天幕内の話し合い
半月も更新が遅れてすみません!今日より更新を再開いたします。
今年も「Nightmare Alice」をよろしくお願いいたします。
その後、召喚者達は護衛兵の纏め役に当たる騎士数人を連れて教会の陣に足を運んでいた。他の兵士達も付いていくと言ったのだが、いくら敵対関係にないとはいえ他国の陣にそれだけの兵を連れていくわけにもいかないし、馬車に乗っていた四人と違って兵士達は行軍で疲れている。なので彼らには先に街に入って休んでもらっている。
一応ではあるが、陣に向かう前に街の者達にも話を聞いておいた。どうやら彼らは数日前に突如訪れ、街に許可も取らずに壁の外に布陣したという。街への攻撃や閉鎖を行うわけでも無く、むしろ周囲の魔物の討伐も行ってくれるので文句も言えない。
それ以前にアルミッガ大陸中央三国では聖典教会に対する民の信頼は絶大であるため、人々は不満すら抱かないのだけど。街の統治者からすれば教会とはいえ他国の兵であることに変わりは無く、王国の許可無い駐留は困るのだが、教会の権力は街を治めるだけの彼らとは桁違いでありどうしようもない。
......王国直属の騎士達に散々責められて、教会との板挟みになってしまった彼らは心労で随分と顔色が悪かったが。
教会兵の陣に着いた彼らを教会騎士達は丁重に迎え入れ、彼らは陣中央にある一番大きな天幕に案内されていた。
「お初にお目に掛かります、召喚者様方。私は聖典教会騎士団が一部隊・樹海遠征隊の指揮官を務めております、聖騎士のデュリィと申します。こうしてお目にかかれて光栄です」
天幕の中央、そこに置かれた机の向こう側に座している白い騎士鎧を纏った女性はそう名乗りながら、立ち上がって右手を差し出してきた。その怜悧な顔や硬い口調は、一見すれば冷たい印象を抱かせるだろう。だが、四人や同伴した騎士はそうは思わなかった。
何故なら、デュリィと名乗った聖騎士が放つ雰囲気が明らかに歓迎モードだったから。顔は一切笑っていない、声も弾んでいるわけでも無い、なのに全身から喜びのオーラが溢れている。天幕内には彼女と同じ鎧を着た騎士が他に二人いたが、その二人も同様の反応を見せている。
「ど、どうも......。えっと、来栖京香です」
代表して京香が手を取るが、その顔には困惑の色が強い。それはその場にいる召喚者や王国騎士達も同じだった。何故なら、ここまで歓迎されるとは彼らは思っていなかったから。
この天幕に来る途中、彼らに向けられていたものの多くは懐疑や侮蔑の視線。中には目の前の聖騎士達のような好意的なものや、じっと観察するような感情の読み取れないものもあった。だがそれは少数にすぎず、明らかに悪意を孕んだものがほとんどだった。
だからこそ警戒しながら天幕に来たというのに、まさかの歓迎に王国勢は皆戸惑っていた。一体何がどうなっているのか、と。
自己紹介が済んだところで、話し合いをする為に王国勢は用意された椅子に腰かける。とはいえ座ったのは召喚者達だけで騎士達は立ったままだが。彼らとて教会が手を出してくると思ってないが、念の為の措置。無論それを分かっているからか、聖騎士達も彼らを咎めることは無い。
「......では最初に聞かせてもらうが、一体どういう権限があって聖教国は王国にこれだけの兵を——それも無許可で勝手に進軍させたのか。納得のいく説明をしてもらおうか」
まず王国騎士が話を切り出す。彼らからしてみれば当然の問いである。どんな理由があろうともこれは国境侵犯であることに変わりは無く、下手すれば国家間の戦争の火種となってもおかしくない事案であるのは目に見えている。それは聖教国とて当然理解しているはずでありながら、どうして勝手に兵を派遣してきたのか。まずはそれをはっきりさせなければ話は始まらない。
険しい表情を浮かべて問いただす王国騎士だが、その詰問を受けてもデュリィの表情は涼しいまま。
「先程も言いましたが、我々は聖典教会騎士団としてここに来ています」
騎士が問い詰めたように、本来なら国境侵犯は許されざる行為である。下手すれば、国家間の争いに発展したとしてもおかしくない。
