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異説・東方妖々夢  作者: 小湊拓也
45/48

第45話 燃える博麗神社(Extra Stage 中編)

原作 上海アリス幻樂団


改変、独自設定その他諸々 小湊拓也

「な、なあ八雲藍。フランドールにしたのと同じ事、私にもやってみろよ。その尻尾でさ、もふもふ包んでくれよ」

「君は、可愛くないから駄目だ」

「ひどいぜー!」

 愚かな会話をしながら霧雨魔理沙が、魔法の箒で空中を逃げ回っている。煌びやかな光弾の嵐に追われてだ。

 弾幕の花火が、夜空に咲き乱れていた。

 藍が立て続けに放つ巨大な光弾が、空中あちこちで破裂し、その破片の群れが弾幕となって魔理沙を襲い続ける。

 見上げながらレミリア・スカーレットは、すやすやと心地良さげに眠る妹の身体を抱き上げていた。

「フランを手玉に取るとは……ね。八雲藍、恐るべき大妖怪」

 レミリアが呟く。

「……私が、戦ってみようかしら」

 寝言は寝て言え、と霊夢は叫びそうになった。

 博麗神社で愛玩されている、可愛いだけが取り柄の小動物が、あの九尾の大妖獣に勝てるわけがないのだ。

 そう、霊夢は思う事しか出来なかった。レミリアに、言葉を浴びせる事が出来ない。

(何……何なのよレミリア、あんたって一体……)

