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おにたちの記憶

おにたちの記憶 クロノスケ編

作者: さるた


一度だけ悪意ある言霊をウラノスケに言ったことがある。それは、大きな楔になって、この幸せな世界を壊す引き金になることだ、と考えることもなかった。なぜなら、


壊れてしまってもいい


そう思った。この山も川も畑も城も全て壊してなくなれば、時置師トキオカシとの学びも時空の調整も、主様ところへ習いも行かなくていい。そんな時に目に入ってきたのが、笑い合う仲睦まじい二人の姿。ウラノスケとミツ。呑み込みの早いウラノスケは、クロノスケの倍、読むのも書くのも計算も早い。双子でありながら、その才能に追いつかない自分への苛立ち。そして、それが他人に向く。八つ当たりだ。誰が比べるということもないのに、クロノスケは自分で自分を追い詰めた。


「。。。ねぇ。知ってる?ミツは陰でお前を馬鹿にしている。3本角の間抜けな鬼だと」


二人が夕方別れたのを見計らって、ウラノスケに声をかけた。もちろん嘘だ。意気地の悪いことだとクロノスケは自分でも思った。ウラノスケはいつだってミツを信じている。だから、こんな悪意のこもった言葉をウラノスケが簡単に信じるとは思わなかった。梅雨前の生ぬるい嫌な風が吹き抜けて行った。

「そ、そんなこと言うわけ無い。。。どうしたんだ、顔色が変だぞ」

ウラノスケがそう答える。そう、言うわけがない。それなのに、ウラノスケは拳を震わせている。何でも無いように、いつものように笑っているわけではなかった。嫌な風が二人の間に溝を作り、ウラノスケはすごい速さで一人で帰ってしまった。家路に着いても何か嫌なものが纏わりついている感じがし、夕飯も食べずに床に着いた。何度も寝返りを打っては目を閉じるが、全く眠れなかった。朝になり顔を洗い剣の素振りをする。嫌な気分は残っているが、昨日よりいい日に違いないと思い食事に向かう。すれ違うおにの顔がいつもよりも険しく感じ、挨拶をしても苛立っている様子がわかる。食事を楽しめる気もせず、奥で済ませ、早々に部屋へ逃げ出した。古文書の写生、本を読み終え、少し外の空気を吸いに散歩へ出かけた。そこへ、ウラノスケとミツを見つける。珍しいことに言い合いをしている。

「そんなこと言わない!陰口なんて卑怯な真似はしない!」

強い口調でミツが言う。クロノスケの姿をミツが見つけると、次の瞬間にはクロノスケの胸ぐらを掴んでいた。

「なんで、嘘を付く!言いたいことがあれば直接言えばいい」

憎しみの籠もった言葉が、クロノスケの胸に刺さる。クロノスケが不気味に笑うのを見て、ミツは言葉を失った。

「。。。」

やればいい、クロノスケはそう思ったのに、ミツは胸ぐらから手を離し、走って帰って行った。


数日たった頃、何かがおかしいと思った。おにたちのさらに苛立ちを増し、里からの訪問者はいなくなった。ウラノスケと一緒に学ぶこともここ数日ですっかりなくなった。クロノスケは自分の部屋へ戻ると、時置師トキオカシの力で未来へ行く。


クロノスケが立ってるところは5年後くらいか、それとも随分後なのか。木は枯れ、川の水はなくなり、畑は荒らされていた。たくさんの人の亡骸が転がっている。そんな中、馬に乗った数人が里からやってくる。亡骸を気にしている様子がないところを見ると、この風景は見慣れた光景になっているのだろう。馬に乗った先頭の甲冑姿はミツだ。城に向かって駆け抜けて行った。場所が変わり、城のウラノスケの部屋で、甲冑姿のミツがウラノスケと対峙している。ウラノスケは甲冑を身に着けないまま、自分の刀を持っていた。ミツが打ち込んだ刃を躱したが、次の太刀で胸を貫かれた。その途端、ウラノスケの大きな笑い声が響く。貫いた刀を持っているミツの手に自分の手を重ねる。

「ミツ、好きだ」

「うん。。。大好きだよ。ウラノスケ」

そのまま動かなくなったウラノスケの首を跳ね上げると、ミツは一緒に来た者に

「後は頼んだよ」

という言葉を残して自害した。

二人は共に封印される。おにも人も全てが壊れた世界がここにあった。


。。。これを俺が望んだのか!


クロノスケはその場でしゃがみ込むと嘔吐し、涙を流した。


。。。俺は何という浅はかな。ウラノスケ頼む!すまなかった。俺が悪かった。だから、どうか、ミツと仲直りをしてくれ。ミツ、悪かった。


涙は止まらなかった。お互いを思いつつ引き裂かれた二人の姿が目に焼き付いて離れない。彼らが何をしたのだ。なぜ、人の不幸を願ってしまったのか。伏せていた目の前にキラキラとしたものが舞う。

「クロノスケ、時置師トキオカシの力を無駄に使うでない。言霊にのろいを乗せるでない」

主様と時置師トキオカシの翁が、キラキラと金色の輝く光の中から現れた。

「主殿、よろしいかの」

「よろしくお願いします」

時置師トキオカシの翁が大きな水晶玉のようなものに、クロノスケを取り込んだ。クロノスケは抵抗することもなく、されるがまま頭をうなだれた。


。。。俺のせいで、みんなが死んでしまう。ウラノスケ、お願いだ。ウラノスケ、ウラノスケ、ウラノスケ!


主様はクロノスケのことを温かい目で見つめ、時置師トキオカシもまた愛弟子を見守った。二人はいつの間にか消えていた。


水晶玉は暗闇の中に浮かび、クロノスケがいるところだけほんのりと明るく光っていた。

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