——だが、イザール聖教国だけは話が変わる。正しく言うならば、聖典教会という立場であれば魔の撲滅を理由に、他国の領土であっても無許可で入ることが許されているのだ。長い年月で積み上げてきた聖典教会の権威があってこその強権であり、敵対国である帝国などではその行為を認めていないのだが。
もちろんだが、あらゆる自由が許されているわけでは無い。当然ながらその武力を一切民に向けない事、国の上層部の許可なく街に入らない事を始めとした様々な制約が掛けられている。ただその制限も聖典教会の権威が広まっている地や聖教国より力の弱い小国ではあまり意味を為していないのだが。
王国騎士とてそれは理解している。それでもその強権を振りかざし堂々と国土に入ってくる聖騎士の態度に、彼らの顔はさらに険しくなる。
そんな王国騎士の様子を気にした素振りすら見せず、デュリィは話を続ける。
「それと今回の派兵の理由ですが、分かっておられるでしょう?」
「......我々か」
そしてその目的も決まっている。長い間この地に駐屯しているならともかく、そうでない聖典教会と王国の動きがここまで重なるなどあり得ない。教会はあきらかに王国を——召喚者の動きを掴んで、この隊を派兵してきたのだ。
机に肘をついたデュリィは、顔色を変えずに本題を切り出した。
「単刀直入に言いましょう。この部隊の目的は、あなた方を止める事。このまま、王国軍を樹海に入れる訳には行きません」
「なっ......」
有無を言わせないデュリィの口調に王国側の者達は絶句する。調査に同行するならともかく、まさか調査そのものを妨害してくるとは夢にも思っていなかったのだ。王国側の反応を意に介することなく彼女は話を続ける。
「あなた方は骸王を甘く見ている。これだけの戦力で迷霧樹海に足を踏み入れようとは、正気を疑わずにはいられませんね」
「......我々では、力不足だと?」
王国騎士の目つきが鋭くなる。いくら教会の騎士とはいえ、彼らにだって王国の精鋭だという自負がある。役不足だと言われて黙っていられるわけが無い。自国に勝手に踏み入られたことも相まって、耐えきれなくなった騎士達が殺気を放ち始める。だがそれを向けられるデュリィは気にする素振りすら見せない。
「当然でしょう。力が持つとはいえこの世界に来て半年しか経たない召喚者方に、我々には到底及ばないあなた達王国兵が百名だけ。目的は恐らく先行調査なのでしょうが、だからと言ってたったこれだけの戦力で樹海に入ろうとは。あまりに無謀でしょう」
デュリィの言葉に王国騎士は苦虫を嚙み潰したような顔になる。彼女の言う通り、いくら王国における精鋭である騎士とはいえ、魔物退治のプロフェッショナルである聖典教会の騎士とでは実力が違う。聖騎士団の一般兵である教会騎士一人一人が王国騎士程では無いにしろそれに迫る実力を持ち、聖騎士であれば今回派遣された王国兵全てを一人で相手にすることも不可能では無い。樹海遠征隊に所属する聖騎士は五名、この五人だけでも今回来た王国軍を軽く上回る戦力なのだ。
それを理解しているからこそ、王国騎士は反論することが出来ない。......王国騎士は、だが。
「......それで?話はそれだけかしら?」
突如第三者の声が天幕内に響く。天幕にいる者達の驚愕、疑念、様々なものを含んだ視線がその声の主——京香へと向けられた。そんな幾つもの視線を向けられながらも京香は微笑を浮かべた顔を崩さず、立ち上がってデュリィと話していた騎士よりも前に出る。王国騎士達は彼女に場を譲るべく慌てて横に避けつつも、突如割り込んできたことに困惑を隠しきれない。
先程まで京香の横にいた拓馬と綾は彼女を止めるべきか悩み顔を見合わせる。今は王国の代表として騎士達が話しているため、召喚者が勝手に話に加わるのはマズいかもしれない。そう考えた二人は京香を止めようと手を伸ばそうとしたが、それを横から止められる。その場にいた最後の一人——晃によって。
(こういう時は京香に任せておけばいいって)
晃はそう軽口を叩くが、その言葉からは幼馴染である京香への信頼が見て取れた。彼の普段の様子からだと不安にもなるが、この中で京香の事を一番良く知っているのもまた事実。晃と京香が幼馴染として長年積み重ねてきた信頼は大きい。その彼がそういうのなら、と二人も彼女に場を任せることにする。
