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僕は猫に生まれ変わったんです。だから、可愛がってください、お願いします(切実)

読み方

発言者 「」普通の会話

発言者 ()心の声、システムメッセージ

発言者 <>呪文

『』キーワード


■■■ 「後、このクラスを完成させれば終わる……」


 照明の消えたビルの一室で、その男は仕事をしていた。時間は朝方の4時だった。朝早く出社したのではなく、前日からずっと仕事をしていた。周囲には同じようにディスプレイの画面の光だけを見つめてキーボードを操作している人間が居た。


■■■ (クソ眠いな……。でも、これが終わらないと寝れな……)

社員A 「おい、■■■!あと、どれくらいで終わりそうだ?」


 返事がない、ただの屍のようだ。


社員A 「おい!寝てんのか?起きろ!」


 返事がない、ただの屍のようだ。


社員A 「そうか……。逝ったか……」


 社員Aは携帯電話を取り出して上司に報告する。


社員A 「課長、■■■が不良品になりました。交換をお願いします」

課長  「そうか、それは気の毒に……。すぐに交換しよう」


 真っ白な空間に■■■は立っていた。目の前には椅子に座った女神が居た。


女神  「おお、■■■よ。死んでしまうとは何事だ……」

■■■ 「あれ、さっきまで仕事してたはず……」

女神  「あなた、過労で死んだのよ?」

■■■ 「そうですか、残念ですね~」

女神  「あれ?意外と軽いノリだね」

■■■ 「まあ、家族も恋人も居ませんでしたから未練はありませんよ」

女神  「そう、可哀そうだから次の転生では願いを叶えてあげようと思ったんだけど、何か希望はある?」

■■■ 「なんでも良いんですか?」

女神  「なんでもとは言えないけど、とりあえず希望を言ってみて~。どこまで叶えられるか教えてあげる」

■■■ 「なら、僕は猫になりたい!」

女神  「猫?」

■■■ 「そうです!猫です!可愛いってだけで餌をもらえて、どこに行くのも自由で、何物にも縛られない最強の種族、猫になりたい!」

女神  (ふむ、最強の種族の猫になりたいのね)

女神  「それが、君の望みなら叶えてあげる」

■■■ 「ありがとうございます」




■■■ (願いは叶ったみたいだ。白猫か、悪くない。親は目の前の白猫か……)

親猫  「さあ、坊や、お食べ」


 親猫は■■■の目の前にネズミの死体を置いた。


■■■ (ネズミの死骸か、おかしい。美味しそうに見える。人間だった時は美味しそうに見えなかったけど、猫になったから感覚も猫になってるんだな)


 ■■■は不思議に思いながらも本能の欲求従ってネズミを食べた。


■■■ (旨い!もっと欲しい)

■■■ 「みゃ~、みゃ~」

■■■ (ああ、猫だから言葉は発せられないのか……。いや、でも親猫は言葉を話しているな……。大きくなったら喋れるようになるのか?)

親猫  「そう、美味しかったの。良かった。もっと持ってくるわね。ノーブルヴァイス。私の可愛い坊や」

■■■ (ノーブルヴァイス。僕の名前なのか?英語とドイツ語が混じってるな、意味は高潔な白か、猫のわりに中々良いネーミングセンスだな)


 1カ月たち■■■は大きくなり、言葉を話せるようになっていた。親猫との会話で分かったことは、自分の名前がノーブルヴァイスで、ニックネームはノヴァという事と親猫の名前がエルデだという事だった。不思議な事に兄弟は居なかった。育った場所は背の高い草が覆い茂った草原だった。


ノヴァ (なんか、普通の猫っぽくないんだよな~。普通の猫は4~5匹は産むよな、なのに僕は一人っ子だ……。それに、母さんが魔法っぽいものを使ってたりするし、エサに魔物っぽいのが出てくるんだよな~。おかしい、僕は猫に生まれ変わりたいと言ったけど異世界転生したいと言った覚えはないんだが、女神様は何で僕を異世界に送ったんだ?考えても仕方ない、とりあえず聞いてみよう)


