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異説・東方妖々夢  作者: 小湊拓也
44/48

第44話 燃える博麗神社(Extra Stage 前編)

原作 上海アリス幻樂団


改変、独自設定その他諸々 小湊拓也

 お祓い棒が、折れて飛んだ。

 博麗霊夢の細い身体が、よろめいて石畳に倒れ伏す。得物1本を犠牲にして、どうにか受け流したようである。

 燃え上がりながら高速飛翔する、黄金の火の玉を。

 揺らめく炎は、よく見たら黄金色の獣毛であった。

 ふっさりと揺らめく獣毛の塊が、猛回転しながら飛び回り、霊夢を轢き殺さんとしているのだ。

 相変わらず凄まじい回転だ、と霧雨魔理沙は思った。

 黄金の火球が、博麗神社境内の夜景を切り裂くが如く弧を描き、再び霊夢を襲う。

「くっ……!」

 起き上がりながら霊夢は踏み込み、襲撃者に向かって片掌を突き出した。

 霊力の光が、迸り燃え上がり、球形に膨張する。

 光で出来た、巨大な陰陽玉であった。

 そこへ、獣毛の塊が激突して行く。

 光の破片が、飛び散った。

 ふっさりと燃え揺らめく9つの尻尾が、巨大な陰陽玉を粉砕していた。

 霊力の破片をキラキラと蹴散らしながら、黄金の火球が霊夢を轢き殺す……寸前で、魔理沙は飛び込んだ。

 魔法の箒にまたがりつつ、石畳すれすれの超低空を飛行。

 今や満身創痍に等しい霊夢の身体を、横抱きにさらって行く。

 猛回転する獣毛の塊が、箒をかすめるように石畳上を通過。霊夢を直撃し損ねたまま、上空へと舞い上がる。

 そして、回転を止めた。

 後光の如き九尾を背負う大妖怪が、月を背景として夜空に佇む。

 霊夢を抱いたまま着地しつつ、魔理沙は見上げた。

「1度だけ、警告はしておく」

 八雲藍が、冷たく言葉を降らせてくる。

「私は今から、博麗霊夢を殺す。もろともに殺されたくなければ立ち去りたまえ、霧雨魔理沙」

「霊夢と私、どっちも幻想郷から欠けちゃいけない……お前、そんな事言ってなかったっけ」

 言いつつ魔理沙は、先程まで霊夢が戦っていた相手をちらりと観察した。

 八雲紫と橙。弱々しく石畳にへたり込んだまま、身を寄せ合っている。共に衣服はぼろぼろで身体は負傷し、今は十六夜咲夜による応急手当てを受けていた。

「……誰かを傷付けられたら、そんなものは吹っ飛んじまう。か」

 魔理沙は言った。

 紫も言った。

「……駄目よ、やめなさい藍……今の、貴女の戦いは……それこそ私情でしかない……」

「余計な口出しはせず、大人しくしているように」

 咲夜が、紫の頭に、手際良く容赦なく包帯を巻き付けてゆく。

「八雲紫……お前は、敗れたのよ。この場における戦いに干渉する資格を、失ったという事」

「……すまない、十六夜咲夜。紫様と橙を、よろしく頼む」

 藍が微笑んだ。

「紫様、申し訳ございません……後程、いかなる懲罰でもお受けいたします」

「懲罰なんて……負けた私に、そんな資格……あるわけが、ないでしょう?」

 紫が俯く。

 橙が心配そうに、手を触れようとする。

「紫さま……」

 その傷だらけの小さな手に、咲夜が優しく包帯を巻く。

「霊夢……私もお前を手当てしてやりたいとこだけど、ちょっと待っててくれよな」

 立ち上がれぬ霊夢を、魔理沙は背後に庇った。

