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線引を使うよりも、フリーハンドの方が味わい深い


「椿ヒカリです。宜しくお願いします」


 新しい学校に転校した。

 爺ちゃんが校長先生をやっている学校で、内緒で女として受け入れてくれたから。


 女として女と接するのは初めてだから、どうしていいのか分からなかったけど、優しい人達ばかりなので問題はなさそう。


 反面、男からチラチラ見られるのがウザったい。

 お前等なんかに興味無いんだから、こっち見んなよって思う。


 ここは前に住んでいた所から2つ隣の市で、大きな繁華街がある。

 父さんはこの街でカフェを経営してる。

 調理から接客までいつも一人で頑張ってくれている姿を見るのが、心苦しいけど好きだ。

 コーヒーの味とか苦くてよく分かんないけど、父さんがよく飲むコーヒーは美味しく感じる。

 だって、父さんの味がするから。

 

「お、ヒカリおかえり。新しい学校はどうだった?」


「メッチャ良い人ばっかだよ。あと爺ちゃんいつも以上にベタベタしてきたっけ」


「あのクソ爺め……父さん仕事してるから裏で休んでて」


 この街に、この生活に慣れるまで帰るのは父さんと一緒。

 別に慣れても一緒にいたいけど。


 女子の制服。

 結構可愛いと思うんだけど、父さんはどう思ってるのかな。

 俺に興味ないのかな……


 チラッと店内を見ると、忙しそうに接客をしていた。

 

 ……興味ないなんて、そんな事ないよね。

 俺の為に頑張ってくれてる父さんに失礼だ。 


 余っていた店の制服を着る。

 俺だって……


「ヒカリ? どうしてそんなの着てるんだ?」


「手伝うよ。看板娘がいた方が盛り上がるでしょ? どう、可愛い?」


 くるくると回る。

 ひらひらと揺れるスカートが可愛い。

 父さんの反応が気になる。


「可愛いけどな……その……」


「ん?」


「あまり他の人に見せるな。分かったか?」


 なんとなく父さんの独占欲を感じて、口元が緩む。

 

 今までも、父さんからの愛情を沢山貰ってきた。

 でも、それだけじゃ物足りない。

 だって……


「うん、父さんにだけだよ。だって俺の身体は全部父さんのモノだから♪」


「な、な……なに言ってんだ!!? ホラ、これ運んでくれ」


 今は目の前に線が見える。

 いつかこの線を越えられたらなって思ってる。


「あれ、マスター、この可愛い子は誰?」


「……娘です。可愛いでしょう?」


「へぇ……ねぇねぇ、彼氏とかいるの?」


「彼氏はいません。でも好きな人はいます」

 

 そう言って、父さんを見つめた。

 理解してくれているから、父さんは耳たぶを触っている。

 照れている時にする父さんの癖。

 心の中が温かくなる。


 俺はこの人が……


「ね、父さん♪」


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