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転生王女 ~神様、転生したら王女って……どういうことですか!~  作者: シマユカ
第一章「転生王女は神の御子」
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8.月明かりの夜にーⅠ


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 


 ――……一冊の本があった。


 ふちには丁寧に模様が彫られた金具の装飾が取り付けてあり、白をベースとした綺麗なデザイン。


 吸い寄せられるよにページを開いたのを覚えてる。


 見るからに読書意欲を掻き立てられる……そんな本。けれど、タイトルは無題だった。


 だから私は「名無しの小説」と読んでいた。


 その本にはとある異世界の王国を舞台にした、とある平民の少年を主体として紡いでいく物語が記されている。





 ――ある日、自国の神殿に迷い込んだ幼い少年は……ふと何かに吸い寄せられるかのように、「聖泉の間」へと徐に足を踏み入れた。


 その部屋は一面、とても澄んだ清らかな泉が湧き出ており、真ん中には一筋だけ道の橋が造られていた。そしてその先にあるのはこの国の象徴である神の祭壇。


 少年は泉のキラキラと反射する水光に魅入ってしまい、好奇心かはたまた無意識に導かれていったのか……ゆっくりとその橋を渡って祭壇の前までやってきた。


 神秘的な祭壇を静かに眺めてみると、徐々に泉が先程よりも光り輝き、呼応するように祭壇までも光を帯びていった。


 その光は驚く少年の身体を優しく包むと同時に、ある「声」が彼の頭の中に囁かれた。



 《・・・・よく来たな、『運命の子』よ。》



 不思議と聴く者の心を安らげるその声は、自らを「神」と名乗った。



「――運……命……?」



 《・・・・そうだ、私はそなたが来るのを待っていた。この世界の運命を変えることの出来る、そなたの存在を。》





 それが、あの小説の……本来の始まりのあらすじ。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 ――先刻の……固く冷たい床で眠っていた時とはうって変わり、私は何とも寝心地の良い気分を感じていた。


 ……そう。例えるならば極上のふっかふかベッド!

 シルクのシーツは程よい肌心地でその身に羽織られるのは重くないけど軽すぎない、ふんわり優美にまとわれた羽毛布団!

 暖かさとドレープ性を兼ね備えた、まさに最高級の快眠ベッドの様! あ、このフレーズCM狙えそう。


 あぁっ、疲れが癒されていく……!



「――……。」



 なんて、それもそのはずだ。


 だって私は本当にそんなベットに寝ているのだから、そう感じたのは当たり前だった。


 今ではすっかり寝慣れた心地。けれど飽きないこの中毒性。クイーンサイズの天蓋付きベッド……。

 どんなに疲労していても、ここで眠ればたちまち夢見心地へ誘われる……――。


 こういう時だけは王女に生まれて良かったなぁって思う。



 《・・・・記憶を思い出した頃はあれほど嫌がっておったというのに、げんきんな娘だ。》


 ――人ってそういうもんですよ。



 目が覚めた私は寝起きの頭で考えていた。

 ……自分がいつも寝ているベットがあるってことは、ここは私室だろうか?



 ――私、どうなったんでしたっけ……。


 《・・・・何だ、倒れたこと覚えておらんのか。》



 ……え、まじですか? 確か……盗賊たちを思わず吹っ飛ばして離宮が倒壊してそのあと見つかって捕まって……えーと……、



 《・・・・神力の消費が災いして力尽きたのだ。》


 ――死んだみたいに言わんで下さいよ……。



 成る程、最後のアレが私の体力をごっそり奪ってったってことか…………ん?



 ――! そうだ、あの吹っ飛ばし事故。誘拐騒動は失敗するって教えてくれたくせにあんな終わり方だなんて聞いてませんよ!


 《・・・・終わり良ければなんとやら、だ。》


 ――良くない! ……どうしてくれるんです、きっと皆大騒ぎになっちゃってますよ絶対!


 《・・・・なっていたな。》



 あぁどうしよう。今までこんなことがあっても目立たず秘密裏に回避してきたのに……今回はどうしよう。ほんとやらかした。

 それにいきなり倒れたならビックリされただろうか。仮にも王女がそのまんま地面に倒れたなら問題だろうな……。



 《・・・・安心せい。お前の身体が地に着く前に受け止めてくれたぞ。》


 ――え、誰に……?



 そんな反射神経の良い人が近くに居てくれたってことだろうか……? 毛布をくれた騎士の人? それか兄上様? ……は、ないか。うん。


 何にせよ、そのよく見てくれていた人には感謝だな。


 ……それはそうと、先ほどから何やら左手に温かみと重みを感じている。

 私は横になったままその手元を見てみると、そこにはルクスが私の手を握りながら傍で寝ており、寝言を言っている。



「……う~ん……、姉……様ぁ……」



 ルクスは椅子に座りながら私のベットへ上半身を前へ倒し、手を握りながらスヤスヤと眠りこけている。


 もしかしてずっと看てくれていたんだろうか……?

