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転生王女 ~神様、転生したら王女って……どういうことですか!~  作者: シマユカ
第一章「転生王女は神の御子」
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18. その補佐官は思案するーⅡ

 


 ――俺が初めて彼女と対面したのは6歳の時。



 …………本当はそれよりも前に俺たちは出会っているのだけれど、きっと彼女は覚えていないだろう。



 それについては後々語るとして…………当時、陛下の命を受けた者によって第1王女のお遊び相手として歳の近い子供から幾人かを選抜し、王宮へ遣わすことになったのだ。


 そのお触れは国中に広まり、自らの子息や息女を売り込む貴族たちが後を絶えなかった。

 しかも条件の中に、ある程度の身分は問わないというのだから競争率はさぞ高かったことだろう。


 ――他でもない、《神の御子》にお近づきになるチャンスなのだから……。


 俺はというと……知らない間に実父とお仕えする男爵家のご当主様が結託し、歳が近い者が他にいなかったとはいえ勝手に息子の俺を推薦し、あれよあれよと王宮へ連れられ試験を受け、平民でありながらも家業のお陰で従者教育を身に付けていたことも評価され、晴れて運よく彼女のお遊び相手に選ばれた……というのが事の経緯だ。


 このまま男爵家で仕えるものとばかり思っていたから、幼くして驚きの経歴が生まれてしまった。

 けれど俺の存在は、父と男爵様が王家と関わりを持つがための……完全に橋渡し役だったけど。



 ――兎にも角にも、自国の王女様と対面することになるのだけれど……当時から彼女はその年齢には似つかわないくらい大人びた女の子だった……。


 …………初めて出会った頃とは違って…………。


 一見するとごく普通の子供だ。

 なのに、穏やかそうな笑顔にはどこか裏めいたものが感じられたり、奔放に行動していても実はちゃんと意味があったり。誰にも優しいのにどんな貫禄ある相手であっても真っ直ぐ見据えて物怖じしない一面もあった。

 無垢なように見えて、感情を露にすることがないから本心が見えづらい、不思議な子……。


 一つしか違わない筈なのに一回り以上の年齢差は感じさせられてしまうような気さえした。


 故に……彼女はとても強かだ。

 少しの事ではその笑みは微動だにさせない。心の機微を見せることもない。もし彼女が役者をしていたら、確実に看板スターを張れただろう。



 ――だけどある日、俺は彼女が怒っている姿を見てしまった……。ただ怒りを相手にぶつけていたわけじゃない。表情は笑顔のまま、ただその背景にどす黒いオーラを纏っていた。


 言葉は丁寧なまま……彼女はただただ笑みを浮かべている。……それがまた物凄く怖い。

 ――ちょうど、今みたいな感じだった……。



 子供の頃からあの様な術を身に付けていた彼女が、どんな場面であっても本心の片鱗ですら人に見せるのはとても珍しかった……。





「――陛下は、約束を破られるのですね?」


「……いや、破るのではない。ただ延期すると言っているんだ。」


「つまり期限は破られるのですね?」


 陛下は冷静に話しているけれど、その表情筋は少し強張っている。それを見逃さなかった彼女はすかさず言葉を入れ、言質を取らんとしている。

 笑みは崩さないままオーラだけが黒い。


 周りが止める術もなく、二人の間には先程からささやかな論戦が繰り広げられている。

 その間、近侍の者たちがだらだらと汗をかいて焦りを見せいた。


(……何だこの心臓に悪い会話は……。)