「……あれと戦おうって言うの? やめときなさいよ、魔理沙……」

 霊夢が呻く。

「あれは……やばいわよ……」

「そうだな。ボロボロのお前じゃ、まず勝てない相手だ」

 地上から、魔理沙は八雲藍を睨み据えた。

 藍は、しかし魔理沙の方を見ていない。

 すでに1人、九尾の妖獣と空中で対峙している者がいる。

「博麗霊夢は自分の獲物、誰にも譲りはしない……か」

 藍が言う。

 フランドール・スカーレットは何も言わず、ただ右手で得物を掲げた。可憐な五指で保持された、時計の針のような槍。

 いくつもの魔法陣が、夜空に出現した。円盤状に回転飛翔し、無数の光弾をばら撒いている。

 ばら撒かれた弾幕が、様々な方向から藍を襲う。

「……ほう。思ったよりも、狙いが正確だ」

 ふわりと空中を舞い、実体無きが如き回避を披露しながら藍は言った。

「直接、私を狙いつつも……ふふ、こちらか。そう、光弾の密集空域に私を追い込む。罠の張り方もなかなかのもの、腕を上げたねフランドール・スカーレット。博麗の巫女を相手に実戦を重ねたのは良いこと……だけどね、忘れてはいけない」

 飛翔する魔法陣が、ことごとく蹴散らされ粉砕された。

 新たに出現した、12個の魔法陣によってだ。

 フランドールの表情なき美貌が、いくらか強張ったようである。対して、藍は微笑んでいる。

「……君に弾幕戦の手ほどきをしたのは、この私だよ」

 浮遊する12個の魔法陣が、光弾の嵐を噴射した。色とりどりの弾幕が、フランドールを強襲する。

 真紅の輝きが、一閃した。

 紅き光の剣。フランドールの愛らしい左手に、いつの間にか握られている。

 それが、襲い来る光弾を片っ端から斬り砕く。

 砕き損ねた光弾を、フランドールはかわしてゆく。

 ふっさりと燃える黄金色の火球は、しかし超高速で弧を描き、吸血鬼少女の背後に迫っていた。

 フランドールは振り返り、左右の武器を交差させた。槍ほどに巨大な時計針と、紅く燃える光の剣。防御の形に、がっちりと交わっている。

 そこへ、藍は激突して行った。猛回転する体当たりが、光の剣をガリガリと圧し削る。

 火花の煌めきが、フランドールの顔を照らし出した。

 表情のない、人形の美貌。今は強張り、緊迫している。何かしらの感情が露わになりかけているのか。

「敵意か、殺意か……ふふ、実に良い。それでいいのさ」

 藍が、回転しながら笑っている。

 火花散らす獣毛の塊が、その火花を爆炎に変えて迸らせた、ように見えた。

「そろそろ私にも、何らかの感情を向けておくれよ。何か表情を見せておくれよ!」

 弾幕だった。

 フランドールとほぼ密着したまま、藍は光弾の嵐を発射していた。

 光の剣が、砕け散った。

 至近距離から弾幕を叩き込まれたフランドールが、微量の血飛沫を散らせて吹っ飛んだ。

「およそ500年……封印の中で君はずっと、無表情の人形であり続けていたね。フランドール・スカーレット」

 回転を止めた藍が、広い袖の中で腕組みをしながら空中に立つ。

「そんな君を、怒れる悪魔に変えたのは……博麗霊夢。君は彼女を許せない、だから守ろうとする」

 吹っ飛んだフランドールが、空中で踏みとどまり藍を睨む。

 真紅の瞳は、炎を閉じ込めているように見えた。可憐な美貌は、今にもひび割れそうな無表情である。可愛らしい唇は閉ざされているが、いつ牙が剥き出しになってもおかしくはない、と魔理沙は思った。

