1話 君を失った日
「優~一緒に帰ろ!」
放課後のチャイムとともに成瀬竜那は大きな声で一ノ瀬優に声をかけた。
「そんな大きな声出さなくても聞こえるって」
やれやれといった表情で優は返事をする。
教科書や今日配られたプリント類を鞄に入れ校舎を後にする。
校門を出かかったところで後ろから聞き覚えのある声に引き止められる。
「おいおい待てって二人とも。俺を置いていく気か?」
息を切らしながら二人を追いかけてきたのは二人のクラスメイトであり竜那の幼馴染でもある神峰恭也。
「別に恭也と一緒に帰る約束なんてしてないし」
ベーッと舌を出し走って追いかけてきた恭也を置き去りにする。
「そんな冷たいこと言うなって。どうせ帰る方向は一緒なんだしよ」
竜那と恭也の家は隣同士であり必然的に帰る方向は一緒になる。付き合って半年になる竜那と優は毎日登下校を一緒にしている。二人で帰ろうとする竜那と優に恭也が追いつき結局三人で帰るのがいつものパターンだ。
空が夕日の赤で染められた頃、分かれ道で「じゃあまた明日」と声をかわしそれぞれ帰る方向に分かれる。
隣の家である恭也とも家の前で別れそれぞれの家に入っていく。
「あ~今日もつかれた~」
帰宅してすぐ竜那はベッドに横たわった。しばらくそうしていると外から救急車の音が聞こえた。
「救急車だ。案外近いな」
そう思いはしたが自分には関係のないことだと思い深く気にせずサッサとお風呂に入りに行った。
翌日、珍しく早起きした竜那は優とのいつもの待ち合わせ場所で優を待つ。しかし何十分と待っても優は来なかった。電話をしてもでず「寝坊かな?優にしては珍しいな」と優が来ないことに疑問を抱いたがこのままでは自分も遅刻してしまいそうだったため「先に行ってるね」とLINEを残し学校に向かった。
「あれ?今日優は?休み?」
学校に着くと恭也に声をかけられた。いつもは二人揃っての登校だったため優がいないことに疑問を持ったのだろう。
「電話もLINEもしたんだけど返事がなくてわかんないの」
困ったといった表情で竜那は答える。
HRの予鈴が鳴っても優は来なかった。
朝のHRが始まり先生の話に耳を傾ける。聞こえてきたのはとても信じられずあまりにも残酷な現実だった。
「え~みなさん、昨日の夕方に一ノ瀬君が交通事故にあったそうです。一命は取り留めましたがまだ意識が戻らないそうです」
予想もしてなかった言葉に理解が追いつかない。
「え・・・優が交通事故・・・?」
突然突き付けられた現実に竜那はただ愕然とするしかなかった。
その日はそこから記憶がなかった。気づいたら学校が終わっていて下校時刻になっていた。「あ、ねえ優一緒に帰・・・」そう言いかけ優がいないことに気づく。
優がいないことにようやく体が理解したのか次々と涙が溢れ出てくる。
「優・・・やだ・・・やだよぉ。ずっと一緒にいるって約束したじゃんか。いなくならないでよ優ぅ・・・」
放課後誰もいなくなった教室で竜那は一人泣き崩れた。
「おい竜那帰・・・」帰るぞと言いに教室に入ってきた恭也は泣き崩れる竜那を見て傍に駆け寄った。
「まだ優は死んでねえ。意識がないだけだ。きっとすぐ意識を取り戻す。だから竜那、行くぞ病院」
泣き続ける竜那の腕を引き二人は病院へと向かう。
看護師に優の病室を聞き、急いで病室に向かった。
そこには目を覚ました優の姿があった。
「優・・・優・・・!」
優の姿を見た竜那はすぐさま優に抱きついた。
「よかった・・・優死んじゃうのかと思って私・・・」
優に抱きつき竜那は泣き続ける。しかし優から発せられた言葉は信じられないものだった。
「あの・・・どちらさまでしょうか」