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あの空を、僕は決して忘れない  作者: ヤマノ コダマ
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配役発表

「それじゃあ、配役を発表しまーす。」各クラスの代表が一同に会した初めての打ち合わせにて実行委員の黒田が良く通る声で学年劇の配役を発表することになった。自分のクラスメイトを相手に発表するだけでも緊張する自身に比べ、各クラスの代表者達を相手にしても全く臆することもない彼女を見て、呑気に心の中で関心をしていたのもつかの間だった。「栄えある主役に選ばれたのは、4組の吉野君と東城さんです。おめでとうございます。みんな拍手をお願いします。」聞き覚えのある名前を呼ばれた気がしたが、まさか自分のことと思わず、周囲からの拍手と歓声が自分とその隣にいる理子に向けられていることに気が付いたことをきっかけに明らかに時間差で自分と、つい先日見事に告白に失敗した思い人理子が、学年劇の主役に選ばれたことを認識することになった。


「吉野君、どうしよう・・・」クラス代表日選ばれたときには一切動じていなかった彼女もさすがに動揺を隠せないでいるらしいことに気づき、かえって冷静な気持ちになることができた。というよりも、自分まで動揺をして再びみっともない姿を披露してしまわないように、と冷静を心掛けるように努めたのだった。「正直俺もびっくりしたけど。というか、同じクラスから主役を出して良いのかな。」恭弥と同じように感じた生徒もいたようで「主役二人が同じクラスからって良いのか?」1組の浜野がやや不満げ黒野に投げかける声が聞こえた。彼は二学期が始まってすぐ理子に告白をして玉砕したと太一から聞いていた野球部のエースで、同じクラスというよりは理子の相手に対する不満が大きかったのであろうことはすぐに分かった。「浜野君のいいたいこともよくわかるよ。でも監督が決めたことだから仕方ないの。それにこの学年劇は皆主役に近い役回りになるから安心してもらっても良いと思う。」監督というのはこの学年劇の脚本を書いてくれたという彼女の知り合いのことだろうと理解したが、理子はともかく、自分が主役に抜擢されたことに異論があったのはつい今しがた声を上げた浜野だけではなかった。「黒野さん、東城さんはともかく、俺が主役っていうのは自分としても疑問が残るんだけど。」正直に言うと主役に選ばれたことに悪い気はしていなかった。何より理子と同じ舞台で肩を並べられるということがこの上なく幸せなことだと感じていたが、その理由を知りたいという気持ちも小さくなかった。例えば他クラス代表には栄太もおり、少なくとも容姿において自分より優れた生徒がいると恭弥自身が感じていたからだ。恭弥の発言を受け、隣の理子は困惑している様子に見えたことから今の発言は適切でなかったかもしれないと反省することになったのだが、「ええっと、先に選考方法を説明しておけば良かったね。混乱させてごめんなさい。」意図せずとも彼女を責めるような形になってしまったことを悪いと思いつつも話の続きを聞くことにした。「その前に、皆に演じてもらう劇について説明させてもらう必要があるんだけど、思秋期を迎えた高校生の恋愛模様を描いたもので、幼馴染二人を中心に私たちくらいの男女の気持ちの変化を表現する内容になってるの。主役の二人にはその幼馴染を演じてもらうんだけど、監督が思う幼馴染の雰囲気に吉野君と東城さんがぴったりだった、っていうことで決まったわけです。オーディションとかがあったわけじゃないから、どうしてって思う気持ちになることもわかるけど、学校で用意していた今までの行事の映像や写真を見て、監督が真剣に選んでくれたっていうことを分かってもらいたいです。」見るからに真剣に力説する黒野を見て異論を唱える生徒は一人もいなかった。いったいどんな雰囲気であると受け取られているのか、疑問はあったがこれ以上の配役に関することで彼女を困らせるのは良くないことである、というのはこの場にいる皆同じ思いであっただろう。事前にもう少し詳しく配役に関して説明しておくべきだった、と謝罪をした彼女はその他の配役についても順番に説明してくれた。


「恭弥、大役だな。頑張れよ。」「理子ちゃんおめでとう。大変だろうけど頑張ってね。」約1時間の打ち合わせが終了したころ、2組の代表である栄太と由依が声を掛けてきた。「正直まだ実感がわかないよ。俺よりふさわしい奴なんていっぱいいるだろうし。」時間の経過とともにより冷静になるが、それと同時に後ろ向きな発言をせずにはいられなかった恭弥とは対照的に「由依ちゃんありがとう。吉野君も黒野さんのためにもしっかり頑張らないと。」すでに吹っ切れている様子の理子に恥ずかしくも激励されてしまうのであった。


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