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僕は猫なんです。だから、子守とかマジ勘弁してください、お願いします

読み方

発言者 「」普通の会話

発言者 ()心の声、システムメッセージ

発言者 <>呪文

『』キーワード


ノヴァ (はぁ~。猫に生まれ変わったのに、なんでこんなことに……。嘆いていても仕方ない。町の住人がダメなら森の狩人に取り入ろう。ネズミ除けとして置いてくれるかもしれない。ネズミ除けと言えば船に拾ってもらうのも手だけど、海がどこにあるのか分からないし、まずは近場から探していこう)


 ノヴァは町の近くにある森に向かった。森に入ってすぐに山小屋を見つけた。小屋は木造平屋建てだったが、それなりに手入れされ小ぎれいだった。小屋の近くに井戸と小さな畑があり、春の野菜のジャガイモとアスパラガスが植えられていた。


ノヴァ (お、人が住んでそうだな)


 ノヴァは期待に胸を膨らませて、小屋の様子を伺っていた。


ノヴァ (人気ひとけは無いな、ちょっと近づいてみるか)


 ノヴァが小屋に近づくとすぐに異変に気が付いた。


ノヴァ (あれ?これって血の匂い?しかも、小屋の中からだ……)


 ノヴァは小屋の入り口の扉の前にちょこんと座り猫の鳴きまねをした。


ノヴァ 「にゃ~、にゃ~」

ノヴァ (反応が無い。無人か?ちょっとお邪魔しますよ~)

ノヴァ <エグゼ、ウインド、ドア、スクエア、ゼロ、オープン>


 魔術によってドアが開くとそこには初老の男性の死体があった。男性は椅子に座りテーブルに突っ伏して血を流して死んでいた。死因は後頭部の打撲の様だった。


ノヴァ (あ、あ、どうして……)


 ノヴァは飼ってくれる人(予定)が既に絶命している事実に驚愕していた。


ノヴァ (仕方ない。誰に殺されたか分からないけど、死体は埋葬しよう)


 ノヴァは落胆しつつも魔術を使って死体を小屋の外に運び、魔術で死体を焼却し、魔術で穴を掘って骨を埋めた。そして、墓標まで作り心の中で冥福を祈った。


ノヴァ (どうしよう。僕を飼ってくれるご主人様に、どうやったら会えるんだろう?このままじゃ自分で狩りをして暮らすしかなくなる……。ああ~嫌だな~。しょうがない、海を探しに行くか……)


 ノヴァが海を探す旅に出ようと思った矢先、森の中から女の子の泣き声が聞こえた。


女の子 「うわ~ん、マリー、マリー、どこなの~、へんじじで~」

ノヴァ (迷子か?こんな魔物がウヨウヨ居る森に連れてくるなんて非常識な親だな、仕方ない僕が保護しよう。あわよくば猫として飼ってもらえるかもしれない)


 ノヴァは親切心で助けるという建前で女の子を助けようとしていたが、実際は下心しかなかった。猫として楽をして生きる。それだけがノヴァの望みだった。


ノヴァ 「にゃ~ん」

ノヴァ (猫として取り入ろう。魔獣とバレれば面倒だ)

女の子 「マリー、マリー」


 女の子はノヴァに目もくれず泣き叫んでいた。


ノヴァ (足への頬ずり攻撃はどうだ?)

女の子 「マリー、どこ~」

ノヴァ (ダメだ。パニックを起こしている。こうなったら仕方ない、話しかけよう。両親に会ったら猫の振りをすれば問題ないはず。子供はお人形とか喋らないものと会話してるし、猫が喋ったと言っても信じないだろう)

ノヴァ 「どうしたの?お嬢ちゃん。僕で良かったら力になるよ?」

女の子 「うぁ~~~。マリーとはぐれちゃったの~」

ノヴァ 「マリー?君のお母さん?」

女の子 「ぢがう~~。マリーはメイドで、あだじをおどうざんどおがあざんのどごろにづれでいってぐれるっで~~~」

ノヴァ (ふむ、マリーはメイドで父親と母親の所に連れて行く途中だったのか)

ノヴァ 「分かった。マリーは僕が探してあげるよ。マリーはどんな姿をしてるんだい?」

女の子 「マリーは、メイドふぐぎでで~。ピング、いろの、がみをじでで~、えっぐ、とってもぎれいなの~~」

ノヴァ 「分かった。探してくるから、待っててね」

女の子 「まっで、おいてっちゃやだ~」

ノヴァ 「一緒に来るかい?」

女の子 「いやだ。もうづがれた。あるぎたぐない」

ノヴァ 「困ったな~。僕じゃ抱っこもオンブも出来ないしな~」

女の子 「疲れた!オンブ!ダッコ!」


 女の子は甘える対象が出来たことで少し安心しワガママを言い始めた。


ノヴァ (うわ~~。失敗した~~~。子供ってワガママで面倒な存在だった~~~。ショッピングモールで迷子を見つけた気分だ……。かといってこのまま放置するのも心が痛い。仕方ない、奥の手を使うか……)

