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転生王女 ~神様、転生したら王女って……どういうことですか!~  作者: シマユカ
第一章「転生王女は神の御子」
13/33

11.その盗賊は不敵に笑うーⅠ

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ――玉座の間を退出してからまだ数分のこと。

 苦痛の聴取を終えて私室に戻った私は力尽きたようにベッドでうつ伏せに身体を倒した。因みに侍女には休むからと下がってもらった。



 《・・・・随分と憔悴しているではないか。》


 ――誘拐なんかよりあの場にいる方がよっぽど疲れました。活力を使い切った気分ですよ。


 《・・・・あれは見事な名演技だった。偶然の辻褄を直ぐ様利用するずる賢さ、周囲の同情を誘うあざとい仕草……いやはや、この十数年で随分と腕を上げたな。嫌々ながらと言ってはいても、いけしゃあしゃあと爽やかに微笑む様は流石流石。》


 ――褒めてるんですかソレ……。



 上手く切り抜けられたのはよかったけども。

 幸い奇跡の解釈によって予想していた結果の斜め上をいってしまい、また周囲から神々しい目で見られるのは窮屈だけど……。


 だが、もしもやり通せなくても出来れば使いたくない方の「奥の手」をやはり使えばいいだけなので結果的に上手くいっていたとは思う。神様の予知もあるし。



 ――というか、思うんですけど……今回の件、過程まで全部教えといてくれればこんなにハラハラすることなかったんじゃないでしょうか……。


 《・・・・未来というものは把握しすぎるとつまらないものだぞ。回避できる未来ならば告げずとも良いと判断したまでだ。》


 ――その予知に私の精神(メンタル)ダメージはちゃんと入っていますか。


 《・・・・とはいえ私もお前に死なれては困る。お前の命が危ぶまれる可能性が高い場合はちゃんと支援するから安心せい。》



 ……誘拐も充分危ないと思うんだけども……。


 あの盗賊さんたちの処遇はどうなるんだろう。ご時世的に考えたら重罪だろうから実刑は免れないかも……。

 本来の筋書き(・・・・・・)だと出てくるのはあと少し先だし、相対する相手(・・・・・・)も私じゃない。……と、すると今捕まると筋書きが大きく変わるかもしれないな。



「……あとで一度整理しておこう。」



 私はふかふかとした布団に身を寄せながら今後の課題を思い返していた。



 ――神様、せめて私を知ってる人物(・・・・・・)に生まれ変わらせて下さいよ……。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 ――一方、王宮内・騎士団の地下牢にて――



『……カツカツカツカツ……』



 一人の騎士の足音が響く。


 騎士は地下の階段を下り、その足で奥にある囚人の収容場所へと進んでいった。先々で幾つも牢が立ち並ぶ中、騎士の足は迷わずその一番奥にある牢を目指している。


 そしてその扉の前で足を止めると見張りの騎士がすかさず敬礼を行う。



「――……! 隊長、お疲れ様です。」


「ご苦労。……()の様子はどうだ。」



 やって来たのは上級騎士。今回(・・)の聴取を任された担当官だった。騎士は牢の中にいる囚人の様子を見張りの騎士に訪ねている。


 すると騎士は困ったような表情で牢がある後ろの扉を気にしながら小声で答えた。



「……相変わらずです。捕まっているにも関わらず、肝が据わっているというか何というか……。」


「ふん、そうか。」



 騎士は予想していたのか、やはりなといった素振りでそのまま見張りに命じた。



「扉を開けろ。」


『――……ガチャンッ! ……ギィィィイ……』


「――……。」



 錠を外し、扉が開かれる音に気付いたその男は入室してきた騎士を静かにじっと見据えた。

 開かれたその牢屋には壁沿いに古びたベッド、反対側には恐らく尋問時の小さな机一つと、それを挟んで椅子二脚が対面に設置されている。


 収容されていたのは褐色肌に黒髪の青年だった。彼は手足を鎖の枷で繋がれ、冷たい石壁にもたれかかったまま……その表情には未だ余裕を残すような笑みを浮かべでいる。


 騎士は構わず口を開いた。



「――聴取の時間だ、早く座れ。誘拐犯のライル(・・・)とやら。」



 その声に男は笑みを崩さないまま背中を壁にすりつかせる様に立ち上がった。動くと同時に鎖がジャラジャラと音を立て、彼は足枷の鎖を引き摺りながらのらりと席に着く。


 ライルと呼ばれた男は昨夜、リディアを誘拐しようとしていたイーサン(・・・・)だった。



「……何だ、今度はあの強そうな騎士団長サマじゃねぇのな。」



 口を開いた彼の問いに、騎士は眉間に皺を寄せながら言葉を返した。



「囚人の分際で挑発する気か? ふん、その手には乗らんぞ。団長は貴様の様に下箋な罪人風情の相手をしている暇はない。

 それにたかが盗賊の聴取など私一人で充分事足りるわ。」



 彼の態度が気に入らなかったのか、はたまた身分を下に見ているが故か、その騎士は早々に高圧的な態度をとりながら彼の向かいの席に座った。イーサンはそんな騎士の顔を眺めながら静かににやつく。



