女性のストレスも無くなるからね!」


 無邪気に話す芋谷さんを見ながら、私も美味しいお芋の魅力にハマっている事に気づいた。


 以後、芋谷さんは町内を売り歩きながら、主婦達の悩みや謎を解決しているんだそう。


「芋谷さんは何でも知ってるって」

「本当? 何か私も相談しようかなー」


 そんな噂が町内に出回ってしまう程だった。もっとも私は芋谷さんに相談するほどの悩みも謎もないが、今日も石焼芋を買いにいく。


 甘くて大きなお芋。暖かく、優しく舌触りのお芋。単なる野菜ではなく、自然の恵みの最高なスイーツかもしれない。


 そんなお芋を食べながら、何も起きない平凡な日常も噛み締めていた。


「ああ、やっぱり石焼芋って美味しい! 最高だわ!」


 私のストレスも全部消えてしまったようだった。


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