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転生王女 ~神様、転生したら王女って……どういうことですか!~  作者: シマユカ
第一章「転生王女は神の御子」
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28. 秘密のお願い事ーⅠ

 


『……よろしいですか? 殿下。私共が目を瞑れる間にも限りがございます。……ですので、必ず約束の時間までにお戻り下さいね? 』



 私の侍女は皆優秀だなぁ。その優しさと気配りに感謝しなければ。





 ――場所は変わり、そこは宮内の柱廊…………の、先の角を曲がった先の誰も寄り付かなさそうな裏庭というわけではない裏通り。



 白いフードで身を包んだ私は、人目を避けるようにその場所へ向かっていた。……しかし、一人の見張りの衛兵がこちらに気付いてしまう。



「……! これはリディア王女。このような場所でいかがされたのですか? 」


 顔が隠れているはずなのに何故バレたのだろうか。何の疑いもなくにこやかに挨拶をする衛兵に、疑問を浮かべつつも私も特に心を乱さずに言葉を交わした。


「見回りご苦労様です。……少し用があって。」


「お一人で……で、ございますか? ……よろしければ道中の御供をさせていただきますが……。」


 お付きを連れていない私を案じたのか、衛兵は不思議そうにしつつも職務を忠実に全うしようとしていた。


「いえ、少しの間で済むので問題ありません。」


「しかし……侍女も付けず一体どちらへ……」



 話しつつ、次第に衛兵は不審を感じ始める。……やはり堂々と歩いていればよかったか? ……いや、でも忍んでおかないとここまで来るのに余計に時間がかかっただろう。白やら黒やらのフードは神官や魔導師も被っているので目立たないと思ったが、気づく人は気づいてしまうのか……。


 しかし、私もここで時間を食うわけにはいかない。





 ――仕方ない。《()》を使ってみるか……――





「……そういえば……あの、何故フードを……?」


「―――ねぇ……衛兵さん……? 私、どうしても一人で行きたいんです……。」





 私は右手でフードで顔が隠れた部分を少し外して衛兵と目を合わせた。優しく微笑んで見せると、衛兵は不意を突かれたようにドキッとした表情に変わる。





 しかし、その瞬間――……





(…………え、何だ……? 王女の眼が赤く変わっていく様な……)





 《――――キィィィィンッ――……》





 衛兵の浮かべた疑問も束の間。


 神秘的な美しい宝石の色を映しているかの様に……、私の両の瞳は赤い光を灯した。





『だから……この場は見なかったことにしなさい。』





 ――衛兵は、その瞳を見た途端……引き込まれるように己の深層意識が支配される感覚に陥り、本来の自らの意思や抱いた僅かな疑問すら全て砕かれ……どうでもよくなるような気さえ感じていた。





「……承知……致しました……。」





 呆然とする思考回路のなか、私の放った声に導かれるままに……肯定する言葉を発した衛兵は、そのまま意識がはっきりしないまま……フラフラとおぼつかない足取りでその場を離れていった。


 端から見ればまるで操られているようにも窺える。


 立ち去る衛兵を見届けてから、私は直ぐに瞳を閉じた。数秒の沈黙の後ゆっくりと目を開けると……赤い瞳は『――スゥッ……』と奥に消えていき、元の翡翠の色へと戻っていった。



「――……っ……!」



 けれど同時に襲ってきた頭痛に頭を抑え、眉を潜めながら私は苦痛を覚えながら小さく呟いた。





「……――やっぱりコレ、疲れるな――……。」





 ……時間もないし、先を急ごう……







 *







 ――手紙に記されていた場所はこの辺りだ。


 見たところ……人通りが少なく、このような裏通りならば滅多に誰も訪れないだろう。秘密に落ち合うには最適かもしれない。私は手紙をその手にヒラヒラと軽く持ちながら、辺りを見渡して目的の人物を探してみた。



 さて、手紙の主はどこにいるかな……?





「――……こちらでございます、リディア姫。」





 声がした方向へ目をやると、そこには目的の人物が柔らかな物腰で立っていた。



 ――上品な衣服に身を包み、貴族男子に相応しいスマートな着こなし。その血筋特有の深い藍色の髪に、スラリと伸びた背丈。

 大体の女性ならばひと度すれ違えば思わず振り返り、惚けてしまう美青年ぶり……。


 その青年は落ち着きのある口調で微笑み、手には一通の手紙を持っていた。

 ……シンプルだけど上品な紙材の白い便箋。彼が持っているのは間違いなく……今朝方、私がとある目的を円滑に進めるために、文筆をしたためて秘密裏に届けた手紙だった。



「お久しぶりですわ、公子殿。」


「ご機嫌麗しゅう、姫。」



 フードを外して微笑むと、直ぐに同じ微笑みで挨拶を交わした彼は、静かに私の前へと立て膝をついて華麗にかしずくと……徐に私の右手を取って、そのまま……『――チュッ。』と音を立てて手の甲に唇を落とした。



 ……相変わらず抜け目ないほどスマートな男だ。



 淑女への挨拶に紳士が手の甲にキスを送るのは、貴族の間ではごく一般的な挨拶方法の一つだ。現に、私も公務で貴族男性と挨拶を交わした時にたまにされることがあった。……けれどそれは、たまに(・・・)だ。


