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謎解きよりパフェが食べたい〜とある牧師の娘のオカルト事件録〜

 私はしがないOL。誰もがそう見えるだろうが、変わった趣味を持っていた。それはエクソシストだった。


 元々牧師の娘であり、クリスチャンだった私は「悪霊よ、イエスの御名で出ていけ!」と子供の頃からやっているうち、その道を極めてしまい、今に至る。


 ちなみに教会で表立ってはやっていない。金も取らない。クリスチャンか聖書に興味がある人限定でやっていたが、噂を呼び、たまに妙な依頼も舞い込んでくる。


「という事で困ってるんです。賽銭泥棒が本当にいるなんて……」


 ここは教会の近所のカフェ。パフェが美味しいこの店だが、今は自重。コーヒーだけを啜りながら依頼者の話を聞く。


 依頼者は商店街の神社の神主からだった。最近、賽銭泥棒が多く、さまざまな防犯対策をしても捕まえられないという。警察にも言っていたが、なぜか全く捕まえられない。もう一年もたっているという。


 内心、牧師の娘に相談する内容かと呆れていたが、神主は本気で困っているようだった。


「まさか困った時の神頼みで、イエス様に何とかして欲しい訳じゃないよね?」

「いや、その通りです! 日ユ同祖論もありますし!」


 神社の調子の良さにため息しか出ない。


 この神社はご利益目的で有名だった。ギャンブルや宝くじが当たるとパワースポット風に参拝している人も多いという。


 そこは人間の欲望やエゴがつまれた場所になっているのだろう。神社や賽銭箱自体が何か悪さをするわけじゃない。人間の欲望やエゴに悪魔や悪霊が入り込むのだ。


 正直、そんな場所は賽銭泥棒とも引き寄せ合うのだろう。ご利益推しにするのを辞めるのが一番の解決策になるとは言うが、案の定、神主は聞き入れない。


 仕方ない。神社に行って悪霊払いするのは気が重すぎるが、私は一人、そこに積まれている人間の欲望やエゴを払いに行った。


 パワースポットへ行っても願いが叶わない理由もこれだ。人間の欲望やエゴが積まれた場所に行くと、余計に人の心の中にある悪いものが増え、結果、全く上手くいかない。


 確かに願いが叶うものもいる。でもそれは、悪魔や悪霊に利用価値があると選ばれた結果だ。神社に行って願いが叶いやすいのは上級国民、美男美女、金持ち、インフルエンサーなどだが、最終的には全部奪われる。特に死後に全部奪われる。かえって願いが叶わない方が良いとも言える。


「ふう。面倒だったけど、とりあえず場所清めのエクソシストはできたかね?」


 一仕事終えた時だった。黒ずくめの不審な男と目が合う。明らかに「やばい!」と慌てて顔だ。しかも逃げている。こいつが賽銭泥棒に違いない!


 私は逃げる男を必死に追いかけた。もう夕方になっていたが、商店街の町長、肉屋、喫茶店、花屋、本屋、それに神主も男を追いかけ、みんなで捕まえた。


 捕まった男はかなり貧困に陥っていたらしい。ギャンブル依存症もあった。神社に賽銭を投げたが、逆にギャンブルに負けてしまい、恨みも募らせていたという。


「なんだか後味悪いですね。我々が原因を作ったような感じもしますし」


 事件の後、神主とあの喫茶店でお茶をしていた。せっかく事件は解決したが、神主の顔は重かった。


「そうね。こういう社会の弱者が救われる方法があると良いんだけどね。っていうかいくら神社でもご利益推し辞めたら? 昔の日ユ同祖論の神社みたいに神様に礼拝するだけの場所にしたら良いと思う」

「それは無理ですよー。死活問題です。逆に教会ではこういう事無いんですか?」

「あるよ。献金箱丸ごと盗まれた時もあった。でも犯人は探さなかった」


 どうせ悪事は神様が復讐してくれるだろうし。それに数千円しか入っていない献金箱を盗む者も貧困の可能性が高い。あげちゃった方が良いのかもしれない。ちなみにその後、金持ちの未亡人が教会員になったので、金銭的に困った事は一度もなかった。


「そうか。なかなか難しい問題だね。今度そういう貧困な人を助けるような動きもやってみようかな……」

「いいと思いますよ。その点については教会の方がノウハウがあるので、協力できると思います」

「そうか。ありがとう」


 御礼を言い、神主は喫茶店を後にしていた。


「うーん、今回はちょっとヘビィな事件だったかも。疲れたわー」


 メニューをめくりながら、一番高いパフェを注文する事にした。今日ぐらいは良いか。


 さっそく注文し、目の前にパフェが運ばれてきた。フルーツ、クリーム、パフやクッキーなどが重ねられた大きなパフェ。何とも美味しそうな地層ではないか。


「ああ、美味しい」


 ちなみにパフェとよく似ているサンデーの起源は面白い。クリスチャンが礼拝する日曜日に豪華パフェを食べるのは罪悪感があり、比較的控えめなサンデーが開発されたらしい。


「まあ、今日じゃパフェでもサンデーでもどっちでもいい。美味しいわー」


 美味しい地層を探索しながら、口の中は幸福でいっぱいだった。やはり謎解きよりパフェを食べている方が楽しいものだ。

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