ノヴァ 「これから起こることを秘密に出来るかい?」

女の子 「何が起きるの?」

ノヴァ 「抱っこしてあげるから秘密に出来る?」

女の子 「うん」

ノヴァ <エグゼ、ダークネス、ボディ、ヒューマン、ゼロ、トランスフォーム>


 ノヴァは白いロンゲの好青年に変身した。服は純白のローブを着ていた。目の色は猫の時と同じ青だった。


ノヴァ 「さあ、おいで」


 ノヴァは両手を広げて女の子を抱っこしようとした。


女の子 「すごい!猫が人になった!」

ノヴァ 「内緒だよ?」

女の子 「うん!」


 女の子はすっかり機嫌を良くしてノヴァの胸に飛び込んだ。ノヴァは女の子をお姫様抱っこした。


ノヴァ 「落ち着いたみたいだね。僕はノーブルヴァイスっていうんだ。ノヴァって呼んでいいよ。君の名前は?」

女の子 「クローネイム、5さいです。クロネって呼んでいいいよ」

ノヴァ 「よろしくね。クロネ」

クロネ 「ノヴァ、お腹空いた。ゴハン」

ノヴァ (抱っこの次は、ゴハンか……。僕の方がゴハン貰いたいんだがな~。ここはメイドのマリーさんに頑張ってもらおう)

ノヴァ 「マリーって人を見つけたら、作ってもらうといいよ。先にマリーを探そう?」

クロネ 「嫌だ!お腹空いたの!ゴハン!ゴハン~」


 クロネはお姫様抱っこされながらジタバタと手足を動かして駄々をこねた。


ノヴァ (ダメか……。仕方ない、さっきの小屋に戻って何か作ろう。確か、それなりに食材があったはず)

ノヴァ 「分かったよ。先にゴハン作るから静かにしてくれるかい?」

クロネ 「うん」


 クロネは自分の要望が通ったことに満足し大人しくなった。


クロネ 「ハンバーグ、ステーキ、コーンポタージュ」


 クロネは上機嫌に好物の名前をメロディーに乗せて歌い始めた。


ノヴァ (勘弁してくれ……。独身で自炊してたとはいえ、手の込んだ料理は作りたくないぞ……)


 ノヴァはお姫様抱っこしたまま小屋までクロネを連れて行き、小屋の中にあったテーブルに座らせた。テーブルは死体を片付けた時に魔術で綺麗にしていた。その時に、家に置いてある物を一通り確認していた。


ノヴァ 「少し待っててね。何か作るから」

クロネ 「ハンバーグ食べたい」


 クロネはキラキラした目でノヴァに注文を伝えた。


ノヴァ 「ごめんね。この場所に肉は置いてないんだ。だから、あるもので我慢してね」

クロネ 「や~!ハンバーグ!」

ノヴァ 「無いものは出せないんだ。ごめんね」

クロネ 「う~~~」


 クロネは泣きそうな顔でノヴァを見た。


ノヴァ (これだから、子守は嫌なんだ……。こいつら駄々をこねれば要求が通ると思ってやがるからな~。それに、ここに挽肉は無いから、何を言われても出せないんだけどな……)

ノヴァ 「ハンバーグは出せないけど、オムレツなら作れそうだから、それで我慢して」

クロネ 「オムレツ?」

ノヴァ 「そう、オムレツ。知らない?」

クロネ 「知らない」

ノヴァ 「美味しんだよ。フワフワでトロトロだよ?」

クロネ 「フワフワ、トロトロ……。楽しみ!クロネ、オムレツ食べたい!」

ノヴァ 「よし、良い子だ。今から作るから待っててね」

ノヴァ (よし!上手く行った!オムレツなら自分でも好きで良く作っていた。卵とバターだけで作れるし、何よりかき混ぜて焼くだけだ。まあ、フワフワ、トロトロにするのにはコツがあるが、それは問題ないからな)


 ノヴァは、小屋の中にある簡素な台所に立った。そこには冷蔵庫に似た形の木箱があった。


ノヴァ (文明は中世レベルだけど、意外と魔術を利用した便利家具はあるんだよな~。これが冷蔵庫の機能を持っているのにはビックリしたけど、中に卵とバターとチーズ、それにケチャップまで入ってたのは幸運だったな~。普通のオムレツだとハンバーグには負けるかもしれないからチーズ・イン・オムレツを作ろう)


 ノヴァは材料を冷蔵庫から取り出し、ガスコンロの様な鉄製の箱にフライパンを置いた。


ノヴァ (たぶん、これが配置的にコンロだろうな……。どうやって使うかだが、冷蔵庫には魔術文字が刻まれていた。このコンロにも魔術文字が刻まれている。こういうのって魔力を込めれば発動するのが異世界ファンタジーの定番だよな?)


