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Nightmare Alice  作者: 雀原夕稀
第三章 劫火の内で騎士は吼える
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最悪の推察

 墓地を後にしたワタシ達は、再び都市の中心部に向け、歩を進めていた。

 気配を探りながら進んでいるとはいえ、今ワタシの頭の中を埋め尽くしているのは、先ほどの疑問。


 この国が亡びた理由、それを行った手段。何より、それに繋がるであろう、最も気になること。




 ——骸王の力、果たしてそれが何であるのか。




 浄化されているはずの遺骨を使役し、いつ消滅してもおかしくないほど摩耗した死霊たちを縛り続ける。

 それが一体どういう力によるものなのか、おそらくそれがこの国で起きた悲劇の真相を解く鍵になると、ワタシは確信していた。


 あと、骸王と戦うことになる以上、戦力分析は必須だもの。相手は格上である以上、勝ち目を増やすには情報があるに越したことは無い。

 その真実を掴むために、ワタシは思考に没頭していく。




 さて、改めて整理してみよう。


 ——骸王。災位・災害級と目される魔物であり、五十七年前に騎士国ヒダルフィウスを滅ぼした存在。


 生き残ったとされる聖典教会の神官の目撃証言から、人型であると判明。その証言から、おそらくは死霊術師が魔物に変じた存在——リッチと呼ばれる高位のアンデッドに類似する魔物であると推測される。教会の言が正しければ、の話だけど。


 現在判明している能力は、死霊の使役のみ。実際に戦闘したものがいるわけでは無いから、その実力は未知数。


 死霊魔法を扱うのは間違いないけれど、それには複数の不審な点がある。


 魂の摩耗限界を無視しての、死霊たちの強制隷属。

 浄化されたはずの遺骨を死霊に変じさせ、都市を襲撃。ただし、これは教会が浄化を行っていなかった可能性も考えられる。


 そして、その行動への疑念点。

 まずは災位でありながら、国堕としまで一度も姿を見せなかったこと。これは元が死霊術師であったなら、姿を隠していただろうから、まだ分かる。

 

 次に、突如としてヒダルフィウスを襲撃した理由。加えて国を滅ぼした後、広大な樹海を形成し、何人たりとも入れないようにし、護りを固めた事。

 護りに関しては、教会を警戒しての行動なら分からなくもない。ならそもそもなぜ攻めたのか、という点が謎だけど。


 それと、ギラールを越えた北、ハイダル帝国の属国を攻撃していること。帝国の力は、教会と同等以上と言っていい。アルミッガ大陸最大の武力国家の名は伊達じゃない。教会を警戒するなら、なんで同格以上の帝国を攻め続けるのか。


 それ以外で気になるのは、骸王の周囲で動く勢力の事。

 ビレスト王国は、まだいい。ワタシ個人としては絶対に潰してやりたい国だけど、樹海を攻略するという狙いに、嘘は無いと思う。無論、国としての利益云々とかはあるだろうけど。


 問題はイザール聖教国、ひいては聖典教会の方。

 樹海攻略失敗後、魔物を滅する主義を掲げていながら不可侵を貫いている点。

 骸王に関する情報を、教会の生存者だけ握っていた点。単に災位の襲撃から逃げられたのが、実力ある神官だったからという可能性は、無いとは言えないけれど。

 骸王の行動が、教会の利となっている点。



 

 ......こうして挙げてみると、不審な点が多すぎる。特に教会は、骸王と繋がっているとしか思えない。


 ただ、いくら何でもあの聖典教会が死霊術師を認めるとは思えない。ガズであった奴らを思い返してみても、あれらの禁忌への忌避感情はどう見ても本物だった。あれが教会での基本なら、自ら魔物に堕ちた者など到底受け入れられないはず。


 けれど、奴らが手段を選ばない一面を持つことも、また事実。純人以外を排斥し、人と認めない姿勢。そういう意味で、奴らにとって帝国は相いれない存在なのは間違いない。敵を消すために敵を使う、その可能性も無いとは言えない、かも。


 ......いや、帝国と魔物、どちらと組むと言われたら、人であれば普通は帝国だろう。魔物は人類の敵、それは間違いないことだもの。その禁を破るとは、到底思えない。


 いっそ、考え方を変えてみよう。骸王は魔物じゃなく、あくまで死霊術師の人間の可能性は無いだろうか。それなら、教会と手を組んでいてもおかしくは......。

 ......ないわね。死霊たちに掛けられているのは、明らかに死霊魔法。人の身で扱える術の範囲を大きく超えている。これは、人間のまま使えるような代物じゃない。


 駄目だ、頭が混乱してる。後一歩で見えてきそうなのに、肝心な何かが足りていないこの感じ、本当にもどかしい。


 ......そうだ、死霊魔法。骸王のそれがおかしいのは、何か特殊な力を持っているからに違いない。その正体も、未だ判明していないけれど。

 死霊をここまで隷属させ、縛る力。ここまで摩耗させてもなお、消滅させない所業。どうやって、こんなことを為しているのか。


 元が死霊術師なら、ワタシの知らない研究成果でもあるのか。あの糞オールヴみたいなマッドな性格をしているなら、ありえる話ではある。


 もしくは、固有スキル。ワタシの〈愛し子〉のような、特殊な力を......。





「—————()()()()()()......」





 ————何かが、繋がった気がした。さっき、あの壁にぶつかった時は気づかなかった何か、核心に触れた感覚。


 それを手放さないよう、ワタシは思考を巡らせる。


 死霊魔法。


 聖教国。


 オールヴ。


 浄化。


 魔物。


 ビレスト王国。


 ——■■。



 