「……まぁ、いいや。あの勘の良い団長サマ相手じゃ息苦しかったし……。

 それに俺にとっちゃ、アンタみたいな(・・・・・・・)奴の方が気は楽かもなぁ?」


「若造が減らず口を……。」



 イーサンの挑発めいた態度に苛立ちを覚えるも、その騎士は気を取り直して彼の向かいの席に座った。



「――あれから随分時間も経ったが、どうだ? その頭も少しは冷えた頃だろう。……大人しく吐く気になったか?」



 彼の質問にイーサンは尚も変わらず笑みを浮かべた。



「今回の計画の事ならもう全部吐いてやった筈だが?」


「いいや、まだだ。我々が問い質すべき内容は、今回貴様らが企てた計画及びその動機、そして……その背後にいる「依頼主」の正体だ。」


「へぇ……まだ疑ってんの?」



 騎士の言葉にイーサンは面白そうににやつきながら、椅子の背面に自身の背を付け姿勢を崩した。



「ライルとやら。貴様の供述では……王女殿下をターゲットに選んだ理由は、抱えている借金を清算させるためだと言っていたな。」


「あぁ。今のところ、世界で一番価値のある『神の御子』なら……欲しがる他国にでも引き渡せば借金どころか一生遊んで暮らせる金が手に入るからな。」


「……ほう、中々大層な賭けに出たものだ。しかし動機がそうとして、まだ腑に落ちんな。」



 騎士は調書をイーサンの前に翳しながら言葉を続ける。



「この計画内容は大したものだ……。城への侵入ルートの割り出し、兵たちの警備配置、そして殿下の居場所……。どれも見事に正確じゃないか。……一体、こんな内部情報までどうやって調べた……?」


「それも言っただろ? おたくら(身内)を買収したんだよ。」


「はっ、嘘が下手だな。門番を手懐けたところでここまでは入手できん。これはもっと内部に居る者でないと……――」


「……それじゃ、おたくの警備がザルだったから侵入できたのかもな。」


「! こ……のっ……小僧めが……っ!」



 イーサンの何食わぬ態度に騎士は椅子から勢いよく立ち上がった。



「ふざけるなっ! これは貴様らのような下層階級(アンダークラス)にそう易々と手にできる情報ではないと言っているだろう!!

 その下卑た脳に知恵を貸し与えた主犯は誰だ!? いい加減正直に吐けっ!!」



 騎士は調書を机の上に『バンッ!』と強く掌で叩き、声を上げてイーサンに尋問する。その物音は扉の側で見張りを続けていた騎士にまで届き、突然響いた音に「ひっ!? 」と声を上げ身体を強張らせていた。


 しかしイーサンは彼の凄みに全く臆することなく平然とした表情でいる。その、まだどこか余裕を残す様な彼の態度に騎士は益々苛立っていた。



「その態度、少しは見過ごしてやろうと思ったが……一度痛い目を見ねば己の大罪が理解できぬようだな!? ……くそっ、よくも殿下を……!」



 怒りが収まらない騎士が腰の剣に手を掛けようとすると、それを視認したイーサンは手枷に繋がれた自身の両手の指間接を『コキッ……』と静かに音を鳴らせた。



「隊長!? お、お止め下さい!! 団長から拷問はするなとキツく言われているではありませんかっ!」



 騎士を止めに入ったのは見張りの騎士だった。彼の怒気に気付いた見張りは牢に入って怒りを鎮めようとしている。「団長」という単語ではっと我に返った騎士はその場で立ち止まり、数秒動きが止まった後、軽く息を吐いて剣から手を離した。