「私も博麗霊夢を許せない、だから殺そうとしている」

 12個の魔法陣を周囲に従えたまま、藍は言った。

「君も私も、私情を止められない……何とも実に、嘆かわしい事……」

 フランドールは応えない。宝石の翼をはためかせ、九尾の大妖獣に向かって突っ込もうとしている。

 そんな吸血鬼少女の背後に、魔理沙はすでにいた。魔法の箒の上から手を伸ばし、フランドールの肩を軽く叩く。

「手伝わせて、もらうぜ」

 辛うじて無表情の美貌が、強張ったまま振り向いてくる。炎を閉じ込めた瞳が魔理沙を睨む。

「怒るなって……霊夢を守りたい気持ちはな、私だって同じだ」

 空中に佇むフランドールと、魔理沙は箒で並んだ。

 藍が、言葉を投げてくる。

「戦うのだね霧雨魔理沙。いいだろう、博麗霊夢を守るために私を殺してみたまえ。出来るものならば」

「寝言は寝て言え」

 箒の上から魔理沙は一瞬、境内を見下ろした。

 立ち上がれぬまま、霊夢がじっと見上げている。

 紫が、俯いている。橙が、紫に身を寄せたまま涙目を空中に向けてくる。

 正面の八雲藍に視線を戻しながら、魔理沙は言った。

「……全員、死なせはしないぜ」



 一瞬、真昼になった。

 爆炎の閃光が、轟音を立てて夜空を薙ぎ払う。魔理沙の掲げた八卦炉から、マスタースパークが迸っていた。

 12個の魔法陣が、閃光に灼かれて消滅する。

 地上を向いていたら博麗神社が消し飛んでいたかも知れないマスタースパークを、しかし八雲藍は回避していた。9本の尻尾を斬撃のように振り回しながら金色の火球と化し、弧を描いて魔理沙の後方に回り込む。

 危ない、と霊夢が叫ぼうとした、その時には夜空が分断されていた。

 縦横無尽に走りながら光り輝く、緑色の直線によって。

 直線状に並んだ光弾の群れが、一斉に崩れて藍を直撃する。

「……っと……私を、弾幕の罠に嵌めたか……」

 高速回転を止められた藍の身体が、空中で捻れて揺らいで吹っ飛んだ。どれほどの痛撃となったのかは、わからない。

 そんな九尾の妖獣に、フランドールがぶつかって行った。

 可愛らしい左手が、藍の脇腹の辺りに突き刺さり埋まった。

「藍様…………!」

 橙が、息を飲みながら悲鳴を漏らす。

 藍の体内で、フランドールは何かを握り潰した。

 九尾の大妖怪が、砕け散った。

 飛散したのは、しかし肉片ではなく光弾だった。藍は、砕け散りながら弾幕と化していた。

 それが、フランドールを直撃する。

 鮮血の飛沫を咲かせて吹っ飛びながら、フランドールは人形の美貌を変えようとはしない。可憐な唇をしっかりと引き結び、その内側で牙を食いしばっているのが、しかし霊夢にはわかった。

 そんなフランドールの背後に、八雲藍はすでにいる。

「……君のそれは素晴らしい力だ。もっともっと、磨きをかけたまえ」

 囁きつつ、背後からフランドールに何かをしようとする九尾の妖獣。

 そこへ、魔理沙がぶつかって行った。

 魔法の箒による突進が、藍を轢き砕いていた。

 九尾の大妖怪は、砕け散りながら、またしても弾幕と化している。色とりどりの光弾が魔理沙を襲う。

 フランドールの小さな身体を脇に抱え、小刻みに箒を操縦しながら、魔理沙はかわした。

 かわした先で、藍が空中に佇み、微笑んでいる。

「こいつ……!」

 息を呑む魔理沙に抱えられたままフランドールが、時計針のような槍を可愛らしく振りかざす。

 いくつもの光の時計が出現し、回転する時針・分針で藍を切り刻む。

 切り刻まれた身体から、無数の光弾が溢れ出した。

 懸命に箒を操縦し、その弾幕をかわし続ける魔理沙の動きが、空中で右往左往しているように見えてしまう。

 藍は微笑みながら、夜空のあちこちに出現しては光の時計に斬り砕かれ、弾幕に変わり続けている。

 翻弄されている。霧雨魔理沙と、フランドール・スカーレットがだ。

 霊夢は立ち上がれぬまま、ただ呆然と見上げるしかなかった。自分が万全の状態であったとして、あの九尾の大妖怪に果たして勝てるのか。

「……随分と規格外の怪物を飼っていたものね、八雲紫」

 妹の苦戦する様を見上げながら、レミリア・スカーレットが言った。

「これほどの切り札を隠し持っていたとは、何とも油断のならないスキマ妖怪」

「……藍は、私の式神……私が作り出し、私が育て上げた……」

 俯いて橙と身を寄せ合ったまま、紫が呟き語る。

「だけど、すぐに私の教育など必要としなくなったわ。自身で学び鍛える事を覚え、私の代わりに様々な仕事を行い、やがて私以上の実務能力を持つに至った……幻想郷、最強の生体兵器。それが式神・八雲藍よ」