 繋がっていく。

  

   今まで見えていたものが、全てひっくり返る。

 

     メッキが剥がれたピースが形を変え、組み合わさって新たな形を作り出す。




 ————ああ、()()()()()()




 未だ見えない点はあるけれど、大まかには分かった。


 骸王の力、その正体も。




 ————()()()()()()()()()()()




『————————』


『ッ!?ぬぐぅっ!?』


「キュッ!?!?」


『お嬢様っ!?』

 

 ワタシは思わず、瘴気と殺気を撒き散らしてした。突然の変化にイオ達が驚いているけれど、今のワタシには彼女たちを気遣う余裕は無かった。




 ワタシは、死霊魔法を使う上で引いている一線がある。いや、死霊魔法に限らず、復讐においても似たような線引きをしている。これは先ほど、骸王とのスタンスの違いを比べた際の事に繋がる、その大元の考えの話。




 ——それは、死者の魂を必要以上に弄ばない事。




 ワタシは死霊魔法を扱う際、出来るだけ死霊を酷使することはしないように心掛けている。樹海を彷徨う彼らにしても、案内はしてもらいながら、消滅しそうな彼らに無茶させないようには気を付けていた。  

 ガズで暴走した際には意図しない使役になったけれど、事が終わり次第彼らは解放した。それは彼らに対する一種の敬意、に近いのかな。


 敵対した相手や復讐対象にしても似たようなものだ。殺す相手、憎む対象であるからこそ、彼らには容赦のない仕打ちは下す。けど、死した後までその魂を長く弄ぶことだけはしない。死んだらそこまで、それで終わり。


 徒花や弔花にしても長く持つ呪詛では無いし、オールヴを始めとした殺した対象の魂から死霊を生み出すこともしていない。

 ガンダルヴ公爵家では、イヴに対して魂を混同させようとしたけど、あれも成功していれば死んだ後に輪廻に還っている筈だった。結果イヴが覚醒する事になったけれど、三人の魂はあの時点で解放され、輪廻に還っている。まぁ一部がイヴに混じっているだろうけど、それもほんの一片に過ぎない。


 とはいえ、それはあくまで必要でなければの話。敵を討つために多くの死霊を強制的に使役することだってあるし、必要なら復讐対象の魂を甚振り続けることだってあるかもしれない。それとあくまで死者に対して、の線引きであって、生きている間であれば一切合切容赦はしない。


 ......ハーヴェス?あれは廃人だけど、一応生きているから、ノーカン。




 ともかく、ワタシは自身の中にその一線を引いている。あくまで自分に架したモノで、別に他者に強要するようなものでは無いし、それを理解してもらおうと思っている訳でも無い。


 それにワタシの行動だって、他からすれば似たようなものだろう。

 そもそも、ワタシの復讐を肯定できる者すら、ほとんどいないはず。一般的な感覚からしたら、悍ましい行為であることに変わりはないからね。




 ——けど、そんなワタシをして、骸王の所業を一言で言い表すなら。




『————————これは、無い』


 ——外道。そうとしか言えないほど、奴は悍ましい。


 元々、奴とは絶対に相いれないとは思っていた。けれど、もうそれどころではない。


 奴の所業は、ワタシの逆鱗に触れたどころか、それを引っこ抜くような行為に等しい。これを、ワタシは認めるわけにはいかない。今すぐにでも、奴の穢れた魂を消し飛ばしたい衝動を抑えられない。


 無意識の内に、声に呪詛が乗ってしまう。感情を抑えきれずに、駄々あふれになる。


 ......いや、今はこの感情を抑えないと。これをぶつける相手は、まだ先にいるのだから。


『—————、............、フゥ」


 ゆっくり感情を抑え、瘴気と殺気を治める。心配そうに見つめるフューリ達に向かって、心配はいらないと手を振る。

 とはいっても説明しないわけにはいくまい。事実、黒騎士やフューリはワタシが何かに思い至ったのだと、察しがついているのだろう。


『......何かに、気づいたのだな?』


 そしてそれがこの国、そして骸王に関係することであることにも。


「ええ、気づいた、......気づいてしまったわ」


 ワタシは息を整え(人形の躰に呼吸はいらないけど)、ゆっくりと黒騎士へと向き直る。


「これは、あくまでワタシの予測でしかない。それを前提に、聞いてちょうだい」


 そしてワタシは彼らに語る。


 ————ワタシの導き出した、最悪の推察を。


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