 鎮まった騎士の様子にイーサンは机の下で構えさせた指をそっと警戒を解くように下ろした。騎士を止めた見張りは安堵したように扉の外へと戻っていく。



「……ふんっ! 軽口は今の内だ。悪足掻きしたところで、貴様の刑は確定しているのだからな。」



 冷静を取り戻した騎士は椅子に座り直し、聴取を再開した。



「さぁ、答えろ。 情報を渡したのは……貴様らを雇ったのは誰だ。」


「だから最初に言っただろ? 情報は買収した門番。依頼者とは文でしかやりとりしたことがないから正体は知らない。所詮俺たちは雇われの身よ。詮索すればこっちが消される。」


「嘘を吐くな。調べは付いているぞ? お前たちは裏の界隈ではよく知られたプロの便利屋(・・・)だそうだな。盗みに誘拐、割に合えばどんな犯罪でも請け負う……その道の才能を買われ構成された者たちの集まり。

 お前はその連中を取り纏める、リーダー格のライル(・・・)だろう?」



 騎士の推察を聞かされたイーサン(・・・・)は再び笑った。



「くくっ、恐れ入ったな。この短時間でよく名前だけでそこまで辿り着けたモンだ。」



 その言葉を称賛と受け取り気を良くしたのか、騎士は得意気に続ける。



「ふふん、我々の情報網を舐めるなよ?

 お前たちがその便利屋とやらであるなら、噂通り用意周到だ。依頼者の素性を掴んでいる可能性も高い。

 あの者らは城門を警備する役割しか与えられていない。門へ通す手引きは出来てもその先は無理がある。聴取でも、あの者らは城門の侵入と脱出時の合図しか頼まれていないと証言していたからな。」


「おいおい、身内の言葉は信じるのか? 俺が言うのもなんだが、おたくらの裏切り者だぜ?」


「ふん、お前の様な態度ならば信憑性に欠けていただろう。

 あの者らも金に困っていたらしいが、だからといっていきなりわざわざ難易度の高い道を選ぶものか。」


「くくっ、裕福な奴にゃ分からねぇかな。人間、金のためなら何でもするもんだぜ? 職場の内部情報だろうが頑張って調べてくれる。」


「……ほう。ならば門番の方が嘘をついていると?」


「そうなるな。」



 騎士はいけしゃあしゃあとしたイーサンの答えを聞きながらチラリと、手首に着けていた自身の腕輪……主にその中心に嵌め込まれた石を一瞥した。


 それはほんの僅か、瞬きのついでに視線を変えただけだったが、その一瞬の目の動きを見逃さなかったイーサンは彼の腕輪を視認しつつ表情は変えないまま静かに思考を巡らせていた。



(……こりゃ誤魔化すのはムズそうだ。)



 そして何かの確認をした様子の騎士は呆れた顔で口を開いた。



「どうしても黒幕は明かさんと言うか。」


「そーいうアンタはどう吐いても俺の言葉を信じねぇみたいだな。」


「ふん、嘘でないと分かれば信じてやるさ。」



 騎士はまるでイーサンの供述の信憑性の有無が分かるとでも言いたげな口調だった。



「何であれ、貴様らの計画は失敗したんだ。不様な自滅に加えてこれ以上見苦しい言い訳をする必要はないだろう。」


「…………自滅、ねぇ。」



 今の騎士の言葉に、数秒何かを思案したイーサンはごく自然に振る舞うかのように質問を挟んだ。



「そういや、あいつ等ってどこまで覚えてんの?」


「何だ、未だ記憶が飛んでいるのか。……まぁ、あの爆破と光の衝撃を身に受けては無理もないが。」



 質問に対し、騎士は疑問を持たずに理解した。その件(・・・)に関しては昨夜、事件直後の聴取にて既に確認済みだからだ。



「全員同じだ。殿下を拐った後の記憶がほぼ無い。」


「……で、まだ思い出さないと?」


「ふん、揉め事があったという割には悪党にも仲間の安否を気にかけるくらいの気概はあったか。」


「あー、そういや誰かぶん殴ったっけな。あいつ等も覚えてんの?」


「く……っ、貴様いい加減その軽口を改めんか! その辺りまで覚えているのは貴様と貴様が殴った者くらいだがそれが何だっ!?」


「つまり他の奴等はそこまでは思い出せてないと。」


「仲間内で揉めた挙げ句、自分の武器で誤爆するとは何とも滑稽な話だ!」


「ほぉ、誤爆……ね。」



 彼の口調に再び苛立ち始めた騎士に、イーサンは自然に言葉を挟んでいた。騎士は苛立つ余り、彼の誘い(・・)につられて話してしまっていることに気付いていない。



「全く悪運の強い奴等だ! あの威力に巻き込まれたにも関わらず、その程度の傷で助かっているのが不思議なくらいだ。」



 騎士は納得のいかない顔をして昨夜の一件を振り返った。


 ――昨夜、イーサンたちは収容された直後の取り調べでそれぞれ途中から記憶が飛んでしまっていることを述べた。その供述から医師が診察したところ、「火薬の魔石」による事故の衝撃で記憶の混濁が生じていると診断されたのだ。