ノヴァ 「母さん、僕って猫だよね?」

エルデ 「何を言ってるの?あなたは動物ではありませんよ。知性を持った高貴な魔獣白の破壊者ヴァイス・ツェアシューターなんですよ、もう少ししたら狩りのしかたと魔術の使い方を教えます。それまでは、いっぱい食べて大きくなりなさい」

ノヴァ 「分かりました」

ノヴァ (完全に異世界だな……。まあ、異世界でも猫は猫だ。きっと人間が可愛がってくれるはず。人生ならぬ猫生はイージーモードのはずだ……)




 そして、ノヴァが生まれてから1年が経過した。


エルデ 「ノヴァ!いい加減出ていきなさい!」

ノヴァ 「母さん、ずっとここに居たらダメ?」

エルデ 「ダメです!いい加減に私の縄張りから出ていきなさい!狩りの仕方も魔術の使い方も教えたでしょう?」

ノヴァ 「やだよ。一人で生きていく自信がないよ」

エルデ 「甘えるんじゃありません!あなたは高貴な魔獣白の破壊者なのですよ!ちゃんと自分の縄張りを手に入れなさい!」

ノヴァ 「明日、明日には出ていくから、今日は居させて」

エルデ 「ダメです!そう言って既に1カ月。今日は許しません!出て行かないのなら……」

エルデ <エグゼ、サンダー、フロント、ライン、フォワード・ワン・メートル、ペネトレイト>


 エルデは魔術を発動させた。エルデの眼前に青白い稲光が発生し、ノヴァに向かって直線の軌跡を描いた。そして、ノヴァに直撃した。


ノヴァ 「あばばばばばば」


 ノヴァは魔術の直撃を受けて感電した。


エルデ 「出て行かないなら、もう一度撃ちますよ?」

ノヴァ 「酷いよ母さん!実の息子に魔術を撃ち込むなんて!」

エルデ 「聞こえなかったの?さっさと出ていきなさい!じゃないと~」

エルデ <エグゼ、サンダー……>

ノヴァ 「分かった!分かったよ母さん!出ていくから撃たないで~」


 ノヴァは一目散にエルデから逃げ出した。


ノヴァ (ああ、猫になったのに狩りをしないといけないのか~。1年間は良かったな~。エサは母さんが取ってくれたし、1日中日向ぼっこできたし、本当に居心地よかったな~。それも、もう終わりか……。

 やだな~。獲物を求めて草原をさまようのか、辛いな~。はぁ~。誰か拾ってくれないかな~。そうだ、人間の町に行ってみよう。飼い猫になればエサはもらえるし、きっと可愛がってもらえるはずだ。そうだ、それが良い人間の町を探そう!)




 ノヴァは草原を歩いて、人間の町を探した。草原には魔物も居たが、白の破壊者は食物連鎖の上位に位置しているので襲われることは無かった。ノヴァは人間が通っていると思われる草の生えていない土を踏み固めただけの道を見つけた。その道をたどって人間の町に到着した。


ノヴァ (よし、人間の町に着いた。後は適当に歩いていれば誰か拾ってくれるはずだ)


 ノヴァは人間が自分を拾うのは必然だと思っていた。白い毛並みの可愛い猫が歩いているのだ。日本なら小学生がお菓子をくれて、優しい大人が居れば拾って飼ってくれるのだ。この世界でも同じだと信じて疑わなかった。


ノヴァ (ふむ、文明レベルは中世っぽいな。馬車が走ってるし、建物は石と木材だけで出来てるな。あと、人間以外にも色んな亜人がいるんだな~、さすが異世界だ。

 さて、どんな人が拾ってくれるかな~楽しみだな~。出来れば女の人が良いな~。王族とか貴族に拾われてリッチなご飯を食べれたら最高だな~。あと、エルフとか亜人に拾われるのも面白いかもしれないな)


 ノヴァは希望に満ちていた。しかし、暫く歩いて気が付いたことがあった。


ノヴァ (おかしい。反応が無さすぎる。大人も子供も僕を見ても石ころでも見たかのように無反応だ……。なら、こっちからすり寄ってみよう、足に顔をこすり付ける技で魅了するのだ。まずは、あの定食屋っぽいお店のお姉さんにアタックだ)


 ノヴァは店に入ろうとした。すると、店員のお姉さんは木の棒を取り出し、血相を変えてノヴァに向かってきた。そして、大上段から木の棒をノヴァめがけて振り下ろした。


ノヴァ (え?なんで!)