 ノヴァがコンロに魔力を流し込むと、火が付いた。


ノヴァ (よしよし、流し込む魔力の量で火力は調整できるみたいだな)


 ノヴァは、器用にチーズ・イン・オムレツを完成させた。そして、それとは別にパンと苺ジャムもあったので、それも皿に乗せてクロネの元へ運んだ。


ノヴァ 「オムレツ出来たよ」

クロネ 「美味しそう」


 クロネは嬉しそうに手を叩いて喜んだ。そして、ノヴァをじっと見て口を開けた。


ノヴァ (ま・さ・か、これは口に運べというのか!?仕方ない、5歳だもんな、仕方ない……)


 ノヴァは渋々、オムレツを1口分スプーンにすくい、クロネの口に運んだ。クロネはスプーンを頬張り美味しそうに食べた。


クロネ 「おいちい。もっと」


 そう言って、再度、口を開けた。


ノヴァ (ヒナにエサを運ぶ親鳥になった気分だ……。さて、クロネがモグモグしている間に自分の分のオムレツを食べるか、この世界に来て初めて調理済みの食事だ。味覚は以前のままかな?)


 ノヴァは、クロネがモグモグしている間に、自分の分のオムレツを食べた。


ノヴァ (うむ、旨い。我ながら半熟加減が完璧だ。外は焦げ付くこともなくふっくらで、中はトロトロの半熟、腕は落ちてないようだ。やっぱりチーズと卵の組み合わせは最強だな、というかチーズが最強だな。ハンバーグにも合うし、この小屋に居た人、ありがとう)


 ノヴァは、クロネに食べさせ終わると、食器を洗って片づけをして、マリーを探しに行こうとした。


ノヴァ 「クロネ。これから僕はマリーを探しに行く。クロネは、ここで大人しく待ってるんだよ?」

クロネ 「ねむ~。おひるね。おひるねがいい」


 そう言って、クロネはノヴァの腕をひいて、ベットを指さした。


ノヴァ 「はいはい」


 ノヴァはクロネをベットに運んで毛布を掛けた。


ノヴァ 「じゃあ、良い子にしてるんだよ?」


 そう言って、ベットから離れようとした。


クロネ 「クマさんは?」

ノヴァ 「クマさん?」

クロネ 「いつも、クマさんのぬいぐるみを抱っこして寝てるの」

ノヴァ 「ここには無いよ?」

クロネ 「いや!ぬいぐるみ無いと寝れないの!」

ノヴァ (うが~~~~!どうしろってんだ!ぬいぐるみの代わりになる物なんて……。あ、あったわ。だけど、マリーは探しにいけないな……)

ノヴァ <リリース>


 ノヴァは変身の魔術を解除して猫に戻った。


ノヴァ 「僕が一緒に寝てあげるよ」

クロネ 「猫さんだ~。モフモフ、温かい」


 クロネはノヴァを抱き寄せて眠りについた。


ノヴァ (よし、寝たな。今のうちに抜け出して……)


 ノヴァはクロネから離れようとした。


クロネ 「どこ行くの?」

ノヴァ (なぜ、気が付いた!)

ノヴァ 「どこにも行かないよ」

クロネ 「行ったらメだよ」


 そう言ってクロネはノヴァを抱きなおして眠りについた。


ノヴァ (よし、今度こそ)


 ノヴァが動くとクロネは、それを感知して目を覚ました。


クロネ 「……」


 クロネはノヴァをじっと見た。


ノヴァ 「どこにも行かないよ」


 ノヴァの言葉を聞いて、クロネは再度眠った。


ノヴァ (ダメだ。動けない……)




 ノヴァがクロネを見つけたのは昼だった。そして、クロネは夕方まで眠り、起きたら夕ご飯を要求し、お風呂を要求し、それが終わると、そのまま眠りについた。その間、ノヴァは片時も休まることが無かった。むろん、夜でもノヴァを抱っこして眠り、抜け出そうとすると起きてきた。


ノヴァ (僕は猫なんです。だから、子守とかマジ勘弁してください、お願いします)


 ノヴァの切実な願いは誰にも届くことは無かった。


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