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Nightmare Alice  作者: 雀原夕稀
一章 夜会は血と怨嗟に塗れる
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人形は術式を暴きだす

 ——そもそも、魔術とは何か?魔術とは、人が魔法に近い力を使うために、生み出された技術。太古の時代のエルフ——人族の一種で魔力の扱いに長けた種族——が魔術の構成たる言語と式を生み出し、ドワーフ——同じく人族の一種で鍛冶や物作り長けた種族——がそれを発動するための触媒を作り上げた、技術の結晶。


 魔術の発動には複数の要素が必要となる。まずは、魔術の構成の元、魔術言語とそれによって作られる魔術式に関する正しい知識。これが間違っていては、魔術を扱う事は絶対に出来ない。魔術の基盤、設計図である。また、自分に適性があるものでないと扱えないという注意点もある。


 次に魔術触媒。ドワーフが宝石や魔石を加工して作り出す、魔術を発動するための媒体。この媒体を通して、魔術を展開することで、人は魔術を発動させることが出来る。

 それと、魔術の発動に必要な魔力と、それを制御できるだけの技術。そして、自分が発動したい魔術のしっかりとしたイメージ。これが、魔術に必要な物になる。

 

 ——これらが揃って初めて、人は魔術を扱う事が出来るようになる。

 

 準備が整ったら、魔術の発動が可能となる。まず、脳内にて使いたい魔術の式を構築し、その魔術式を触媒を通して現実へと展開する。このとき、魔術式が正しく構築されていること、そしてこれから扱う魔術のイメージをしっかり持っていることが大事になる。特に後者のイメージは意外と重要となる。このイメージと魔術式に齟齬があると色々と不備が起こることが長年の研究で見つかっている。魔力消費量の増大、魔術の効果減少、果てには魔術の暴発も確認されている。それに対処するために《詠唱》によって口に出すことでイメージを明確化させる方法などが確立されていった。


 そこから魔力の充填に入る。展開した魔術式に魔力を流し込み、発動準備を行う。この時、魔力の量は当然として、それの制御技術も必要となる。魔術式は箇所ごとに流すべき魔力の量、速さ、繊細さなどが大きく変わる。強力な式ほどそれらが複雑に絡み合うため、それらに的確な対処ができる魔力の制御技術が必要となる。

 

 これが魔術の扱う仕組み。そしてそこから派生して生まれたのが魔術具——魔術の込められた道具である。魔術触媒を更に術具用に加工し、そこに直接術式を刻みこむことで作る《術具核》を組み込んで作り上げる。核に刻まれた術式しか使えないものの、魔力を流すだけで適性に関係なく魔術を扱えるのが特徴で、今の社会の基盤の一つとなっている。

 



 ——さて、話を戻そう。この宝物庫を守護している結界型の魔術具はかなり特殊なものになる。結界というのは他の魔術具とは違い、術具核だけでなく効果を及ぼす指定範囲にまで術式を刻まないといけない。屋敷で言うなら壁や床、都市で言うなら街全体に、という風に。更には、魔力の供給を行い続けないといけないためコストがバカ程高い。だから屋敷にどころか宝物庫だけでも結界を施している家は貴族と言えどそうはいない。...まあ公爵家程の大貴族ならどうとでも出来るのだけど。


 そして結界魔術具の最大の特徴、それは魔力を注ぐ部分と術式核が分かれていること。魔術触媒は元の魔石の質が高いほど、その効果もより良い。結界型の魔術具の核となれば、魔石の質は相当に高い物でないといけないし、更には特殊な加工も必要になるため、その価値はとても希少。そのため、それを壊されないように通常なら魔力を注ぎ込む機能を術具核から分離し、核は効果範囲内の最も堅固な場所に隠す。そしてそれを維持するための魔力供給口を別に用意する形になっている。


 この屋敷でいうなら、魔力の供給口は屋敷の二階、父の執務室にあるだろう。なら、術式核はこの宝物庫のどこかに隠されているに違いない。

 

 さて、それはどこか?見つける方法は、...ある。さっきも言った通り、結界型魔術具は効果指定範囲に術式を刻み込まなくてはいけない。それはこの宝物庫も同じで、巧妙に隠されているけど、よく見れば壁や床、天井に術式が刻まれている。進化を果たしたことで体のスペックが上がり、術式があると知った上でよく観察して、何とか気が付くことが出来るレベルの隠蔽。

 宝物庫に無数に張り巡らされ、偽装も施されている。術式そのものも複雑で、容易に理解できるものではない。...普通ならば、だけど。

 こっちだって伊達に化け物と呼ばれているわけでは無い。この一カ月で魔術の知識も十分に身に着けた。決して不可能ではない。...これ、見つけられたら色々と使えるし、やれるだけやってみよう。

 

 


 そこからは、術式の解析に費やした。...いや、本当に難解だった。見たこともない術式の構成が幾つもあって、そのたびにそれを理解しないといけない。途中で解析が間違えることも何度もあったし、遂には思考し続けたせいで、脳は無いはずなのに頭痛や眩暈さえしてきた。

 ——それでも、ひたすら解析を続けて、一週間。


「...見つけた」


 遂に術具核が隠された場所を見つけることが出来た。術式の大元があるのは、入り口付近の山の一つ、その床。正直、積み上げられた山は全部トラップだと思っていた。しかも、入り口付近のいかにも調べそうな場所にある山の床に隠すとは...。まあ術式を解読できないと見つけるのなんてまず不可能なんだけど。

 罠の仕掛けられた山を退かし、表に出たのは一見ただの床にしか見えない場所。そこに施された隠蔽の術式を解除し現れたのは、床下への扉、...とそれの鍵。


 軽く十万ピースは超えるであろうスライドパズル、しかも元の絵柄は全く分からない。更によくよく調べると、一定時間ごとにランダムに組み変わる仕掛けも施されている。追い打ちをかけるように、無理に開けようとすれば核が破壊されてしまう仕掛けまである。脱出するためだけならそれでいいんだけど、ワタシのある目的のためには核を壊すわけにはいかない。


 ...まあ、基本的に開けることのない場所だし、持ち運べる鍵ではもしもの場合があるからこその対応なんだろう。当然の守り、何だろうけど...、やってくれるなぁ...。


 ...いや、ここまで来て諦めて堪るか!やってやる!うおぉぉぉぉぉ!!




 ...そこから更に三日。性も根も尽き果てた頃、遂に鍵を開くことに成功。いやぁ、苦労した。あのスライドパズル、本当に鬼畜過ぎ。あと少しの所でパズルが組み変わってしまった時には、思わず扉を破壊したくなったし。


 鍵が開いた後で、念の為に妙な仕掛けが無いか再確認してから、そっと扉を開ける。そこにあったのは一辺2mほどの空間。そしてその中心に安置された、大きさ1m程の術式が無数に刻み込まれた黄緑色の宝石。



 ——これこそがこの宝物庫、更にはこの公爵邸全体に施された結界型魔術式。それの術式核だ。


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