 出せない言葉が、胸の内でくすぶり渦巻いている。

「お待ち下さい、レミリアお嬢様」

 十六夜咲夜が、跪いた。

「戦いの機会は、どうか私に賜わりますよう……」

「妖怪退治人の血が、騒ぐのかしら?」

「それも、無いわけではありませんが……」

 跪いたまま、咲夜は見上げた。

 空中で、魔理沙がひらりと箒から飛び降りている。

 魔法の箒がなければ空を飛べない、というわけではないのだ。ただ、直線的な速度を出す時に必要となるらしい。

 空中の、見えざる足場に降り立った魔理沙を、藍の弾幕が猛襲する。

 魔理沙は、魔法の箒を振るった。襲い来る光弾の群れを、掃いて払い除けた。

「なるほど。箒、本来の用途ではある……にしても、君の掃除は雑だなあ」

 言いつつ藍が、いくつもの大型光弾を速射した。

 それらが、今度は破裂せず、一直線に並んだ。

「迷い家をいつも清潔にしておいてくれる橙を、少しは見習って欲しいものだ。霧雨魔理沙……君のそんな掃除では、これを掃き清める事など出来はしないよ」

 まるで脊柱の如く並んだ大型光球たちが、一斉に輝きを増した。その輝きが、様々な方向へと直線状に放たれ伸びる。

 魔理沙のイリュージョンレーザーによく似た、破壊の閃光であった。

 夜空を裁断・寸断するが如く無数、縦横無尽に走り飛び交うレーザー光を、魔理沙は箒で掃く事など出来なかった。

「くそっ、何だよ……私がイリュージョンレーザーを撃てるようになるまで、どんだけ苦労したと思ってるんだ。それを、こんな大量に……」

 魔法の箒にまたがり、速度を解放する。

 そうして魔理沙は、あらゆる方向から襲い来る破壊の閃光をかわし続けた。飛び交うレーザー光に劣らぬ縦横無尽の回避飛行。

 回避だけで精一杯の魔理沙を見上げ、咲夜は言う。

「私は、魔理沙に加勢をしたいのです。助けてあげる、ためではなく……共に、戦うため」

「私が、この神社で安穏と過ごしている間……貴女たち2人は、そうして戦い続けていたのよね」

 妹を抱いたまま、レミリアが微笑む。

「……危険だと判断したら、私は介入するわよ。それが嫌ならば危なげなく勝って見せなさい」

「お言葉、胸に銘じました……では」

 紅魔館のメイド長。その優美な肢体が、ふわりと立ち上がる。

 そう見えた時には、咲夜の姿はそこにはなかった。

 時を止められたのだろう、と霊夢は思った。

「ぐっ……う……ッ!」

 八雲藍が、悲鳴を噛み殺している。

 レーザーを放散し続けていた大型光球が、全て消え失せていた。藍が、攻撃を維持していられなくなったのだ。

 九尾の大妖怪の全身に、何本ものナイフが突き刺っていた。

 少し離れた所で、咲夜が空中に着地する。その足元で、ナイフが時を止められている。

「加勢するわよ魔理沙。迷惑でしょうけど」

「いや……助かったぜ」

 咲夜の近くで、魔理沙が箒を停止させる。

 八雲藍が、己の顔面に突き刺さったナイフを引き抜いた。

「凄まじい……退魔の念が、この刃から……私の体内へと、流れ込んで来た……」

 無惨な傷が、拭ったように消え失せた。無傷の美貌がニヤリと歪む。

「十六夜咲夜、君ほどの退魔業者はそうそういない。メイド仕事の片手間で良いから、幻想郷を守るために戦いたまえ」

 藍の全身から、ナイフがことごとく抜け落ちてゆく。

「こんな私情の戦いで、命を粗末にしてはいけない」

「私情なき戦い……そんなものが、あるのかしらね」

 咲夜は言う。藍が、即答する。

「あるさ。紫様のなさる戦いが、そうだ」

「幻想郷を守るため、私情を捨てて戦っている……とでも?」

 座り込み、橙と身を寄せ合う八雲紫を、咲夜がちらりと見下ろす。

 藍の理知的な美貌が、ぴくりと強張った。

「……君は今、紫様を……愚弄した、のかな」

「紅魔館を愚弄したのは、お前たちの方」

 咲夜が、何本ものナイフを扇状に広げた。

「その私情なき戦いとやらのために八雲紫は、紅魔館を手駒に加えようとした。結果それが、お嬢様方ご姉妹の和解に繋がった……のであるにしても、私はお前たちを許さない」

「ふん、手駒にされるのは不愉快であろうな確かに。それで、許せなければどうする? 紫様に暴虐を働こうと言うのであれば、私は君の命をも奪わなければならなくなるが」

「八雲紫への制裁は、すでに霊夢が済ませてくれたわ」

 咲夜は、藍を見据えた。

「だから私は、お前に制裁を与える事にする」

「十六夜咲夜……君の言う通り、戦いとは全て私情より生ずるもの」

 藍の身体から、光が4方向に伸びてゆく。巨大な、光の刃。

「それが真理であるにしても……紫様の戦いを、否定はさせない。紫様を愚弄する者は許さない。制裁を与える、その言葉をそっくりそのままお返しするとしよう」

 4本の光の刃が、鉤型に曲がった。

 先程、八雲紫が出現させたもの……よりも遥かに巨大な、光の卍が出現していた。

 藍が、ゆらりと回転を始める。炎のような九尾が弧を描く。

 それに合わせて、巨大な光の卍が旋回し、魔理沙と咲夜を襲う。

 避ける両名に、光弾の嵐が押し寄せる。回転し、黄金の火球と化しながら、藍は弾幕を放っていた。

 夜空を、卍の刃で切り裂き、弾幕で灼き払う。八雲藍は今、そんな黄金色の火の玉であった。

 見上げ、見物しながら、レミリアが語る。

「魔理沙が言っていたわね。八雲紫の思惑に関わりなく、私はいずれ霊夢のもとを去っていただろう……と。でもね霊夢、私はそうは思わない。何も起こらなければ私は今も、この博麗神社で貴女と一緒にいたと思うわ。一緒にお風呂に入って、お炬燵で一緒にだらだらと過ごす……至福のひと時よね。ああ、でもお炬燵なんてもう片付けてしまったかしら?」

「そんなわけないでしょ。春ったって、まだ寒いんだから」

 霊夢は言った。

「今からだっていいじゃない。さ、中へ入んなさい。おこたもお茶もみかんもあるから……私が、あの化け狐をぶちのめすまで待ってなさい。終わったら、また一緒にダラダラしよう? ねえレミリア……」