 というか寝顔、寝言、可愛い。どこの天使?


 私は弟の寝顔を堪能しながら考えていた。



 ――久しぶりに倒れたなあ……。


 力を一定以上の時間、行使し続けていたら私は大抵ああなるのだ。昔から、秘密裏に力を使いこなす特訓をする度に倒れてた(寝てた)から、周囲からは虚弱体質だって誤解されていた。恐らくあの盗賊さんたちはその情報から私が非力だと認識してしまったんだな……。


 昔と比べて随分と力の扱いには慣れてきたけど、心の方はまだまだ未熟だった。今回のあの大規模ホームラン……皆にどう説明しておこう……。


 盗賊さんたちは今頃投獄されてるだろうな。……この先、活躍するみたいだからできれば逃がしてあげたかったけど。

 ……それにあの殴られた人の怪我、一応治せたとは思うけど大丈夫だろうか……?


 などと思案しつつ、そのままゆっくりと上半身を起こしたとき、寝室と壁を隔てて繋がっている私の応接室からちょうど誰かが顔を覗かせた。



「――っ! ……リディア様!」



 私が起きている姿を見た侍女が心から安堵したように表情が明るくなり、こちらへ駆け寄ってくる。



「リーナ?」


「お目覚めになられて何よりでございます……! 私、それはもう心配で心配で……。ルクス様もずっとリディア様の傍を離れずにいらしたのですよ。」



 侍女のリーナは本当に嬉しそうに話していた。ルクスにも心配をかけてしまったようだ。



「……苦労をかけてしまってごめんなさい。それで、私はどのくらい寝ていたの?」



 外は夜みたいだけど、深夜だろうか? それとも、まさか一日寝てしまった……?



「今の時刻は零時ですので……三時間ほどお眠りになられてましたよ。医師の診断では、リディア様は相当疲れてらっしゃったようですので……。

 国王陛下はリディア様のお身体が回復次第、事情をお聞きすると仰有っておりました。」



 ――思ってたよりあんまり寝てなかった。けど今はすっかり身体が楽になっている気がする。

 けれどリーナは申し訳なさそうな表情になった後、勢いよく頭を下げて謝った。



「申し訳ございませんでした、リディア様! あの子はまだ王宮務めになって日が浅く……いつもなら私かサラがお側に付くべきでしたのに、本当に申し訳ございません!」



 ――あぁ、誘拐の件を気にしてたのか……。



 今日私に付き添ってくれていた侍女は新人だった。普段はリーナのように私の専属侍女が控えてくれているのだけど、あの時間帯は別の仕事を任されていたらしく、たまたま新人の侍女しか居なかったのだ。

 どうやらリーナはその事が誘拐事件を引き起こしてしまったのだと責任を感じていたのだろう……。私の無警戒が及んだことなのに、優しい人だ。



「……リーナ、貴女が謝る必要はないわ。新しい子にも、私が席を外すよう命じたんですもの。

 仮にあの場にリーナが居て、もし抵抗していたら危害を加えられていたかもしれないわ。私はあなたに何事もなくてほっとしているのよ。」


「リ、リディア様ぁ……!」



 私の言葉にリーナは感極まった様子で涙目になりながらも笑顔を浮かべていた。……あれは本当に私の自己責任だし。

 この感じじゃルクスも気にしてるだろうから後で説明しておこう……。



「それで、その……お身体の具合はどうですか?」


「もう平気よ。」



 寝たらすっかり回復した。いうなればMPゲージが大幅に減少したみたいな感じなので時間が経てばダルい気分も当然スッキリ。快調すぎてご飯もおかわりできそうな気分だ。

 ……ん? ご飯? あ、そういえば私晩御飯食べてない……。あ、ダメだ。考えたらお腹が鳴りそう……。



「(ポソッ)……お腹空いちゃった……。」



 堪えきれなかった私の漏れた心の声をしっかり聞いていたリーナは「くすっ」と微笑み、



「ふふ、少々お待ちくださいませ。只今、軽いお夜食をご用意致しますわ。」



 そのまま寝室から下がっていった。

 ……優しい、嬉しい。ありがとう。


 私はルクスの手の温もりを感じながら……すぐ横の窓辺に目を向けた。

 先程はさして気にならなかったけど、今宵は本当に見事な満月だ。私は改めて満月を見上げていると……ポツリと自然に呟いていた。



「――綺麗な月明かり……――」



 それにしても、最近はすっかり狙われるようなこともなくなってきてたというのに……何故あの盗賊たちは私を拐いに来たのだろうか?