 思考も一致した。




「……不服か、リディア。」


 痺れを切らしたように陛下は彼女の本心を訊ねた。すると彼女はわざとらしい口調で掌を口元に当てた。


「まぁそんな。不服だなんて。

 恐れ多くも国王である父上様に対してそのようなこと、申せませんわ。」


 まるで「思ってはいますよ。」といった風な含みを感じさせる言葉を放つ彼女に、更にこの部屋の空気にビュオオオオッと冷たい風が吹き、凍り付いた。


「……お前は相変わらず皮肉を言うのが達者だな。益々、叔父に似たのではないか?」


「皮肉? ふふ……。いやですわ、父上様ほどではありません。」



 ――ピシャーンッ! と、二人の間に亀裂が走る音が聴こえる。



 陛下が眉間に皺を寄せて不快そうに嫌味を放つも、彼女はあっさりと反撃している。にこにこと。


 ルクス様が困った顔であわあわと陛下と彼女を見て、横にいるアレクセイ様に「止めましょうよっ!」と助けを求めて目で訴えかけているけど、アレクセイ様も「どっちをだ……。」と投げかけるように苦い顔をしている。

 ……反面、シリクス様は先程からくっくっく……と小さく笑いを堪えているみたいだ……。


 ――実をいうと陛下と彼女の囁かな論戦はこれが初めてじゃない。昔から陛下やアレクセイ様とはこんな風に、静かに物騒な言い争いに陥ることがある。

 といっても……いつもはそれを止められる人物がいるし、彼女もにこやかに論破しているから喧嘩とまではならないけれど。

 怒っているのは今回が珍しい。



「まぁまぁ、お二人さん。」


 ……二人の間に座っていた人物が抑えるように両手を上げ、ようやく口を挟んだ。


「楽しい食事の最中なんだし暗い話は止めようぜ。父さんもその件についてはこんな場じゃなく、執務室なりどこかで話せばいいだろ?

 リディアも後でゆっくり話しな?」


 口調は陽気でもどこか冷静さも感じさせるシリクス様の言葉には、やんわりと二人の空気を抑えているようにも感じられた。

 ……家族とはいえ、国王陛下に軽い口振りで話すのはシリクス様くらいだ。

 呼び方も話し方もいつでも敬意を払うアレクセイ様たちに比べてシリクス様だけは、必要な場以外では陛下に砕けた口調でお話されている。

 陛下も特に言及していないみたいだ。

 なので唯一、この空気を止められる人物なのだけど……何でもう少し早くに止めなかったのだろう。


 ……まだ微かに笑いを堪えてるし。



「……はい、かしこまりました兄上様。」


 彼女はふぅ……と息をつき、にこやかに答えた。その後すぐ「では父上様……」と言葉を続けた。


「食事の後で父上様のお部屋をお伺いしてよろしいでしょうか。」


 ……逃がすつもりはないらしい。


「――わかった。では後で来なさい。」


 彼女の満面の笑みにはまだ黒い陰りが見えてしまうが、陛下は静かに頷いた。


 ……その後二人は何事もなかったように残っている食事の皿に向き直り、いつも通り陛下は黙々と、彼女は食事を楽しんでいた。


 ……これは……とりあえず話は一時終了したと取っていいのだろうか?