「運命を操る能力」

 フランドールの寝顔から霊夢へと、レミリアが視線を移す。

「私、そんなものを持っているらしいけれど……どうやら自分の運命を操る事は出来ないようね。紅魔館の主に戻る、その運命はもう変わらないわ」

「レミリア……おこた……」

 霊夢は呟く。レミリアは微笑む。

「ここで貴女と一緒に暮らす……その運命は、選ばれなかった。今から選ぶ事は出来ない」

「……お茶と、みかん……」

「貴女の運命を操る事も出来ないわ。霊夢。どうか自分で選んで、歩き出して」

「一緒に、お風呂……一緒に、寝よう……?」

 こちらを見つめるレミリアの姿が、ぼんやりと涙に沈む。

 霊夢は、泣きじゃくっていた。

「ねえレミリア……私だってね、今の自分がどんだけ無様なのか……わかってるわよ……あんたのせいよ!? あんたがね、私の運命……操っちゃったんだからぁ……」

「何度でも言うわよ霊夢。貴女の運命を操る事は、出来ない」

 運命。レミリアの可憐な唇が紡ぐその単語が、霊夢の心に突き刺さる。咲夜のナイフよりも鋭く冷酷に。

 やはり魔理沙の言った通りだ、と霊夢は思った。八雲紫の存在など関係ない。

 レミリアが、霊夢のもとを去る。その運命が、選ばれてしまったのだ。レミリアが選んだのではなく、霊夢が選んだわけでもない。だが選ばれた。八雲紫がいなくとも、その役割を誰かが果たしていたに違いない。

 運命。それは、夢想封印を何千発何万発と撃ち込んでも微動だにしない怪物なのだ。

 足音がした。声をかけられた。

「……どうなさいますか? 博麗様」

 高麗野あうんだった。先程まで自分が被っていた花冠を、手にしている。

「これ、ただの花冠じゃありません。幻想郷の自然そのものである妖精さんたちが、想いを込めて作ってくれたもの……自然の持つ自浄・再生の力が、目に見える形になったものです」