 会う度わざわざ膝まづいて女性の手にキスを送って挨拶をするだなんて、時間も手間もかかるし何よりキリがない。その場に何人もいたらどうするんだという話しになる。



 通常は頭を垂れる程度が今の主流の挨拶だ。



 だからこの挨拶の現在での使い方は……相手に最大の敬意を示す行動を取る時か、意中の女性を口説きにかかる時のアピール法として活用されている。



 そしてこの男は……正直その意図が汲み取れない。



「衛兵には見つかりませんでしたか?」


「いえ。ご存知の通り、"隠密"は私の得意分野ですのでお任せください。姫はどうです?」


「……私は一人見つかってしまいましたが、快く見逃していただきましたわ。」



 …………裏技使ったからね。



「流石です。……何分、姫はオーラがありますのでフードがあっても直ぐにバレてしまいますから。」


「? オーラでしたら公子の方がおありですわ。」


「まさか。私など姫の清廉たる美しさに比べたら、足元にも及びませんよ。」



 面と向かって歯の浮くお世辞をこの男は……照れもせずによく言うな。



「しかし人目を忍んで姫とお会いするのは……少しイケない事をしているみたいでワクワクしますね。」


「…………まぁ、ご冗談を。ふふふ(棒)。」



 誓って、これは逢引ではない。





 ――彼の名前はセルジス・エンフィールド。


 この国のパワーバランスを保ってくれている三大公爵家の一つ、《王家の右腕》たるエンフィールド公爵家の子息だ。

 次男であるにも関わらず、18歳という若さで既に次期当主の席が約束されており、その家系の血筋に相応しい……王国トップクラスの剣の使い手でもある。


 エンフィールド家は代々優れた騎士の家系であり……つまり現当主である彼の父は、オリエント王国騎士団団長だ。


 その思考は決して脳筋に寄りすぎず、力に頼りすぎず、柔軟に物事を対処し、宰相とまでは及ばずとも広い視野で戦況を把握する……物腰柔らかな騎士道精神を抱く思想の家系……。統率能力が高いせいか、国民からは信頼の厚い支持率を得ている。


 セルジスは特に性格の方に、より一層の高いカリスマ性を持っており……――才ある能力、頼れる騎士、紳士な物腰が合わさって……周囲から……主に女性から貴公子だと謳われている。男性からはよく慕われていた。


 身分を笠に着ずに気立ての良い器量の持ち主。確かにその評価は過剰すぎるとはあまり思えず、見た目は爽やかな貴公子然としてる。……見た目はね。



 世の女性はこういうのがお好みらしい。





「――毎回無理をお頼みしてごめんなさい。突然お呼び立てして、ご迷惑でしたか? 」


「他でもない、リディア姫のお願い事なら喜んでお引き受け致しますよ。……それに、貴女様には恩もありますし。」


 そう言ってセルジスは懐かしそうに思い出に浸る目をしていた。



 ……まだそんな昔の事を覚えていたのか……。



「――姫は……私の命の恩人ですから。」



 当時彼を含めた色んな人から十分なほど礼を言われたが、今でも丁寧に義を通す姿勢には感銘ものだ。本当に大した役ではなかったから別にいいんだけどね。





 ――私は昔、彼の命を救ったことになっている。


 確か6話辺りで説明した……子供の頃に私が公爵子息の暗殺を未然に防いだというアレだ。そのときの公子がセルジスだ。


 当時から恵まれた才能で逆に悪目立ちしてしまったのか、それを愚かにも嫉妬した長男によって危うく謀られそうになるも、事前にそれが事件となること(・・・・・・・)を予期していた私の助言で事なきを得た……という次第だ。


 あの時はギリギリだったな……。セルジスの存在を知ったのがその日(・・・)だったから、私は慌てて猛スピードで公爵の所へ駆け付けて教えたのだ。



 ――思い出すのがもう少し遅ければ、今頃彼は本来の物語通りの(・・・・・・・・)癒えない傷を背負ってしまっていただろう。



 ぶっちゃけソレよりも私が鮮明に覚えてるのは……子供だったから多目に見られたものの、宮内を猛々しくダッシュした様を目撃した時の……侍女長のあんぐりとした顔……。


 あの後、ものっっすごく怒られて怖かった。



 ……確か事件のあと、長男は罪に問われて後継者の権利を剥奪され、現在は分家の辺境地でひっそりと生活を送っているそうな。


 身分剥奪や国外追放、はたまた処刑など、色々意見が飛び交っていたらしいが……そこは親心なのだろうか。未遂だったこともあって公爵はそこまで手酷い判断は下さなかった。



 公爵を含む関係者は皆、私にお礼を言っていた。しかしやはりこれらのことを私の神力……『予知』だと認識され、以来、暫く他の野心家の貴族達が予知を使ってのしあがろうと、まるで占われに来るかのように私の元へ押し寄せてきてた。



 ……流石に主要人物以外の未来までは分からんよ。



 勿論、私に予知の力はない。あの事件の種明かしは…………私が『以前の世界』で元々、『この世界の物語』を把握していた(・・・・・・)から知り得た事だ。



 ……この男の本性がどうであれ、物語の主要人物を失うわけにはいかないからね……。


 あの盗賊を見逃そうとしたのも、そういう理由からきたものだったし……。





「――……それで、公子。手紙でお願いしていた件は……どうなりましたか? 」


「あぁ、そうでしたね。失礼しました。」


 話は本題に戻り、セルジスは気を取り直して上着の内ポケットからとある紙束を取り出した。そして今一度、確証を得るために私に今朝の手紙の件を切り出そうと、口を開く。



「……どうぞ、こちらが今日の生誕パーティーの……参加者リストです。」



 私はセルジスから紙束を受け取り、それが目的のものだと確認してからにっこりと微笑んだ。




「ありがとうございます。」





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