幼馴染
今日は昨日と打って変わって雲一つない快晴だ。朝のホームルームが終わったタイミングで太一が見るからにだらけた様子で話しかけてきた。「今日はやけに暑いよなー。今って10月じゃなかったっけ?体感8月なの俺だけ?」「8月かは知らんが、暑いのはお前だけじゃないから安心しろ。」「そうか。ならよかった。」今日の太一はやけに素直で気持ち悪いが、それだけ暑さにやられてるんだろうなと自分の中で合点を持つことにした。1限目が始まるまでもう少しという時に理子から声をかけられた。「吉野君おはよう。今良いかな?」「お、おはよう。どうかした?」「文化祭の準備の件で放課後センターホールに集合掛かってるみたいで、予定空いてるかな?」「あ、そうなんだ。俺は大丈夫だけど急だね。」「先生が伝えるの忘れてたみたいで、私もさっき聞いたところなの。部活もあるのにごめんね。」「東城さんが悪いわけじゃないから。気使ってもらって申し訳ないくらいだよ。いつもありがとう。」部活に遅れることになるが理子と一緒にいれるのは悪い気はしない、というか嬉しい。「おいおい、お二人さん、ここを常夏にする気か。」そばでやり取りを聞いていた太一が茶々を入れてきた。「よ、吉野君、それじゃあまた後でね。」理子は急ぎ足で自分の席に戻っていった。「ただの事務連絡を変に解釈するな。」と呆れながら太一の頭をこずくが、「邪魔して悪かったな。でもこれ以上教室を暑くしないでくれ、親友よ。」と全然こたえていない様子がありありと分かった。
夕方のホームルームが終わり理子と一緒にセンターホールに到着したが、まだ誰の姿も見えなかった。「早く着きすぎちゃったかな。」「そうみたいだね。しかし、今日はやけに暑かったなー。」「ほんと、10月とは思えないくらいの暑さだったよね。」涼しげに過ごしているように見えたが理子も暑さに耐えていたと知って何だか親近感を覚えた。「昨日は帰り大丈夫だった?あの後雨は降らなかったかな?」「あ、うん、大丈夫だったよ。吉野君は大丈夫だった?」昨日ファミレスで別れた後、恭弥は電車、理子や由依は自転車で帰路についた。恭弥と理子たちの住んでいる地域がかなり離れているため天気が一緒とは限らないのだが、理子たちが雨に濡れなかったことに安堵した。「こっちも大丈夫だったよ。太一も言ってたけど、東城さんって由依と仲良いんだな。ちょっと意外だったけど嬉しかったよ。」「やっぱり意外なんだ。嬉しかったってどういうこと?」「あいつ自分以外には気を使いすぎてよくから回るんだよね。大勢でいるときはそうでもないけど少人数だとそれが顕著で、自分から友達になりたいって思った人としか出かけたりしないし、だから東城さんとは仲良くなりたいんだろうなって思って。ああ見えて友達が少ないってのが意外と思われるんだけど、俺からしたら・・・ん、どうかした?」「ほんと由依ちゃんのことよくわかってあげてるんだね。なんだか嫉妬しちゃう。」「いやいや、単なる腐れ縁だから。そんな良いものじゃないよ。東城さんには幼馴染はいないの?」「吉野君みたいに理解してくれてるような幼馴染はいないかな。だから由依ちゃんが羨ましい。」理子が何を考えて発言したのか全く持って予見できなかったが、こんなに長く二人きりで話したことがなかったためこれ以上にない程の高揚感と緊張感を抱えていた。「にしても、皆来ないな。」「ほんとだね。」センターホールに到着して30分はたったが、いまだにどのクラスの体育委員も姿を現さない。そこに担任の江田が慌てた様子で走ってきて「東城さん、吉野くん、ごめん、文化祭の打ち合わせ来週だった・・・。」と告げられた。
「昨日は大変だったみたいだな。」「あぁ。ひどい目に遭った。」朝から教室前の廊下で太一に愚痴をこぼしていたが、にやにやした顔で「その割には何だか良いことがあったみたいな顔してないか?」と変に勘繰られてしまった。「んなわけないだろ。」とシャットアウトしたタイミングで「おはよう、吉野君、昨日は大変だったね。」と普段よりも遅めに登校してきた理子から挨拶を受けた。「お、おはよう。ほんとお疲れ様。」日ごろから妄想癖のある友人にあらぬ誤解を与えぬよう意識的にごく自然に返事をしたのだが妙に太一からの視線を感じることとなった。「なんだよ?」「いや、別に。」「言いたいことがあるなら遠慮せず言った方がいいぞ。」「・・・じゃあ言わせてもらうが、東城さんには俺は見えていないのか?」どうやら自分にあいさつされなかったことを気にしてるらしい。「そうなんじゃないか?お前の立ち位置が悪い。」とたしなめた。すると続いて由依が歩いてくるのが見えた。「おはよう、恭弥。」「おう、おはよう、寝坊か?」「そうよ。誰のせいだと思ってるの?」朝から訳も分からぬままにらまれることとなり、ただただ混乱するほかなかったが「七瀬さんにも俺は見えてないないのか?」隣の友人を思うと不憫に思う気持ちが勝ってしまい、それどころではないなと思うこととした。




