異世界カフェの裏メニュー〜ただの雇われカフェ店長ですが、殺人事件の容疑者全員から求愛されて困ってます〜
私はごくフツーの社畜だったが、ある日、異世界転移してしまった。
転移先の異世界は、私が遊んでいた乙女ゲーム世界とそっくり。中世ヨーロッパ風の学園を舞台に平凡な田舎娘が愛される乙女ゲームだったが、詳細は忘れた。元々日本人が作成したゲーム世界なので、日本語が通じるのはありがたいが、困った。
学園の側にカフェがあり、バイトを募集していたので事情を話したらあっさり内定。しかもオーナーは一週間後に旅行に出るから、ワンオペで仕事を全部覚えろという鬼の所業だったが、元々社畜体質の私は、全部仕事もマスターした。異世界に来たのでなりふり構っていられないというのもある。
こうしてカフェの雇われ店長になったわけだが、客も押し寄せ、目が回るほどの忙しさだった。このままでは死にそうだったので、側にある学園にバイトの求人広告を貼らせてもらった。
貴族の坊ちゃんやお嬢様が多い学園らしいが、庶民も二割いるらしい。庶民の中からバイト希望している人がいると良いな、と。
その帰り、予想外の事が起きた。学園のテニスコートで人だかりが出来ていた。
「何があったの?」
「なんか学園長の死体があったらしい。撲殺らしいが」
近くにいた庶民風の生徒に聞いたが、驚いた。まさか異世界でも殺人事件があったとは。学園の有志が結成しているという白警団も調査しているという。さすが乙女ゲーム風世界。庶民風の男や白警団の団長もみんなイケメンだった。
もっとも雇われ店長の私がこの件で出来る事はないだろう。
「さ、仕事、仕事」
さっさと帰って仕事の戻ったが、客足が鈍い。殺人事件の影響により、学園も自粛モードに入ったらしく、街全体もお葬式ムードだった。
その上、被害者である学園長もカフェでテイクアウトのコーヒーを飲んでいたらしい。学園長は撲殺さったが、このコーヒーに毒入りという噂もたってしまい、カフェ経営は大ピンチ!
「一応厨房や客席も調べさせてもらいますよ」
白警団の団長も来た。ルイスという名前のイケメンだったが、異世界人の私を疑っているようで、カフェに調査が入ってしまった。おかげで経営はしばらくお休み。暇になってしまった。
いやいや、単に暇になるだけだったら良いが、この先客が戻らなかったら?
雇われ店長として責任を感じた私は、犯人を見つけようと決意。
まずは街に出て聞きこみをしよう。
「君、可愛いよね。付き合ってくれない?」
「は?」
聞き込みをしようとしていただけなのに、イケメンにナンパされた。確か学園で人気ナンバーワンの王子様キャラだ。金髪碧眼で、どこからどう見てもイケメンだが、なぜナンパ?
怖くなった私は王子から逃げ、公園のに向かったが、なぜかここでもナンパされた。
「ねえ、お姉ちゃん。甘えてもいい?」
学園長の息子・クリスだった。学園長と血は繋がっていないようだが、十三歳にして色気むんむん。上目遣いで見つめられても困る!
必死にクリスからも逃げ、次はカフェの近くへ。
「なあ、俺だけを見ろよ。他の男なんて見るな」
次はドS生徒会長に壁ドンされた。学園の中でもクールでドSだと人気がある彼。なぜ壁ドン?
「いいえ、私はただの雇われカフェ店長ですから!」
必死にカフェの中へ逃げた。もう白警団はいないようで、心を落ち着かせる為にクッキーを焼いたが、まだ心臓がバクバクしていた。
「それにしても学園のイケメンが何で私にナンパしたりしてるの?」
落ち着いてくると一つの疑問が浮かんだ。日本では自己肯定感が低く、チー牛としか付き合った事がなかった。いくら乙女ゲーム風の世界だからって怪し過ぎる!
そう思った私はクッキーをラッピングすると、再び街へ。雑貨屋や酒屋へ行き、クッキーを配りながら学園長の噂を聞き込みした。
不思議な事にクッキーを渡すと相手の警戒心も溶けるよう。ペラペラ話してくれた。
生前、学園長は金銭トラブルを抱えていたそうだ。特にクリスの母親でもあった後妻にはお金を貸したor貸さないで揉めていたそう。
「クリスについて噂は知らない?」
次は学園に潜入し、掃除や売店のおばちゃんに聞きこんだ。同じくクッキーを渡すと、彼女たちの口も軽くなる。
他にも庶民風の学生などにも聞き込みした結果、クリスは金遣いが悪いと有名だった。また、王子やドS生徒会長ともつるみ、女遊びも激しく繰り返していたとか。
「クリス達が犯人?」
その可能性は大いにありそう。動機は金銭トラブル。私にナンパしてきたのも、うまく丸め込んで罪を被せる為だろう。おそらく異世界の社畜女だと舐めていたのに違いない。
怒りにまかせて学園の生徒会室に乗り込んだ。飛んで火にいる夏の虫状態で、あっという間にクリス達に縄で縛られてしまった。
「そうだよ、僕らが犯人だ!」
「誰がお前のような社畜に手を出すかよ!」
「だよな!」
クリス達の笑う声を聞きながら悔しい。顔だけイケメンで最悪じゃないか。これだからイケメンは怖すぎる。
クリス達は私に包丁を向けていたし、もう絶体絶命。異世界で殺されたらどうなるの?
「白警団だ! お前らを現行犯で逮捕する!」
もう死ぬ覚悟をしていたが、寸前のところで白警団に助けられた。特に団長のルイスはクリス達をボコボコにし守ってくれた。
イケメンでも中身がいい人がいるの?
偏見を持ちそうになった自分が恥ずかしい。
こうして学園長殺人事件は幕を下ろした。相変わらずバイトは決まらず、忙しく雇われ店長をやっていたが、店にルイスが訪ねてきた。
看板メニューのシフォンケーキと紅茶を楽しんでいるルイスは、素の笑顔。白警団の仕事をしている時はかなり気を張っているのだろう。
「今回は事件調査協力に感謝する」
「いえ、別にルイスは頭下げなくても」
誠実にお礼も言っているルイスは、本当に中身もイケメンだと思わされたが。
「実は学園内はまだまだ犯罪予備軍というか火種があってな」
「えー、今回でスッキリ解決じゃないの?」
「という事であなたには再び調査協力を願いたい」
また頭を下げられ頼まれてしまった。
本心では嫌だ。カフェの仕事だけで手がいっぱいだが、犯罪予備軍がいるのは気掛かりだ……。
「わかった。協力する」
「ありがとう! 君は立派なカフェ探偵だ」
ルイスの爽やかな笑顔は、眩しすぎてちょっと困るのだが。
カフェ探偵というのも面白そう。こんな裏メニューがあるのも悪くない。美味しいカフェメニューの裏には、犯罪の香りがするのだ……。なんてね。
これからますます忙しくなるだろう。これから始まる日々を想像しながら、心臓はドキドキ高鳴っていた。