 周囲がほっと胸を撫で下ろした。俺は不安と疑問を頭に浮かべつつ二人を眺めていると、……ふと、眼前のシリクス様と目があった。

 彼は俺の表情に気付くと軽く笑みをこぼした。


「?」


 やはりよく分からない人だ…………。



 *



 ――王家の方々が食事を済ませて部屋を退出される頃、俺もアレクセイ様に付いて部屋を出るべく足を踏み出したとき、横で小さな声が聞こえた。


「……陛下は相変わらず姫様にお厳しいな。」


「食事の席でくらい、もう少し柔らかな口調で仰られればよろしいのに……。」


 ……などという会話がする。


 うーん。それは少し違うんじゃないかなぁ。

 少なくとも俺には陛下は彼女に厳しく接してるわけじゃなく、充分に配慮した目で見てると思う。

 陛下とアレクセイ様はよく似てらっしゃるから………………なんというか性格的に。


「リディア様、大丈夫かしら……?」


「あの方ってたまに凄く……こう、有無を言わさない『圧』が出てる気がするんだよなぁ。」


「結構裏では黒いんじゃない?」「え~、やだぁ!」と近侍たちが片付けをしながら流暢に話している。

 やはり皆、彼女には清廉潔白なイメージを抱いているんだろう。本気には取ってはなさそうだけど勝手な会話を続けていた。


 ――俺は小さい頃から知っているけど、たとえ彼女の本心が普段の振る舞いから大きく違っていたとしても……嫌いにはならないし嫌うはずなんかない。


 ……あの娘が誰よりも優しいのは嘘じゃないから。







「――アレン、何をしている。」



 …………ハッ! と、気付くとそこはアレクセイ様の部屋にある執務室だった。

 目の前には壁際の本棚が並んでいる。


「アレクセイ様。」


「任せていたものは見つかったのか?」


 ……そうだった。あれから食事室を出て、今はアレクセイ様の政務処理をお手伝いしてる途中だった。


「は、はい……! こちらにっ。」


 俺は直ぐに手に持っていた書物をアレクセイ様に手渡した。……どうやら先程の夕げの席での出来事が気掛かりで、資料の書物を探している合間に本棚の前で立ち呆けていたらしい。

 時間が開いてしまった上にずっと動かないままだったから、アレクセイ様に変に思われてしまったのだろう。


 幾ら親しい人の様子が気になっていたとしても今は仕事中だ。恐れ多くも首席を賜る補佐官の身なのだから、しっかりしないと……。



「――……。」



 ――すると、今度はアレクセイ様が書物を受け取ったままその場で静かに沈黙している。


「如何されましたか?」


「……リディアは今頃、陛下のところか……。」


 ぽつりと、小さく呟いていた。

 ……成る程。アレクセイ様も陛下と彼女のやり取りを思い出されたんだな。

 俺はふっ……と和やかに微笑んで見せた。


「ご心配なさらずとも、リディア様なら大丈夫ですよ。」


 アレクセイ様の心中を察したつもりだったのだが、俺の言葉にアレクセイ様は慌てたようにカッと言い放った。


「!?………な……し、心配などするか!

 私はただ、あいつが父上に無礼を働かないか……それだけ気がかりなだけだ!」



 ……その割には、何やらお顔が真っ赤に染まってますが……。


 どうやらやんわりとお心に尊重したはずが、俺は図星を突いてしまったようだ。

 アレクセイ様はつかつかと勇み足で政務机へと戻り、強めの勢いで椅子に座り直している。

 ……相変わらずこの人は分かりやすい。


 俺からしてみれば、陛下とアレクセイ様は実に分かりやすい。本心を探り当てるのは容易だ。

 ルクス様もまだ子供だという点もあるけれど素直な性格だ。……まぁ俺は特定の人物が絡んだことに関してだけは、少し嫌われているけど。

 それに対して、シリクス様と彼女は本心が見えづらい。容姿が似ているせいだろうか……。あの二人が一番清々しい性格をしていると、密かに思う。


 ……あの二人はともかくとして、先の二人については何故皆気づかないのだろう……。


 近侍の者たちに完全に同調するわけじゃないけど……アレクセイ様たちも、もう少し素直になれればいいのになぁ……。とは常々思ってる。


 ――彼女は知っているだろうか?

 彼らがいつもどんな言葉をかけたがってるのかを。先程、陛下がなぜあんな言い方で仰っていたのかを……。


 あの中で俺は陛下の真意に気づいていたからこそ、同じく察していたシリクス様と目があった時、微笑まれたのだろう。

 彼の目には恐らく、俺の気づいている表情が映ったんだと思う。


 ……けれど、会話の続きを誰も見ていない別の場所でしたとしても、あの様子では陛下はきっといつもの口調で彼女と接してしまうだろうな……。

 今日の彼女は珍しく怒っていたわけであるから……それを危惧すれば、やはり少し心配かもしれない。


 内心では彼女の意思を尊重したい。けれどその先の不安が完全に消えなければ、陛下は頑なに首を縦に降らないだろう。


 ……食事室から出たとき、彼女は何か策があるような表情をしていたけど……大丈夫だろうか?



 ――とりあえず、今は二人の間に何事も起きないように祈るばかりだ……――。







次回からリディア視点に戻ります。

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