 建物を破壊できてしまう威力だったはずだがイーサンたちは重体にはならなかった。運が良かったのか、上手く切り抜けたのか、怪我の具合は数ヶ所の擦り傷程度に留まっている。……まるで何かに守られて(・・・・・・・)いたかのように。



「本当に運が良いよなぁ、俺ら。育ちがてらこの頑丈さは自慢だったが……あぁ、そうだ。あのか弱いオヒメサマ(・・・・・・・・)はどうなったんだろうなぁ。巻き込んじまったか? なら悪いことしちまったかな。」


「……いけしゃあしゃあと……」



 悪びれる様子もなく発せられた言葉に、騎士は僅かに声を低く発した。



「あのような爆発に殿下を巻き込みおって……それだけではない、強力な睡眠香まで嗅がせたそうだな?」


「……あぁ、確かにあれはそういう代物だった……ハズだけどな。」



 最後の小声に発せられた言葉を聞き取らなかった騎士はわなわなと怒りに身を震わせながらそのまま続けた。



「所持品から応酬した香を確認しているぞ。どんなに獰猛な魔獣でも容易く眠らせる……量を間違えれば最悪死に至るやもしれん、そんな危険な物をお前たちはよもや殿下に使ったのだっ!

 常人が眠らせたままあのような目に遭えば……殿下に「神の御加護」がなければどうなっていたか……! 「悪いことをした」程度の言葉では済まされんぞっ!!」


「……それ、つまりオヒメサマは無傷ってことか?」



 怒気を纏わせながら鋭く睨み付けられても尚、イーサンは表情を崩すことはなく冷静な分析で言葉を挟んでいる。……探りたい答えを知るために。



「大方、貴様らが助かったのはその恩寵の端に触れたからではないかという話だが……罪を犯して命を救われるとは皮肉な話だな。貴様らは『神の御子』に救われたようなものだぞ! ……それを貴様は知りもせず軽薄な態度を取り続けて……!」


「……成る程、そういうことか……。」



 騎士の説教じみた言葉には耳を貸さず、知りたい答えを引き出したイーサンは納得といった表情で密かに不適な笑みを浮かべている。



「――さぁ、雑談はここまでだ! そろそろ答えてもらおうか? 愚か者の自滅などどうでも良い笑い話に過ぎんが、貴様らは我等の大事な王女殿下を危険な目に合わせた。犯した罪は変わらん。

 これ以上偽りを吐いても良い事はない。貴様らの本当の協力者をとっとと吐くがいい!」



 気を取り直し本題に戻した騎士は改めてイーサンに尋問するが、知りたい情報を得た彼にはもう言葉を発する必要はなくなった。イーサンは急に興味を失せたようにじっと黙っている。



「何だ、また黙秘か? ……分かっているのか。この聴取が終わればじきに貴様らの刑が執行される。王族を……それも『神の御子』たる王女殿下を害そうとしたんだ。良くて終身刑、悪くて死刑が妥当だろう。」



 重刑をちらつかせてもイーサンの態度は変わらない。視線は明後日の方向だ。完全に白けた様子の彼に騎士は歯を軋ませ、何とか吐かせたいと思ったのか僅かに笑みを浮かべて言い放った。



「――貴様らの仲間は吐いたそうだぞ?」



 その言葉にようやくイーサンは目線をこちらに戻した。騎士は(かかった……!)と錯覚するが、返ってきた答えは見透かされていた。



「……くくっ、だめだめ。揺さぶりならもう少し早くに掛けるもんだ。でないと、簡単に嘘がバレるぜ? 騎士サマ。」


「!? ……この、下箋者が……っ!!」



 ブラフをかけられずに失笑された騎士は完全に彼の掌の上に転がされている。

 騎士はこの上なく怒りを露にし、再び椅子から立ち上がった。



「……最後に、もう一度聞いてやる。依頼主は、誰だ。黒幕は、何処にいる……っ。」



 感情の乱れを抑え込もうと我慢し、身体を揺らめかせつつ途切れ途切れに言葉を発する騎士の問いに、イーサンはためらうことなく不適に笑みを浮かべ、騎士を真っ直ぐ見据えて口を開いた。



「…………知るかよ、バーカ。」









今回は意味深なイーサン回でした。

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