 実際、『神の御子』の力を欲しがる人は沢山いる。それこそ国内だけでなく、隣国や近隣諸国にも私の存在は知られている。

予言だの間違った情報を持たれてはいるけれど、借り物とはいえ私が神力を持っているのは事実だしね。


 けれど今まで私は大した目には合ってこなかった。

 全員神様の力で蹴散らしてきたし (証拠隠滅はした。)、優秀な騎士団の鉄壁ガードと私の引きこもり生活はダテじゃない。

 おまけに大神官様特製の追跡用の「魔石」を身に付けてからは大分落ち着いていたのだ。


 だから尚更久々の誘拐と、ましてや盗賊が王宮に忍びこめたという事態は大ニュースだ。

 …………そういえば大臣がどうとか言ってたけど、またどこぞで誰かが暗躍しているのだろうか?


「私」に関する案件は私の知っている出来事に含まれていないから、事態の把握に手間がいるな。


 ――まぁ、その辺は追い追い調べればいいかぁ。今日はもう何も考えたくない……。


 思考を巡らせることに疲れた私は再び背中をベットへともたれさせ、一息付いた。


 ……あぁ、今日のシチュー食べたかったなぁ。などと思いながら私は静かに目を閉じていく……――。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 ――――時折、夢を視る。


 この世界に生まれる前の「私」の記憶――。



 誰にも望まれずに生まれて、貧しく暮らしながら……。それでも私は大好きな歌をうたっていた。


 次第に私の歌は認められ、沢山の人が大きな舞台でこの歌を聴いてくれている……そんな、夢の様な思い出。


 ――もっと沢山歌いたかった。届けたかった。


 私の気持ち、全部吐き出して思い切り歌ってみたかった……。


 今となっては叶わなくなった、私の夢。

 私の……――前世の記憶……。


 (主人公)も、果たせないまま終わってしまったんだよね……。私と……同じ……。





「――……」



 ……誰?



「――……ま……」



 声がする……。



「――リ……様」



 穏やかな優しい声……――私を……喚んでる気がする――。



「――リディア様……」



 懐かしい……私はこの声を知っている。幼い頃、何度も呼んでくれていた私の好きな声。そんな心地よさに導かれるように、私はそっと目を開けた――。


 右を見てみると、窓辺に見える月明かりに照らされるように、その人はベッドの傍に立っていた。



「――レン……」


「はい、リディア様。」



 そこには若い青年がいた。

 思いがけない人物の来訪に思わずその人の名前を愛称で呼んでしまうも、彼は穏やかに笑って頷いた。



「お休みのところ起こしてしまい、申し訳ございません。……魘されていたようでしたので心配で……。」



 彼は申し訳なさそうに伝えるも、私としては正直起こしてくれて助かったともいえるので大して気にはしない。……死んだ時の記憶なんて、夢でまで視たくはない。



「いいえ、…………助かったから。」



 ……あ、思わず口に出してしまった。変に思われただろうか……。


 チラッと彼の顔を覗こうと見上げてみると、一瞬言葉に詰まっていた表情だったが彼はすぐに口を開いた。



「……昔から、寝てる間に魘されていたら必ず起こすよう仰られてましたよね。」



 ……そう……だったかもしれない。子供の頃は今より鮮明かつ頻繁にあの夢を視ていたから……。



「よく覚えているのね。」


「私にとっては貴女様との大切な思い出の一つですから、忘れる筈がありません。」


「……相変わらず律儀なんだから。」



 私は普段の丁寧な口調を砕いて彼と会話を続ける。この人は構わない。昔から見知った人物だから……。



「……実は今、少し嬉しかったです。」


「え?」



 突拍子もなく発せられた彼の言葉に、私は意味を理解できずに表情をキョトンとさせた。



「だって……久しぶりに愛称で呼んでいただけましたから。」


「 ! 」



 しまった。そういえば起き抜けにそう呼んでしまった。立場上、彼の身を重んじて控えるようにしていた筈なのに……。

 ……いや、まぁ、人前じゃないし……ルクスもまだ全然寝てるし、誰も聞いてないし……うん、ノーカウントだ。


 けれどそんな嬉しそうに言われると、改めて何だか少々のむず痒さを感じるのだけど……。



「寝言だとでも思っておいて。」


「ふふ……はい、承知しました。」



 そっぽを向きながら少しむくれて言葉を返した私に、彼は気にせず屈託のない表情で柔らかく笑いかけている。……昔と同じ様に。



「……それで、此処には何の用で来たの? 仕事サボっちゃうと兄上様(誰かさん)が小煩いんじゃない。」


「あ、それは大丈夫ですよ。」



 ここに来たことも珍しいが、あの兄の側から離れてきたことにも珍しい。一体何だろうか……。



「――リディア様。少しお話しませんか? 」





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