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Nightmare Alice  作者: 雀原夕稀
一章 夜会は血と怨嗟に塗れる
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怨霊は一歩深き魔へ至る

 ぜーはー、ぜーはー......。

 ボディを作り始めてから、約一カ月。ようやく、ようやっと完成しました。

 ......正直、舐めてた。もっと楽に行くと思っていた、一カ月前の自分をぶん殴りたい。全然上手くいかなかった。職人という人たちの凄さを思い知りました、はい。


 

 まず、人形に魔われる霊木と髪に使われる一角獣の鬣。これらは元々魔力を持つ為、ワタシの魔力を浸透させるのに他の素材よりも多くの魔力を必要とした。しかも少しでも乱暴に魔力を流すと、他の素材がダメになりかねないので、慎重に、時間を掛けるしかなかった。


 次に改造用の素材の用意。まず、使える素材の厳選。適度に質の合う物、ワタシ自身と合う物を鑑定石で調べて選んでいく。使いたい素材はあっても、質が高いとワタシでは扱いきれないから泣く泣く諦めるしかなかった。龍の鱗とか不死鳥の羽なんて、ワタシとの格差がありすぎて、使ったら何が起こるか分かったものじゃない。......後々使いたいので、ここを出る際には出来るだけ貰っていくけど。それまでに空間収納——空間魔法による亜空間に物品を収める魔法を習得する力を注ぎ、ワタシとの親和性を上げる作業。これの難易度が意外と高かった。元の素材の内、躰に使としよう。


 話を戻そう。素材を用意し終えてからは、それの加工に入る。躰と同様に素材に魔力を浸透させ、それと並行して形を整えていく。で、その作業がまた難しい。何せ、どちらの生前でもそんな加工作業したことが無い。幾つも失敗して、何とか一通り揃えることが出来た。......いや、本当に何とかなって良かった、うん。素材も無限にある訳じゃないし。

 ちなみに、組み込んでから魔力を流し込まないのは、部品ごとに魔力の流し方を変えなくてはいけないから。そこで失敗したら、目も当てられない。


 最後に、出来た部品を人形に組み込み、調整して、完成させる。これが一番難しかった。上手く組み込めたと思っても、動きが変になる。力を入れすぎて部品に罅が入る。調整に失敗して、部品を丸ごと作り直したものもある。ああ、隙間が、動きが、罅が、あががががががががががが。




 そして一カ月掛けて、何とかボディが完成した。見た目は、まあ色々と変わった。目の色は両目とも青になったし、節々も球体関節に変わっている。......ある血液に漬けたせいか、服や髪を含めて全体的に赤みを含んで呪われた人形になっているけど、まあ問題無いだろう。素材的にも、作られた目的としても、呪われていることに間違いは無いし。


 これで準備は整った。さあ、ここからが本番。進化に挑戦するとしよう。




 人形を床に寝かせて、その上に漂う。......正直、緊張はしている。何せ、魔物の進化なんて見たことがあるはずがない。進化方法に関しても仮説でしかないし、最悪ワタシの意思が消えて全く別の魔物になる可能性もある。不安は、残る。

 ——それでも、ワタシが強くなるには思いつく限り、これしかない。


「......よし」


 ......覚悟は、決まった。ふー、っとひと息ついて、ワタシは人形へと飛び込んだ。




 ——怨霊が基本的に持つスキル、憑依。対象に宿り、それを動かしたりできるようになる能力。今回の肝になるのはこのスキルである。憑依の特徴として、自身と性質の似たものである方が自由に動かせるし、魔力消費も少なくなる。逆に、性質が合わない物ではまず憑依できないし、仮にできたとしてもその対象の能力をロクに扱う事すらできない。

 だからこそ人形を作るのに時間を掛けて、魔力を流し込んで親和性を高めた。失敗する可能性をできるだけ減らすために。


 ——でも、それでも。それは、簡単にはいかないのだ。


 ボディに飛び込んだ瞬間に、ワタシの意識が溶け出しそうになる。ワタシの魔力だけでなく、素材に残った本来の魔力やそれらに残っている残留思念みたいなものが、内部に嵐のように吹き荒れ、ワタシをもみくちゃにする。宝物庫に入るときの人形とは()()が違う。気を抜けば、一瞬で持っていかれる。

 この試み、実は欠点がもう一つある。これが成功しようとしまいと、あるいは中途半端な結果になっても、ワタシは純粋な怨霊ではなくなってしまう。そうなれば、この体から出ることは出来ないし、憑依のスキルも無くなる可能性は高い。


 ——つまり、チャンスはたった一回しかない。やり直しは、利かない。


 周囲に吹き荒れる魔力などを束ねていく。やっていることはワタシが生まれた時と似ているが、その本質は大幅に違う。あの時は互いを受け入れたもの同士の融合だったのに対して、今回はワタシを保ったままこれらを支配し、取り込み、一部としていかなくてはいけない。難易度が全く違う。

 それらがワタシの一部になっていく度に、激痛が走る。内で暴れて、蝕もうとしてくる。ワタシの意識が飛びそうになり、魔力の嵐に呑まれそうになる。


 ——ああ、それでも。それでも、だ。


『フフッ、フフフッ、フフフフフフッ!!』


 分かる。感じる。伝わってくる。

 少しずつ、力が増していくのが。内に取り込んだものが、真にワタシへとなっていくことが。ワタシという存在が、高みへと昇っていくのを。


『アハッ、アハハッ、ハハハハハハハハハッ!!』


 気分が高揚する。感情が昂っていく。笑いが溢れて止まらない。

 感じる、感じる、感じる、感じる!今、ワタシは強くなっている!魔の深淵を一歩降りている!今までと違う、ワタシに変わっていく!

 やがて、周囲の魔力が一切消え、ワタシのみがそこに残った瞬間、ワタシ自身が黒く輝き、意識を失った。




 気が付いたら、宝物庫の床に寝そべっていた。()()()()を動かし、ゆっくりと起き上がる。

 記憶や人格に関しては、今の所違和感はない。詳しくは後で確かめないと分からないが、自身をワタシと認識できているし、問題は無いと思う。

 そして。

 右手・・に目をやる。そこにあるのは人形の手。無理に意識しなくとも、その手は自在に動く。他の手足も、体も、人形だというのに感覚さえある。感覚のズレは一切なく、この体はワタシなのだと、そう伝わってくる。


「......やった。やったわ、アハハハハッ、アハハハハハハハハハハッ、大、成、功、よぉ!」




 ——宝物庫に入って一カ月。ワタシはついに、新たな躰を得た。


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