そんな三人の事を気にも留めずに机の前まで進み出てきた京香だが、何故か彼女は口を開かない。その理由が分からず、王国騎士や召喚者達は困惑する。てっきり何か話があるからこそ、こうして前に出てきたのだと思ったから。
だがただ一人、彼女の正面に座るデュリィだけは分かっていた。京香が待っているのが、自分の言葉だという事を。
「ええ。先程言いました通り、この隊に課せられた命はあなた方の足止めになります。——ですが我々の目的は、あなた方の調査への協力になります」
「な、なぁっ!?」
デュリィが口にした言葉に、王国勢は驚愕する。ただ一人、京香だけは表情を崩す事は無かったものの、驚きはあったらしく軽く目を見開いている。
一方の教会側、この場にいるデュリィを含めた三人の聖騎士達に変化は全くない。つまりこれは彼女一人だけでなく、少なくともこの場にいる彼ら全員の考えだという事なのだろう。
「......道理で、妙に好意的な雰囲気なわけね。けど、この隊全員の考えでは無いのでしょう?詳しい話を聞かせて貰えるかしら?」
そう、京香はこれを予想していた。陣内で向けられた悪意と、王国の部隊への妨害目的。それとは真逆の、天幕の聖騎士達の好意的な雰囲気。噛み合わないそれらの事を鑑みれば、聖騎士達とこの隊とでは指針が異なっているのではないかと考えたのだ。
とはいえ、その理由や背景までは分かりようが無いため、まずは話を聞くべきだと彼女は判断した。デュリィも同じように考えたようで、長い話になるからと立っている京香や騎士達に椅子を勧める。京香は当然の事、王国騎士達もそれならばと警戒はしつつも席に着いた。
「そうですね。それを説明するためには、まず我々の立ち位置から説明するべきでしょう」
聖典教会と一言では言っても、それは決して一枚岩ではない。大きな組織である以上それは仕方の無い事だろう。そして簡単に分けるなら、教会には三つの派閥が存在している。
共通項として、彼らが魔物を敵対視していることには間違いない。ただしそれらの派閥は、何を第一とするべきか、その一点において異なる考えを持っている。
まずは《教義派》。教会で最大の派閥であり、魔の無い世界への回帰を目的とする教義を絶対視する派閥である。教会の所属者の大半はこの派閥と言っていいだろう。亜人への排斥や呪詛や死霊術使いへの弾圧に最も力を入れているのも彼らである。教会のトップに立つ歴代の教皇が中心人物となっており、それもあって教会の在り方はこの派閥によって成り立っていると言っても過言ではない。
続いて《保守派》。彼らのほとんどは教会の上層部やその一族に属する者達。保守とは言うが、正しくは教会が築いてきた『権力』に固執する者達である。
最後に《改革派》。教会では最も弱い派閥で、今の教会の在り方に疑念を抱く者達によって近年作られた派閥である。彼らの目的は、人々を護ることにある。ゆえに社会の在り方と《魔の撲滅》という教義が噛み合わないと考え、今の時代に合わせて教会も変わるべきだと考えている一派だ。
そしてデュリィやこの場にいる聖騎士達は改革派に属する者達だ。そして彼らの目的こそが、《骸王の討伐》なのだ。
「そもそも疑問に思いませんでしたか?何故、教会が骸王を積極的に討伐しないのか」
骸王は、ヒダルフィウスを滅ぼした後にかの地を広大な樹海へと変貌させ、難攻不落の地へと化した。実際、滅亡直後に教会が森を攻略しようとした際には、攻略は失敗に終わっている。
ただし、それはあくまでその時の戦力によるものでしかない。仮に教会が全力の討伐隊——聖人を複数人加えた部隊を編成した場合、骸王を討てる可能性は十分にあり得るのでは無いか。そう考え、教会に打診する国は少なくなかった。特にビレスト王国などの近隣国にとって、いくら籠っているとはいえ骸王の存在は常に脅威としてあり続けているのだから。
ただし、それはある理由により叶う事は無かった。
「その当時、教会に所属する聖人は僅か三人だけ。その内一人はイザールの首都・聖都から離れられず、残りの二人はニールヘル大陸攻略に力を注いでいました。なので、骸王を討伐するには戦力が足りない。これが理由で聖教国は討伐を見送る、......というのが表向きの理由です」