 ノヴァは間一髪木の棒を避けた。


店員  「この泥棒猫!お前にやるエサは無い!さっさと出ていけ!」

ノヴァ (ええ!いきなり害獣扱い?確かにエサをもらおうと思ったけど、いきなり暴力はひどすぎない?)


 ノヴァが、まだ店の前に居ると、店員のお姉さんは、さらに木の棒を振り上げてノヴァを威嚇した。


ノヴァ (ああ、もう分かりました。どっか行くので許してください)


 ノヴァは尻尾を巻いて逃げ出した。


ノヴァ (ちきしょ~、この世界で猫はチヤホヤされないのか?こうなったら、子供を狙おう。子供なら犬とか猫とか好きなはず。ちょうどいい、あの女の子に近づいてみよう)

女の子 「あ、猫だ!猫が居る!可愛い~!」

ノヴァ (そうだよ、こういう反応を求めてたんだよ。よ~し、サービスするぞ~。くらえ!ほうずり攻撃~)


 ノヴァは女の子に駆け寄り、その足にほうずりを始めた。


女の子 「あはは、くすぐったい。可愛い~」

ノヴァ (よし、効いてるぞ!やっぱり僕は可愛いんだ!行ける行けるぞ!このまま家に連れてってもらうんだ!)

女の子 「よしよし、可愛い猫さん。抱っこしてあげるね」

ノヴァ (どうぞ、どうぞ、このままお家にお持ち帰りしても良いんだよ)


 ノヴァは作戦がうまく行ったと確信していた。女の子はノヴァの目論見通りに家にノヴァを連れて帰った。そこには女の子の母親が居た。


母親  「あら?どうしたの?その猫」

女の子 「なんかね。あたしに懐いてきたから連れてきたの」

母親  「捨ててきなさい。猫にあげるご飯なんて無いのよ」

ノヴァ (くっ!この家には猫を飼う余裕がないのか……)

女の子 「でも、この子、とっても可愛いよ?」

ノヴァ (ありがとう。女の子。見ず知らずの僕の為に頑張ってくれて……)

母親  「ダメよ!」

女の子 「でも……」

母親  「飼うなら、あんたのご飯減らす事になるけど良いの?」

女の子 「少しだけなら……」

母親  「いつも足りないって言ってるのに、あげられるわけないでしょ?」


 ノヴァは女の子を見た。よく見ると女の子は瘦せていた。そんな女の子を見て、ノヴァはいたたまれなくなった。


ノヴァ 「ごめんね。僕の為にご飯を減らしたらダメだよ。僕は別の人の所に行くから、君はいっぱいご飯を食べて」


 ノヴァは女の子に言葉が通じるとは思っていなかったが、母猫と話す感覚で、そう答えた。その瞬間、母親の顔色が変わった。


母親  「魔族よ!魔族が居るわ!誰か助けて!」

男性A 「おい!危険だ!逃げろ!逃げろ!殺されるぞ~」

女性A 「きゃ~~~~~~~、魔獣よ!魔獣が居るわ~~~」


 あたりは大混乱に陥り、女の子の近所に居た人間たちは大慌てで逃げ去った。ノヴァを抱いていた女の子は、母親が右手を引っ張り、連れて行った。女の子は右手を引っ張られたことによりノヴァを落とした。


ノヴァ (え?なんで?)


 ノヴァが呆然としていると、完全武装の冒険者と兵士が武器を掲げて殺気を放ちながらノヴァに向かってきていた。


ノヴァ (あれ?僕、何か悪い事しましたっけ?)

