ミイラ取りがミイラになるように、恋される者は恋をする
「えー、今日も別々なの?」
「仕方ないだろ……その…………なぁ?」
一緒にお風呂に入るのが日課だった。
いや、入りたいんですよ?
一緒に入りたいんですけどもね。
こう、ね?オッキしちゃうものですから。
「……俺、気にしないよ? その……父さんの大っきいの知ってるし」
その言葉だけで先走汁ね。
いかんいかん、平常心平常心。
「いやそういう意味じゃなくてな……」
「……言ってくれればなんでもするからね?」
照れた顔で言われるとね、もうほら。
出ちゃったよ。
そういえば、ヒカリがお腹の中にいる頃からそういった事はご無沙汰だ。
かれこれ十数年。
この状況、自家発電だけでは補えない……
否!!
おとっつぁんを甘く見ないでいただきたい!!
決めたじゃないか、この子を幸せにすると。
情けない事を言うんじゃない、俺よ。
これからも、この右手(時折左手)が助けてくれる。そうだろう?
……精神が研ぎ澄まされてきた。
今の俺には、どんな誘惑も通用しない。
俺の倫理の城は、鉄壁の要塞だ。
「だから入ろ? 背中流すよ♪」
「おう、入るか♪」
倫理の城、落城。
◇
で、娘に背中流して貰ってます。
気を抜くと弾道4になってしまうので、毛を抜いて紛らわす。
「父さん、背中大っきいよね。逞しい」
「前は力仕事が多かったからなぁ。家族を守るには背中は大きくなきゃだろ?」
「……うん、守ってくれてありがと」
背中に抱きつかれる。
以前より柔らかくなった肌。
良い匂いがするのは、女の子特有なのかな。
「父さん……大きすぎ……」
背中の話ですよね?
「……父さんはさ、その……平気なの? 俺が生まれてから……ずっと頑張ってくれてるでしょ?」
「……父さんだから。父さんが頑張んなきゃ、誰が頑張るんだ?」
「……」
ヒカリが正面に来て抱きついてきた。
その瞳は甘く溶けている。
「俺も力になりたいな。家族でしょ?」
「……そうだな。困った時は頼んだよ」
そう言うと、ヒカリは目を瞑っていた。
……可愛い顔だな、ホント。
あ、ヤバい
「……? わぁ……大っきい……」
◇
慣れない新生活、ヒカリは早々に眠りについた。
顔に掛かった髪を掻き分けてあげる。
サラサラだな……
いつかヒカリは男と結婚するのかな……
心の中に、ドス黒い何かが生まれる。
今までだって、俺が幸せにしてきたんだ。
これからも俺が……
お休みのキスは、いつもおでこにしていた。
でも今日は……
口に触れた瞬間、ヒカリが俺を抱き寄せてきた。
「なっ……起きてたのか?」
「……俺はずっと父さんと一緒だよ。今までも、これからも……」
親子だから……それ以上の何かだからなのか、心の中を見透かされている。
何が正解なのか分からないし、どんな言葉を返せばいいのかも分からない。
ただ強く、抱き返す事しか出来なかった。