そう、それはあくまで表向き。聖人が三人しかいないから、それが通じるのは当時だったかでしかない。現在聖教国に所属する聖人は、最も新たな者を含めれば六人に達する。全員とはいかなくとも、複数人の聖人を投入するだけの余裕は既にあるのだ。
「それでも教会が動かない理由は明らかです。......骸王が、北を攻めているからに他なりません」
その言葉に、王国勢は一斉に顔を強張らせた。それを口にしたデュリィも他の聖騎士も、苦々し気に唇を噛みしめ、拳を血が出そうなほどきつく握っていた。
「......まさか、帝国が弱体化するなら、魔物でさえ見逃すというの?よりにもよって、教会が?」
骸王が巣食うギラール山脈に隔たれた大陸北部。そこはハイダル帝国、そしてその属国が支配する地。そして、教会とはその在り方故に敵対している国でもある。
——だからこそ、教会は動かない。
「骸王はギラール山脈にこもり、かの樹海を生みだし南との繋がりを遮断した後、大陸北東——ハイダル帝国の属国がある地域を攻め始めました。何故か執拗に、北だけをです。初めは警戒していた教会上層部も、十年二十年と経っても攻めてこないのを確認して、新たな方針を立てました。......骸王に関しては不可侵を貫き、帝国との削り合いをさせればいいと考えたのです」
それは、魔を滅するという教義を掲げる教会したらあり得ない行為。だが、教会はそれを是とし、今日まで新たな討伐は組まれていないのだと、デュリィは悔しそうに語った。
「そして、これは上層部の決定と言いましたが正しくは違います。骸王に関する判断は、教義派と保守派によるものなのです」
「っ、馬鹿なっ!?」
続く言葉に、王国騎士は動揺を隠せなかった。これが権力に固執する保守派だけの判断ならまだ分かる。だが教義派、つまりは魔の撲滅という教義に殉じるはずの者達、なによりその先導者にして教会の頂点に立つ教皇すらそれを認めたなど、この世界に生まれた彼らからすれば信じられる話では無かったのだ。
だが、デュリィはその事実を否定しなかった。
「彼ら教義派は、魔物だけでなくその血を引く亜人も殲滅対象としています。なので、それを人と認めている帝国も、同じく滅ぶべき存在としているのです。なので、帝国と骸王という目障りな存在が互いに潰しあう現状を変える気は無いんですよ」
それこそが、教会の狙い。敵と敵が喰らい合う中、わざわざ手を出す必要は無い。たとえそれでいくら民に犠牲が出ても、亜人と共生する者など人ではない、と。
「......つまり、あなた達はそれに反対する立場、だと?」
「ええ。我々改革派は、一刻も早く骸王を討つべきだと、そう考えています」
京香の問いに対し、デュリィは大きく頷いた。
「骸王は南に攻めてきませんが、それがいつまで続くのかは分かりません。今すぐにまたこちらに攻め入ってきたって、おかしくない。眼前の脅威に対応しないのは、愚かな選択ですから。ただ、我々は派閥としては小さく、聖人を動員する事すら出来ずにいました。......だけど、好機が来たんです」
その好機が何なのか、この場にいる者達には分かり切っていた。
「勇者——聖痕を受け継ぐ異世界人と、彼らの仲間。あなた方がいれば、骸王討伐に希望が見える。そして事実、王国は討伐に向けて動き出した。だからこそ、我々はここにいるのです」
それこそが、改革派の狙い。上層部の命令に従っているように見せかけながら、その目的は骸王の討伐。そしてそれを為さんとする王国に協力するために、彼らはここに来たのだ。
「......外にいる人たちも、改革派の仲間なの?」
王国勢の頭を過ぎるのは、先程見た陣内にいた教会の者達。中には目の前にいるデュリィ達と同じような好意的な視線もあった物の、その多くは明らかに悪意を孕み、気味悪さを感じる程にじっと見つめてくる者ばかり。とてもではないが、彼らがデュリィ達と考えを同じくしているとは思えなかった。
代表して京香がそれについて問えば、デュリィは苦笑いしながら答えた。
「いえ、あれの多くは教義派の者達ですね。でも、彼らも真面目に働いてくれますよ」