 立てぬ霊夢の眼前で、あうんは片膝をついた。妖精の花冠が、差し出されて来る。

「たぶん1度しか使えませんが……傷を、治す事が出来ます。戦えるようになりますよ、博麗様。もちろん運命とは戦えませんが、妖怪とは戦えます」

 あうんが見上げた。霊夢も見上げた。

 魔理沙が、咲夜が、卍型の巨大な刃をかわしながら、弾幕からも逃げ回っている。

 八雲藍を相手に、苦戦をしている。

 あうんが、問いを重ねてきた。

「……どうしますか? 霊夢さん」



 博麗霊夢の霊力、霧雨魔理沙の魔力。

 それに相当するものが自分にあるとすれば、この退魔の念であろう、と十六夜咲夜は信じるしかなかった。

 これを刃に宿し、妖怪の体内に流し込む。

 外の世界にいた頃から、自分の戦い方は、それだけであった。

 他の使い方を、模索してはいる。それは、しかし今のような実戦の最中にする事ではなかった。

「斬られて真っ二つか、撃ち砕かれて肉片か。さあ好みの死に様を選ぶがいい!」

 八雲藍が叫び、回る。九つの尻尾が弧を描く、その動きに合わせて巨大な卍が猛回転して夜空を切り裂く。

 その回転の中心部で黄金色に燃える獣毛の塊が、光弾の嵐を発射し続ける。

 巨大な斬撃と、吹き荒れる弾幕が、咲夜と魔理沙を強襲していた。

「どっちも嫌だぜ! 誰も死なせないって言ったけど当然、私だって入ってる!」

 そんな事を叫びながら魔理沙が箒を駆り、卍の斬撃と光弾の嵐を高速回避し続ける。

 そうしながら時折どうにか攻撃の機会を見出しては、マジックミサイルを撃ち込む。左右に浮かんだ水晶球から、イリュージョンレーザーを迸らせる。

 その全ての攻撃が、巨大な卍による回転斬撃に切り砕かれていた。

 砕け散った光の破片を蹴散らして、藍の弾幕が魔理沙を襲う。

 卍斬撃と弾幕。せめて、どちらかを止める事が出来れば。

 咲夜は、懐中時計を取り出した。

 時の流れを束縛するための、目に見えぬ鎖が生じ、だが切断された。卍型の刃によってだ。

「そろそろ受け入れたまえ十六夜咲夜。君の持つ時間停止の能力が、幻想郷においては決定力と成り得ぬ。その現実を!」

 言葉と共に藍が、咲夜に対しても弾幕を放つ。

 襲い来る光弾の嵐を、咲夜は見据えた。

 退魔の念を、解放する。

 紅美鈴を相手に、軽く練習はした。実戦で用いる機会など、全く想定していなかった。

 解放された退魔の念が、巨大な四角形となって空に広がる。四角形の領域が、藍の弾幕を包み込む。

 光弾が、全て止まった。

 時を止めた、わけではない。光弾だけが、空中に静止している。

「何……」

 藍が回転を止め、息を呑む。

「森羅結界、だと……馬鹿な、あり得ない。幻想郷の季節が正常に戻った今」

「そう、季節が私に力を貸してくれる事はない」

 咲夜は言った。

「ただ森羅結界の……こつ、と言うべきかしらね。掴んだものは確かにあったわ。季節の助力を、退魔の念で代用する。森羅結界と似て非なるもの、ではあるけれど」

 左右それぞれの手で、ナイフを構える。投擲用ではなく白兵戦用の、いくらか大型の刃。

「……パーフェクト・スクウェア。そう名付ける事にしましょう」

 空中で時間の止まったナイフを蹴り付け、咲夜は駆けた。

 巨大な四角形の中で、停止していた藍の光弾が全て、破壊力を持たぬ単なる光に変わった。破壊力に変換される以前の、妖力の塊に戻ったのだ。

 その全てを全身で吸収し、退魔の念と混ぜ込んでナイフに宿らせる。

 そうしながら、咲夜は踏み込んだ。

 光の卍が猛然と回転し、襲いかかって来る。大振りの斬撃。光弾の嵐さえなければ、かわしつつ飛び込んで行くのは難しい事ではない。

 卍の中心部である九尾の妖獣に向かって、咲夜は左右のナイフを一閃させた。藍の妖力を上乗せされた退魔の念を宿し、凶悪に輝く2本の刃。

「……甘い!」

 藍は、蜻蛉を切るように回転した。

 ふっさりと豊かな九尾が、超高速で弧を描き、咲夜のナイフを2本とも粉砕していた。

 飛び散る金属片をかわしながら、咲夜は後退し、時の止まったナイフの上に立つ。

 回転を終えた藍が、空中の見えざる足場に着地し、微笑む。

「君も博麗霊夢と同じか。実戦を重ね、様々な戦い方を身に付けてゆく……脅威だね。だが、まだ私を倒すには」

 微笑みが、声が、そこで凍り付いた。

 小刻みに炎を発する八卦炉が、至近距離から藍に突き付けられている。

「……弾幕は、罠にはめるもの。だぜ」

 藍の傍らに、魔理沙がいた。

