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Nightmare Alice  作者: 雀原夕稀
一章 夜会は血と怨嗟に塗れる
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宝物庫に紛れたもの

「——フー、なんとかなったわね」 

 

 ワタシは、宝物庫の中で安堵の息を吐いた。思わず笑ってしまった声が聞かれた時には少し焦ったけど、上手くいって良かった。

 

 ——遡る事数時間前。怨霊として復活したワタシには、複数の選択肢があった。——すぐに復讐を始めるか、公爵邸に潜伏したまま機会を伺うか、あるいはここから逃げ出すか。


 公爵邸で復活できたことにより、復讐を行うのに絶好の機会をワタシは得た。まだ死んだことを知られてない事は絶対的なアドバンテージとなる。ただし、ワタシはまだ弱いから失敗する可能性が高い。

 しかし、外で力をつけてから機会を伺う事も難しい。大都市には例外なく、魔物の侵入を防ぐための結界が張られている。ワタシみたいに内部で生まれたならともかく、外から気付かれずに侵入するのは難しくなる。気付かれても問題無いくらいに力をつけるのは、時間が掛かりすぎる。

 となると、公爵邸に潜伏し、力をつけつつ機会を伺うのが一番に思えるけど、これも簡単ではない。潜伏する方法が思いつかない。ワタシは家族からは忌み嫌われていたが、同時にその異常性から恐れられてもいた。義母や姉はともかく、あの父はとても優秀な人だ。ワタシが怨霊と成ることくらい想定して、聖典教会の神官を呼んで、屋敷全域の浄化を行ってもおかしくはない。

 そして、迷っている時間もあまりない。もうすぐ、一日に一回は使用人がわたしの様子を見に来る時間になる。


 どうするべきか考えていると、あるものが目についた。()()を使えば、上手くいくかもしれない。一種の賭けだけど、やってみよう。ワタシはさっそくそれを実行に移した。


 結果は大成功。読み通り、公爵邸の宝物庫に逃げ込むことが出来た。宝物庫は、公爵家の財の中でも特に価値の高い物や表に出せない物が入れられている。それを護る為に、宝物庫には厳重な結界——都市の物と似た防衛術式を施している。それごしでは神官の浄化の術などまったく意味を為さないし、表に出せない物がある以上神官をここに入れることもない。つまり、ここ程潜伏するのに向いた場所は無い。宝物庫を守る術式の効果も、外敵の侵入を防ぐ事と、万が一の時に内部にあるものの影響を外に出さない事に特化しているため、内部に入れれば見つかることもない。


 問題はどうやってここに侵入するかという事。宝物庫が開けられることはほとんどなく、年に数回あればいい方だと思う。そのため、通常なら侵入するのは非常に難しい。だが、幸いなことにそのために必要な物は目の前にあった。ワタシは、宝物庫に兵士たちが運び込んだソレに目をやる。

 

 ——それは人形。しかもかなり大きく、120cmと子供くらいのサイズのもの。かなり精巧に作られていて、ぱっと見人にしか見えない。そして素材もかなり良いものが使われている。純白の木で作られた体、真紅の宝石の埋め込まれた眼にさらさらの銀髪。絹で出来た黒のワンピースに、黒革の靴。

 これは生前家族から送られてきた数少ない物の一つだ。一人でいるワタシを憐れんで作られた遊び相手、というのが、表向きの理由。これは元々姉の為に作られたのだが、あまりにも精巧過ぎたため姉が気味悪がり、処理に困った父がワタシに押し付けたというのが本当の理由になる。人形を渡された時は気になることが幾つかあったものの、ワタシは結構この人形を気に入って大事にしていた。


 ただし、今回ワタシが目を付けたのは別の所だ。これは元々姉に送ろうとしていたもので、素材も中々いいものを使っている。体の素材には霊木という高価な木材を、服には高級絹糸といったふうに。正直、人形に使うには資財の無駄ともいえる程に高級だと思う。髪に使っている一角獣の鬣とかは、この国じゃ所持が違法に当たる物になる。そして、そんなものを万が一にも神官に見られるわけにはいかない以上、父はそれを隠す必要がある。神官に絶対に見つからない場所、つまり宝物庫に。

 ワタシが使っていた人形である以上、捨てられるかもしれないとも思ったが、こんな貴重な素材を使った物を捨てることは無いと判断。一時的に人形に憑依して待機。やがて遺体が見つかり、そして予想通りに人形は宝物庫に運ばれ、無事に潜伏場所の確保に完了した。

 

 だが、この計画にはもう一つ問題がある。宝物庫の扉は滅多に開けられることが無く、内から開けられなくなるので自分では出ることが出来ないという大きな問題が。だからこそ潜伏しやすいというメリットを持つのだけど。けれどワタシは敢えてリスクを冒してでも潜伏することを選んだのには他にも理由がある。むしろ、この理由があるからこそ私は潜伏することを選択した。

 ——宝物庫に潜むもう一つのメリット。ワタシが潜伏するここは大貴族の宝物庫と言うだけあって、様々な物がある。金銀財宝、希少な魔物の素材、珍しい魔術具、そして禁書とも呼ばれるような未知の書物——それらを始めとした外では簡単に手に入らない、貴重な物の数々が。これらを使用することによって、ワタシは自らを鍛え上げる。——復讐を遂げるのに十分なまでに。

 

 タイムリミットは、三カ月後にある、姉の十五歳の誕生日。その日に宝物庫が開けられ、中にあるガンダルヴ家の秘宝が出されることをワタシは知っていた。それまでに出来るだけ力をつける。そして扉が開いた時、——その時こそワタシが公爵家への復讐を果たす日だ。


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