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あの空を、僕は決して忘れない  作者: ヤマノ コダマ
7/9

内緒だよ

授業が終わり恭弥はセンターホールにいた。先週とは違い各クラスの体育委員も集合しており、文化祭の打ち合わせが行われることに違いがないことが明らかであると安堵していた。隣に座る理子も同じ気持ちだった様子で「今日は打ち合わせがあるみたいで良かったね。」と小声で話しかけてきた。「だね。先週は散々だったから、ほっとしたよ。」恭弥は理子と二人きりで話ができたことを嬉しく思っていたが、それを伝えるのは恥ずかしいし迷惑に思われるはずなので伏せて答えたが、「そうだね。でも、私は吉野君と話ができたし嫌じゃなかったよ。」理子から思いもよらない言葉が返ってきたため、どう反応すべきか困ってしまった。本来なら告白を断った相手と一緒に居るのは気まずいと思うだろうし、気を使って言ってくれているのだろうとざわざわする自分の気持ちを抑えるための結論にたどり着いたが、「あ、ありがとう。」とどう考えても適切と言えない返事をしてしまった。「皆集まってるみたいなので、そろそろ文化祭の打ち合わせを開始します。」ようやく文化祭の打ち合わせが開始することで気まずいと感じていた感情をやや鎮めることができた。


「文化祭の打ち合わせはどうだった?順調に進んだか?」翌朝太一から昨日の文化祭の打ち合わせについて質問を受けた。「まぁまぁかな。とりあえず大枠は決まったが、あとはクラスの出し物を決めないといけないって感じだな。」昨日打ち合わせ前に理子から言われた言葉の真意は分からないが、とても嬉しかった。今なら告白してOKをもらえるのではないかと勘違いしてしまうほどお衝撃でもあった。その感情が漏れないよういたって冷静に太一に答えた。「大枠って、どんなことすんの?」「劇だな。」「劇ってありきたりかよ。」「まぁそういうなよ。クラスじゃなくて学年全体で一つの劇をやるんだって。だから結構な規模のものになるし、でき次第だけどすごいものになるんじゃないか。」太一が言うように文化祭で劇なんてありきたりだと思う。ただ、学年全体でやるとなるとそうでもないのかなとも思っている。「ふーん。で、作品は決まってるの?」「作品はオリジナルの青春群青劇だってさ。何でも知り合いに脚本家がいるっていう実行委員がいて、協力してくれるらしい。まぁ学生の演劇なんて童話がせいぜいだと思うし、そんな壮大なものは難しいんじゃないか?」「ふーん。で、役者も決まってるのか?」「いや、役者はまだ。各クラスから4名ずつ、合計32名ってのと、各クラスの代表は推薦と投票で決めるってとこまでだな。」「なるほどな。出演者は限られてるが、裏方なんかもいるから学年全体で盛り上がること請負って感じか。」「そういうことだな。夕方のホームルームで皆にも説明するけど推薦するやつ考えておいてくれ。」「了解。頑張れよ。」「ん?あぁ。」この後クラスに文化史の学年劇の説明をすることになるための激励だろうと受け取り太一の言葉に答えた。


「・・・という訳で、あまり時間がなくて申し訳ないけど、文化祭の学年劇に出演するクラス代表者を4名書いて、明日までにこの投票箱に入れておくようお願いします。来週にはクラス代表者を発表できると思うので、代表に選ばれた方は、栄誉あることだと思って本番に臨んでほしいと思います。」クラスメイトといえども、改めて人前で話をすることに緊張はしたものの、文化祭に関する説明はひとまず及第点と言ってよいだろう。顔を見知ったクラスメイトだけを相手にこの緊張感であれば、本番の学年劇に出る各クラスの代表者はまさに地獄といっても良いだろう、今週末には決定するこのクラスの代表者のことを不憫に思うのであった。ホームルームが終わり、理子から「吉野君、今日はありがとう。皆への説明も分かりやすくてすごく助かっちゃった。」と声を掛けられた。「いや、普段東城さんに頼りっぱなしだし、たまには役に立たないとね。そう言ってもらえると嬉しいよ。」最近では、つい2か月前の告白がまるでなかったかのように理子が恭弥に話しかけてくれることが多くなったと思う。理由は分からないし、あまり調子に乗らないようにと常に自分に言い聞かせているのだが、このままの関係が続くと、もしかしたらまたチャンスがあるのか、と期待しないことがないとは言い切れないのであった。「それじゃあ、明日の夕方一緒に開票作業しようね。」とどこかはにかんだ様子で笑って教室を出て行った。翌日開票作業を終えた恭弥は絶句した。「吉野君、選ばれちゃったね。おめでとう。」理子に褒められることは何よりも嬉しかったが、こればかりは素直に喜べない、というよりも何かの間違いであってほしいと心から願った。「嘘・・・なんで俺が・・・。」「あははっ、そんなに嫌がらなくても。」包み隠さず絶句している恭弥の姿がよっぽど面白かったのか、目の前には顔を真っ赤にしてお腹を抱えて笑う理子がいた。その姿を見て自分の姿がよっぽど間抜けだったのだろうと省みて、冷静を取り戻すように努めた。「てか東城さんも選ばれてるけど、大丈夫なの?」「選ばれたものは仕方ないよ。というよりも、誰かさんが栄誉なことだと思うように言ってなかったっけ?」いたずらっぽい様子を隠さず自分の発言に責任を持つように促された。「それを言われると、何も言えなくなる。」これ以上は男らしくないと思い、腹を決めることにしたが、「ふふっ。それに、吉野君と一緒に劇ができるの楽しみだから。」理子の発言に自分の心臓の音が聞こえる程ドキッとした。「えっ、そ、それってどういう意味か聞いて良いのかな?」つい先ほど男らしさを決め込む覚悟でいた者の姿には程遠く、明らかに動揺しながら彼女の真意を聞きたいと思った。「内緒だよ。」どこか照れくさそうに微笑みながら答えた理子は「もう遅くなっちゃったからそろそろ後片付けしないと。」と続けその日の恭弥はモヤモヤを抱え帰宅することとなった。

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