第一章
小学三年生の夏休み明け、神谷愛はやってきた。真っ黒の髪の毛を高いところで結んだポニーテールに真っ白のワンピースを着て黒板の前に立った。
「神谷愛です。好きなことはみんなと一緒におしゃべりすることです。よろしくお願いします」
その堂々とした姿に僕は一目ぼれした。クラスの男子が神谷に目を向けては、騒いでいる。
「それじゃあ神谷さんは…あそこの席に座ってください」
先生が指をさしたのは僕の隣だった。昨日までなかった椅子と机が置いてあったのはこういうことだったんだ。やっと理解ができた。
「よろしくね、あなたのお名前は?」
緊張する僕に神谷は優しく話しかけてくれた。それからというもの神谷はすぐにクラスの人気者となり、クラスの中心人物と早くもなった。休み時間になるとすぐに神谷のもとに女子や男子が集まり僕の席も占領されることが度々あった。
それでも僕は少しでも神谷と仲良くなりたくて自分からたくさん話しかけに行った。
「透夜君っておもしろいね」
神谷にそう言われたときは本当にうれしかった。もっと喜んでほしくて誕生日の時はプレゼントもした。
「ありがとう!大事にするね」
その時の笑顔はすさまじく僕の心臓をうった。本当に神谷のことが好きなんだと改めて感じたものだ。
けれどそんな日はあっという間に過ぎ神谷は転校することになった。悲しくてずっと泣いていたお覚えがある。その時神谷は泣く僕を見て
「透夜君、離れ離れになっても私たちはずっと友達だよ。私透夜君のこと絶対忘れないから。お互い幸せになろうね、約束だよ」
そう言ってくれた。こうして神谷とお別れした。
あれから6年、僕は高校生になっていた。あれ以降、神谷とは連絡も何も取っていない。どうせあったところで忘れているだろう。それに今の俺の姿を神谷に見せたくない。なぜなら今の俺はいじめられているから。原因はわからない。ただただ気に食わないのだろう。
「おい、パンかってこいよ」
いつものようにパシリにされる。一度断ったことがあるがひどいめにあい、それ以降いうことを聞くしかなかった。
「はい…」
「おっせえな。もっと早く買って来いよ。こっちは腹が減ってるんだよ」
だったら自分で買って来い。なんて言えるわけがない。
「すいません」
「ちっ、使えないやつだな」
一発殴られる。とても痛い。クラスの人たちは助けてくれない。ただただ見ているだけ。当然だ。僕なんかを助けたら次は自分が的にされるかもしれないのだから。みんな自分を守るのに必死なんだろう。
そんな地獄のような日々に彼女がやってくるまでは。
「転校生を紹介します。どうぞ入ってきて」
「こんにちは。初めまして。神谷愛です」