 咲夜はナイフを蹴り、さらに後方へと跳躍した。

 小刻みな炎が、爆炎に変わった。

「幻想郷一の道具職人がな、きっちりメンテナンスしてくれたんだぜ……!」

 零距離からのマスタースパークが、藍を直撃していた。

「そこいらの妖怪に喰らわせるのは、かわいそうだけどな。お前なら大丈夫だろ耐えろ!」

 夜空が明るく染まり、博麗神社の夜景が真っ白に照らされる。地上を向いていたら、幻想郷そのものが大きく抉り取られていたのではないか、と咲夜は思った。

「いい仕事だったぜ、メイド長!」

 九尾の大妖獣を、爆炎の閃光で包み灼きながら、魔理沙が嬉しそうな声を発する。

 勝利の確信にはまだ早い、と咲夜が思った、その時。

 爆炎の閃光の中から、凄まじく回転するものが飛び出して魔理沙を直撃した。

「魔理沙……!」

 咲夜が息を呑んでいる間、魔理沙は血を吐きながら吹っ飛んでいた。凄惨な吐血のアーチが空中に出現した。

 直撃の寸前、魔理沙は全身に魔力を漲らせ、防御を固めたようである。そうでなければ今頃、花火の如く砕け散っているところだ。

「だ……大丈夫、だぜぇ咲夜……」

 そんな言葉を引きずって、魔理沙は墜落してゆく。

 八雲藍が、ふわりと回転を止め、空中に佇んだ。

「囮と、攻撃……見事な連携を見せてくれるものだ。事前に打ち合わせをしたわけでもあるまいに」

 白い、と咲夜は感じた。夜闇の中に、あまりにも鮮やかな白色が現れたのだ。

「安心したまえ、霧雨魔理沙は死んではいない……君も殺したくはないよ、十六夜咲夜」

 眩しいほどに、白く美しい肌。

 マスタースパークが、藍の衣服を灼き払っていた。

 無傷の裸身に、咲夜は心を奪われた。

 まず視線が釘付けとなるのは、美しい鎖骨の窪み。

 圧倒的な胸の膨らみは、まるで邪悪な妖力が満ち詰まっているかのようである。

 綺麗にくびれた左右の脇腹から、やや育ちすぎの白桃を思わせる尻にかけての広がりは、扇情的・挑発的でなおかつ獰猛である。まさしく牝獣だ。

 むっちりと豊麗な両の太股は、凶暴なまでの色香の塊であった。

 安産型の尻から九つの方向に分かれ伸びた獣毛の塊が、その裸身に柔らかく絡まりまとわり付き、本当に隠すべき部分を上手い具合に隠している。

 確かに、美しい。だがレミリア・スカーレットの幼い裸身には及ばない。

 などと咲夜が思っている間に、一糸まとわぬ九尾の大妖怪はすでに眼前にいた。

「見てわかる通り……紫様は、いささか頼りない御方でな」

 凄まじい力が、咲夜の呼吸を、発声を、封じた。

「幻想郷に住まう人妖、皆で支え、守ってあげなければいけないんだよ。わかるだろう?」

 藍の優美な五指が、咲夜のたおやかな細首をガッチリと掴み捕えている。

「こんな戦いで死んではいけない。君も力を貸しておくれよ、一緒に紫様をお守りしよう」

 裸の細腕1本で、咲夜は宙吊りにされていた。

 息も出来ない、声も出ない。もし声が出るなら、地上のレミリアに聞かれてしまうほど大きな悲鳴を上げていたかも知れない。

「博麗神社の上空で」

 何者かが、境内から上昇して来た。

「……ふしだらな格好、晒してんじゃないわよ。この牝畜生が」

「……れ……いむ……」

 ようやく、咲夜は声を発した。

 瀕死の魔理沙を抱いたまま、霊夢は空中に立っている。負傷した身体に鞭打って、九尾の大妖獣と一戦を交えるつもりか。

 否。霊夢は、無傷であった。万全の状態で、戦いに臨もうとしている。

「……それでいい。博麗の巫女は、逃げてはいけない」

 藍が言った。

「回復をしたようだね、いかなる手段でか……ふむ。さては、例の薬を隠し持っていたのかな?」

「……死ぬほど不味くないだけ、アレよりまし」

 ちぎれた花が、霊夢の周囲を弱々しく漂いながら枯れ萎びてゆく。

「ちょっと不本意だけどね……妖精って連中には、なんか助けられっぱなしよ」

「妖精を甘く見てはいけない。上手く飼い慣らし、利用する事を考えたまえ」

 藍の言葉には応えず霊夢は、死にかけた魔理沙の身体をそっと抱き締めた。

「……あんたの気持ち、少しだけわかったわ八雲藍」

 裸の大妖獣を睨む霊夢の瞳が、燃え上がった。

「……殺す」

「駄目だぜ、霊夢……」

 魔理沙が、霊夢の抱擁の中から身を起こした。

 負傷してはいるが、瀕死というわけではないようだ。

「何度でも言う……誰も、殺させはしないぜ」

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