ドカ食い探偵!〜ドカ食い気絶した後に見る夢は〜
雲井熊美には秘密があった。一見、普通の女子大生だったが、ドカ食い気絶をした後に、妙な事が起きるのだった。
「ではLサイズのピザをいただきます!」
一人暮らしのアパートで宅配ピザを頼み、テレビをつけながら食べていた。
こってりとしたチーズやトマトソースの匂いが部屋に広がる。一緒に注文したフレンチフライからは油のにおいもする。狭い部屋は一気にピザ祭りに変わっていた。
小さなちゃぶ台の上もピザやフレンチフライ、コーラで占められていた。途中で味に飽きるだろうからタバスコ、塩胡椒、オリーブオイル、粉チーズも全部用意し、ピザを切り分けていた。
薄いピザ生地は齧ると、サクサクと良い音がする。とろーっとしたチーズは濃厚。トマトソースと絡みつき、タバスコの辛さが良いアクセントになっていた。
「うーん、テレビはドラマじゃなくてニュースやってないかね?」
熊美はチャンネルを変えた。ニュース番組を見つけてホッとする。
ニュースでは子供の行方不明の事件が報道されていた。家族でとあるアミューズメントパークに行ってから行方が分からなくてなっていえうという。
母親のインタビューも流れてきた。若く母親だったが、憔悴しきっている。見ているだけで心が痛む。
本当はピザなんて食べて良いのか疑問だったが、今の熊美はこれしか方法が思いつかない。
「うん、まあ、美味しいわ」
あっという間に一箱平らげた。やや冷めてきたフレンチフライをつまみつつ、この事件の噂もSNSで見る事にした。
SNSでは生贄誘拐殺人ではないかと言われていた。いわゆる黒ミサで捧げられる生贄の為に誘拐されたんじゃないかと。海外では生贄目的の子供の誘拐も多いらしい。現場となったアミューズメントパークは、海外の悪魔崇拝者もよく来ているとい噂もあり、熊美は顔を顰めていた。
「いやいや、まだ生贄とは決まったものじゃないわ」
さらに熊美はピザを切り分け、ハイスピードで胃に詰め込んでいった。
血糖値は爆上がりし、正直気持ち悪い。お腹もキリキリしてきた。良い子は決して真似してはいけない。悪い子も死にたくなければ、ほどほどにピザを食べるべきだ。
「最後の一切れよ!」
ついに全てを食べ尽くし、コーラで流し込んだ時、気絶した。
その場で眠り込み、深い夢の中へ。
夢の中では、あの誘拐された子供がアミューズメントパークでトイレに行くのが見えた。トイレでは黒づくめの女達が子供に飴を与え、薬を与えて気絶させていた。
全部夢だったが、これが誘拐の真相だろう。
そう、熊美はドカ食い気絶をした後に凶悪犯罪の犯行現場を夢に見る事ができた。こんな事は誰にも言えないが、匿名で夢に見た内容を警察に通報すると、後日必ず犯人が捕まった。
まだまだこの夢は終わらず、続きがあった。子供はどこかの屋敷に連れて行かれた。最初はもてなされていたが、地下に連れられ、黒ミサが始まっているではないか。このままでは子供は確実に殺されてしまう。
救いなのは屋敷の所有者の名前がわかった事。また、黒ミサも長ったらしく何日もかける予定だという事だ。
「はっ!」
目が覚めた熊美。まだドカ食いした後で胃がキリキリしていたが、さっそく警察に通報した。最初は半信半疑だったが、あまりにも熊美が詳細に話すので、すぐに調べてくれるという。
翌日、夕方。
無事誘拐されていた子供が救出されたというニュースが報道されていた。黒ミサも現行犯で暴かれ、犯人達も続々と逮捕されているという。熊美の見た夢は事実だった。
まさかドカ食い気絶した後で見る夢で解決したとは言えないが……。
そもそもなぜドカ食い気絶した後にこんな夢を見るのか謎だ。背徳な食べ方をし、犯罪に匂いを引き寄せたと考えているが、実際のところはよく分からない。
「さて、今日はメガ牛丼にマヨネーズをてんこ盛りにして食べるよ!」
今日も熊美はドカ食いしていた。頂き女子が行方不明になり、容疑者の男も死体で見つかったというニュースも報道されていた。
事件を解決してほしいという願いは、特にない。とにかく目の前にある美味しい食べ物を欲望のままに楽しむのだ。
良い子は決して真似してはいけない。悪い子も死にたくなければ真似しないで欲しい。
「うーん、美味しい! でも胃は痛い!」
その声と共に気絶し、今日も犯罪現場の夢を見ていた。