 擦り寄る橙の頭を、紫はそっと撫でた。

「藍がああなったら、私では止められないわ……だってあの子、私より強いもの……」

 弱気な眼差しが、ちらりと霊夢に向けられる。

「ねえ霊夢。私に、どうにか勝てる程度ではね……藍と戦うのは、難儀な事よ?」

 睨み返し、霊夢は言った。

「私……あんたが本気で戦ってた、なんて思ってないから」

「いじめないで。私の本気なんて、この程度よ」

 そんな事を言いながら紫が、式神の戦いぶりを見上げる。

 藍が大量にばら撒いた無数の光弾が、空中に残って蛍火の如く漂っていた。

 その光景の中心部に、幻影の類ではない本物の八雲藍が出現している。

「博麗霊夢……お前は、見ているだけか?」

 言葉と共に、九尾の妖獣が回転を始める。ふっさりと豊かな尻尾たちが、弧を描く。

「霧雨魔理沙もフランドール・スカーレットも、お前を守るために命を懸けているのだぞ」

 空中に残る無数の光弾が、その回転に合わせて渦を巻いた。

 それは、猛回転する獣毛の塊を中心とする、弾幕の大渦巻であった。

 台風を思わせる光弾の奔流が、魔理沙とフランドールを横殴りに直撃する。

 フランドールが、砕け散った。そう見えた。吸血鬼の少女の小さな身体が、4つに分かたれたように見えたのだ。

 4人のフランドールが、出現していた。それぞれが別方向に飛翔し、弾幕の大渦巻きから脱出する。

 1人が、魔理沙を掴み運んでいた。

「す、すまん。助かったぜ」

 魔法の箒を握ったまま、魔理沙は言う。フランドールは応えない。他の3人が、そこに集結してゆく。

 1人に戻ったフランドールが、そのまま魔理沙を投げつけた。可愛らしい豪腕で、藍に向かって投石の如く。

「うおおおおおおちょっと待てええええええええ、いやもうこうなったらスターダストレヴァリエだぜ畜生!」

 叫びながら、魔理沙は流星になった。

 吸血鬼の怪力、という推進力を獲得しつつ箒にしがみつき、魔力を迸らせる。

 魔力の輝きをキラキラと引きずる流星が、藍に激突する。

 弾幕の大渦巻きが、消え失せた。九尾の大妖怪が、攻撃のための妖力を維持していられなくなったのだ。

 流星の直撃を受けた藍の身体が、苦しげにへし曲がりながら吹っ飛んで行く。

 それをフランドールが追った。宝石の翼を輝かせて飛翔し、猛禽の勢いで藍を襲う。

 絶大な魔力の塊である可憐な繊手が、藍の身体に突き刺さった。いや、寸前でかわされたようだ。

 かわしながら、藍はフランドールの小さな身体を抱き止めた。空中で一瞬、揉み合った。

 その一瞬で、勝敗は決していた。

「……終わったね」

 橙が言った。

「藍様の、最強必殺技よ。誰も勝てないね」

「もう1度、敢えて問おう。博麗霊夢」

 藍が、豊麗な胸を抱えるように腕組みをしながら、ゆったりと降下して来る。フランドールの姿は見えない。

「お前は、戦わないのか? お前を守ろうとする者たちに任せきりか。無様でも生き延びるのが、博麗の巫女の正しい在り方というわけか」

 軽やかに、藍は着地した。フランドールの姿は、どこにも見えない。

「……そのような無様、私は許さん」

 金色の炎のような9本の尻尾が、今は後光の形に広がっていない。じたばたと暴れる何かを、包み隠している。

「紫様と橙を、このような目に遭わせておきながら……自分は、戦いを人任せにして逃げ延びるなど。許せるわけがなかろう?」

 じたばたと暴れていた何かが、急激に大人しくなってゆく。

 藍の背後で、閉ざされていた九尾が花のように開いていった。

 柔らかく豊かな獣毛の中で、フランドールはすやすやと寝息を発していた。


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