2話 君を取り戻すと決めた日
まるで鈍器で殴られたかのような衝撃。
何を言われたのかわからないといった表情で優に疑問をぶつける。
「優・・・?何言ってるの・・・?私だよ・・・?」
隣では「嘘だろ・・・」と、恭也が呟いていた。
「ごめん・・・僕何も覚えていないんだ」
目の前に立つ二人に申し訳なさそうに優は答える。
「二人とも、ちょっとこちらへ」
医師らしき人に連れられ二人は病室の外に出る。
「一ノ瀬さんは事故の衝撃で記憶を無くしてしまっているんです」
そう告げられた。
ドラマなんかではよく見るが実際に目の当たりにしたのは初めてのことでとても信じられなかった。
「そんな・・・どうして・・・優・・・」
竜那はその場に泣き崩れた。
「今日はもう遅い。二人とも今日は帰りなさい」
そう言われ二人は病院を後にする。
帰宅するまでの道のり二人はただただ黙って歩いていた。
そんな静寂を切り裂くかのように恭也が声をかける。
「優、記憶がないなんて信じらんねえよな。昨日まで普通に話してたんだぜ」
「・・・うん」
恭也には聞こえないくらいの小さな声で竜那が返事をする。
「なあ、俺らで優の記憶を取り戻そうぜ」
竜那の前に立ちふさがるように立ち恭也はそう言った。
「え・・・?」
「だから、俺らで取り戻すんだよ。優の記憶を。あいつと一緒にすごしてけばいつか俺らのことも思い出して記憶が戻るかもしれないだろ?」
そう言われ竜那は気づく。そうか、記憶は完全に無くなったわけじゃないんだ。またいつもの優に戻る可能性は十分にある。記憶が無くなって自分のことすら忘れてしまったというショックでそんなことも頭から抜けていた。
「うん・・・そうだよね。私たちがいつまでもくよくよしてたってどうにかなるわけじゃないもんね」
「俺だって優の記憶がなくなったことにショックなんだ。彼女だったお前は尚更ショックだろ」
竜那を気遣うように頭をポンポンと優しく叩く。
「ありがと、恭也。恭也のそういう優しいとこ、嫌いじゃないよ。また明日ね」
恭也をからかうように二ヒっと笑いいつの間にか着いていた家に入っていく。
「なっ・・・!またあいつはそうやって俺の気も知らないで・・・」
リンゴのように赤らめた顔を隠すように右手で覆いそう呟く。
翌日から竜那と恭也による優の記憶を取り戻すための共同戦線が始まった。