本当なら改革派の戦力を多数投入したいデュリィ達であったが、元々彼らの勢力は最弱。故にそれにつぎ込める戦力も少なく、この隊にはほんの僅かにしか参加していなかった。
そこで彼ら改革派は、戦力として教義派の者、その中でも若手の者達を多く参加させることにした。教義派——聖者の教えに殉じ、聖人を信奉する彼らにとって、召喚者達は面白い存在ではない。彼らにとって重要なのは聖痕を持つ〈勇者〉だけであり、それ以外は巻き込まれてついてきただけの者達だと、そう認識している。それも決して間違ってはいないのだが、だからこそ勇者と親しくする無能共が、と召喚者達を見下しているのだ。
では何故そんな者達を連れてきたのか、それは彼らが戦力となるからだ。何故なら彼らは教義派——魔を撲滅せんとする者達。中でも彼らは血気盛んで教義に傾倒し、骸王を討伐しない事に不満を抱いていた者達だ。今回の作戦に参加させるのにピッタリと言える。
「教義派である以上、魔を撲滅する機会があるなら逃しはしません。それに、これだけ教義派がいれば保守派の目を少しでも誤魔化すことが出来ますから」
むしろ厄介なのはそっちであると、デュリィは語った。この集団の中にも、保守派は存在する。彼らの目的は監視であり、改革派に属するデュリィ達が余計な動きをしないように監視しているのだ。
「......もしあなた達の狙いが明らかになったら、保守派は間違いなく改革派を潰しにかかるわよ。そのリスクを分かっていて、あなた達は動いているのよね?」
京香がそう問えば、デュリィはもちろんとばかりに頷く。
「骸王さえ討伐してしまえば、保守派も教義派も何も言えませんから。なにせ魔物、それも災位の怪物を討伐したとなれば、その事実を咎めることは彼らにだって出来ませんから。......何よりも」
そこで言葉を区切ったデュリィは、その内に秘めた熱を吐露する。
「——魔を討つ、それは元を辿れば人々を護る為だと、我々はそう考えています。たとえ敵国であろうと、人々を苦しめる魔を放置するなど、出来る訳がありませんから」
それこそが、改革派の掲げる信念。魔の撲滅、その根底にあった願いを掲げる彼らの在り方。
「「「............」」」
後はそちらに判断を任せる、そう言わんばかりに口を閉ざした聖騎士達を前に、王国勢もどうすればいいか戸惑っていた。特に王国騎士達には、国の命令も無いのに勝手に判断する権限はない。しかも、いくら教会の権力があるとはいえ、彼らが国境侵犯したのも事実。この提案を受けなければ樹海に入れない可能性が高いことを理解してはいても、騎士達だけでは答えを出せない。
「——いいわ。手を組みましょう」
あくまで王国騎士達は、だが。
全員の視線が一斉にその声の主——京香へと向けられる。
「京香殿、何を勝手に——!?」
王国騎士が京香へと食って掛かった。いくら召喚者とは言え、国の許可なき横暴が許されるわけでは無い。だが、騎士の気迫にも彼女は一歩も引かなかった。
「生憎だけど、私は皆が——私達の仲間が生き残るために最善の道を取る。ここで教会の戦力を借りられるのなら、作戦成功率はぐんと上がる。......それに、今の戦力では不安が残るのも事実でしょう?」
「「............」」
彼女の言葉に、王国騎士達は口を閉ざす。彼らからすれば、仕える王国の意図を伺わない独断専行は決して認められるものでは無い。それでも、京香の言葉が正しいのもまた事実。しばしの沈黙後、王国騎士は無言のまま下がる。それに感謝しつつ、京香は再びデュリィと向き直った。
「という訳で。改めて、その話に乗らせてもらうわ。よろしく、デュリィさん」
そう言いながら差し出された右手を、デュリィはギュッと握り返した。
「......ありがとうございます」
こうして、ここに召喚者達と教会改革派の協力体制が成立する事となった。
「zzz......」
「......晃君、寝てるんだけど」
「......度胸あるなぁ、こいつ」
「............後で説教ね」
余談だが、話を一切聞かずに京香に任せて爆睡していた晃は、その後でしこたま怒られた。
次回更新は1月20日になります。




