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中華後宮菓子探偵〜幸運のおみくじ付き菓子の謎〜

 私、美玉はごくごく普通の茶屋の娘。


 広大な大陸国・明京の都から、西南に下った田舎村で茶屋をやっていた。元々家はお茶を栽培していたのだが、村の農民達がくつろげる場所が欲しいという要望もあり、茶屋を作った。


 もっとも私はお茶より菓子作りの方が好きで、杏仁豆腐や揚げ団子や胡麻餡餃子を作っていたら、村で評判になった。


 そこまでは良かったが、この村は治安が悪い。盗難事件や暴行沙汰も多く、殺人事件も起きる事も多かった。まあ、田舎だから仕方ないが、茶屋をやっていると農民から噂をよく耳にするようにもなった。


 また茶屋で余った菓子を配り歩いていると、事件の容疑者達の口も雲より軽くなり、自然と情報が集まり、何だか知らないうちに事件が解決してしまう事があった。すでに三十件以上事件を解決している。村の人達は私の事を「菓子探偵・美玉」なんて読んでいたが、勘弁して欲しい。私はそんなつもりで事件調査をしていたのではない……。


 そんなある日。いつものように茶屋の厨房で開店準備をしていた。最近は揚げ団子が人気なので、生地を大量に作っている時だった。店の呼び鈴が鳴る。


「こんな時間に誰?」


 多くの村人は農業に従事している時間だった。こんな朝に人が訪ねて来るとは珍しい。


 案の定、村人でもなかった。真珠みたいな男の人だった。肌はピカピカ、長い髪はツルツル。特に髪は絹みたい。服も上質な絹を使っている。油と粉だらけの私の服とは大違いだった。一言でいえば美男子だった。


 茶屋の客席で話を聞くと、都で役人をしているという。しかも後宮で宦官として働いているとか、雲の上の話すぎるんですが……。名前は天佑というらしいが、農民達には決してない雰囲気の名前。それだけでも冷や汗が出てきた。まあ、包丁振り回していた殺人犯と対面した時よりはマシだけど……。


「何でこんな田舎へ?」

「実は後宮で事件がありましてね。寵姫に脅迫状が届いておりまして、どうしようかなと。あなたの噂を聞いて相談にしに来たわけですよ、菓子探偵さん」


 綺麗な男だったが、その言い方は小馬鹿にしているようだ。出している茶屋揚げ胡麻団子にも一切、手をつけない。これは挑発行為かも。基本的に女を見下しているのだろう。この国は男尊女卑だし仕方ないが。


「だったら、関係者全員に菓子を配りながら話を聞くといいよ」

「そんなんで解決しますかね?」

「人は菓子食べると口が軽くなるんだ。まるで魔法がかかったみたいにね」


 それは長年の経験から分かる。どんな凶悪な犯人でも菓子を目の前にすると、警戒心をとく。私がフツーの村娘に見えるというのもあると思うが、人間は美味しいものを目の前にすると油断するのだろう。


「例えば焼き菓子を配ってみるのもいいね。あ、最近私、おみくじ付きの焼き菓子作ってるのよ。これを配ってみたら?」

「そんなんで効果ありますかねー?」


 天佑はそう言いつつも、おみくじ付きの焼き菓子を見ていた。


「ふうん。神様からのお告げ、目の前に幸運があるでしょう。って本当?」

「さあ、確かめてみたら?」


 最後まで半信半疑だった天佑だったが、私の言う通りにおみくじ付きの焼き菓子を配りながら、後宮で調査を続けたらしい。


 すると、ある下働きの娘が浮上。娘をよくよく調査すると、敵国出身だった。戦争で家族を失った恨みが動機で脅迫状も送っていたらしい。娘の部屋には毒も見つかり、寵姫や皇帝への殺意も認められたという。


「という事です。あなたのおみくじ付きの菓子を配って歩いていたら、なぜか事件が解決してしまいました」


 天佑は悔しそう。挑発行為をしていたのに、結果、私の言うことが合っていたからだろう。


「このおみくじの結果通りになりました」

「へえ、良かったじゃない」


 しかし天佑は渋い顔。身元調査を徹底していなかった事などを上司から責められたり、今後後宮で事件が起きたら、クビだと脅されたらしい。


「そ、それはお気の毒様」

「お前には責任をとって貰うぞ!」

「はぁ!?」


 なぜか私に八つ当たり。美男子だが、中身は子供か。イライラしながら揚げ胡麻団子を食べている姿は、子供っぽい。都の天上人だと思っていたが、案外、私達と変わらないのかも。同じ人間なんだろう。


「という事でお前も後宮で下働きしろ」

「はあ?」

「この件で何人か辞めたしな。それに厨房での仕事だ」

「もしかしてお菓子作っても良いの?」

「都の最新設備、高級食材……」

「行きます、行きます!」


 後宮で働く事を即答してしまった。天佑の顔がちょっと意地悪そうに見えたのは気のせい?


 この時の私は、まだ何も知らない。都で菓子を配りながら事件を解決し続け、後宮菓子探偵などと呼ばれる事など全く知らなかった。


「後宮でお菓子作りたい! 私ってとても幸運かもしれないね?」


 無邪気に笑う私を見ながら、天佑も苦笑していた。

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