指揮官 「いたぞ!あれはが目標の魔獣だ!弓隊!魔術師隊!遠距離攻撃準備!」

魔術師 「準備よし!」

弓兵A 「準備よし!」

指揮官 「よし、撃て!」


 指揮官の号令で矢の雨と魔術の火の矢、石つぶて、風の弾丸がノヴァめがけて殺到した。


ノヴァ 「ちょ!まって!なんで?僕は何もしてないのに~~~~~」


 ノヴァは矢と魔術の雨をかいくぐり、どうにか指揮官の前に飛び出した。


ノヴァ 「待ってくれ!僕は、何も悪い事はしていない!」

指揮官 「黙れ魔族が!問答無用だ!死ねぃ!」


 指揮官は持っていた剣をノヴァめがけて振り下ろした。ノヴァは必死に避けて逃げることにした。


ノヴァ 「僕はネコだぞ!ネコと和解しろ~~~~~~」

指揮官 「逃すな!追撃しろ!絶対に生かして帰すな!」

一同  「了解!」

ノヴァ 「鬼!悪魔!僕が何をしたって言うんだよ~~~~~」


 ノヴァの叫びに答える者は居なかった。


ノヴァ (何とか、逃げ切ったか……。くそ~。魔族は人間と敵対関係にあるのか、というか僕は普通に人間と同じ言葉を話していたんだな……。次は気をつけよう。とりあえず言葉を話さなければ猫と認定されたみたいだし……)


 ノヴァが再び町を探索していると、空き地で猫が集会している所に出くわした。


ノヴァ (あれは、猫の集会ってやつだな、何か餌場の情報が聞けるかもしれない。この世界にも野良猫にエサをくれる人は居るはずだ)


 ノヴァが空き地の入り口から入ると猫たちが一斉にノヴァを威嚇してきた。


猫A  「ふ~~~~~!」

猫B  「しゃ~~~~!」

ノヴァ 「ああ、警戒しないでくれ、僕はノヴァ、さっきこの町に着いたばかりなんだ。同じ猫の仲間として助けてくれないか?」


 ノヴァは穏便に話しかけたが、猫たちの警戒は解かれなかった。


ノヴァ 「怪しいもんじゃないよ。君たちに危害を加えるつもりはないんだ。信じてくれないかな?」


 そう言って、ノヴァは1歩踏み出した。その瞬間、猫たちは一目散に逃げだした。空き地にはノヴァだけが取り残された。


ノヴァ (なんで、みんな逃げ出すんだよ~。はぁ~。どうしたら良いんだ……)


 ノヴァは途方にくれて町を歩いていた。


ノヴァ (何気に町を見て回ったけど、平民は苦しい生活してるみたいだな、ボロボロの服を着てやせ細ってた。これじゃあ、猫を飼う余裕なんてあるわけないよな~。金持ちとか居ないかな?あ、あの建物立派だな~。ちょっと見てみよう)


 ノヴァは大きな2階だての屋敷を見つけて2階の窓の縁を渡り歩いていた。そうして、窓越しに部屋の中に豪華なドレスを着た女の子を見つけた。


ノヴァ (おお、金持ちそうな女の子だ。この家なら猫も飼えるはずだ。こっちからアクション起こすと魔族認定されるかもしれんし、ここは窓で日向ぼっこしつつ女の子が僕に気付くのを待とう)


 ノヴァが日向ぼっこして待っていると女の子がノヴァに気が付き、メイドに話しかけた。


女の子 「ちょっと!あなた!窓に猫が居るわ。ドレスに毛が付いたら服が汚れちゃうから追っ払ってくれない?」

メイド 「畏まりました」

ノヴァ (僕は猫に生まれ変わったんです。だから、可愛がってください。お願いします)


 ノヴァは切実な願いを込めてメイドに目で訴えた。だが、メイドは顔色一つ変えずに、箒を手に持ち、ノヴァを追い払うために窓に近づいてきていた。


ノヴァ (ああ、ダメか……。分かりました。どっか行きますよ……)


 ノヴァは肩を落として屋敷から逃げた。


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