表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/2

はっきり言って!

 手を引かれるまま、どたばたとスミカは走って部屋を出ていく。

 狭い廊下から玄関まで立ち止まらず、スミカの家を後にする。


「おお~……本当に、本当に異世界だ。向こうの人はエルフ、あっちにはドワーフっぽい人達がいる……!!」


 通りに出ると色鮮やかな人達が歩き回っている。

 建物からすると、中世ではない……さっきのスミカの家もそうだったが、もう少し文明度が高い。

 歴史の教科書でいうと、近代くらいだ。


「通りも清潔だし……よかった!」


「この辺りはメインの通りですからね。あっちです! 向こうに煙が!」


「あの赤い煙だね。……ところで、もう手を繋いでなくてもよくない? 人混みがすごいわけでもないし」


 正直、小さな手が繋がったままで照れくさい。

 今の俺は若返っているとはいえ、15歳くらいのはず。


「迷子になったらどうするのです!?」


「ならないよ! 君の隣をついていけばいいだけだし!」


 そう言うとスミカが名残惜しそうに手を離す。

 ふう、とりあえずこれで良し。

 いやに懐かれているというか、頼りにされているというか。


 魔法学院を卒業。

 たしか、一番最初にスミカはそう言った。

 成績が悪くて卒業が出来ない、とも。


 走りながらでも、その辺を聞き出そう。

 勉強を教えるにしても、どういうことを教えればいいのか知らないと始まらない。

 と、そこまで考えて俺は頭を振った。


「いやいや、そもそも悪魔族ってなに!? 成績ポイントってなんだよ!」


「悪魔族というのは、人類の敵ですよ。魔力が結晶化して悪さをするようになった存在です――キョウスケさん、見たことないんですか?」


「聞いたことも――いや、見たことはないです! ほんのり聞いたことはあるけど」


 そう言えば神様は流れに任せればいいと言っていた。

 俺は大賢者だとかスミカも言っていたし、完全に否定しちゃマズい。


 適度に知っている振りをするんだ。

 実は知ってるんですよ(全然知らないけど)的な流れを……!


「ふむ、この新大陸にしか悪魔族はいないですからね。召喚されたキョウスケさんが見たことがないのは当然でした。あ、ちなみにどんな悪魔族の名前を聞いたことがあります?」


「ふあっ!? あ、え~……え~……おー……悪魔族。悪魔、そうだ! グレムリン!」


 しまった、映画のタイトルをそのまま言っちゃった。

 俺のバカ! サタンとかルシファーとか強くて偉そうな悪魔は他にもあるじゃん。


「ほほう……さすがは大賢者なだけありますね。非常にマイナー、目撃例もほとんどない悪魔族の名前を出してくるなんて。これでこそ、呼び出した甲斐があります」


 きらきらした瞳でスミカが俺を見つめる。

 とりあえず期待通りらしい。でも突っこまれたらボロがでそうだ。

 話題を変えよう、うん。


「そ、それで成績ポイントっていうのは?」


「成績ポイントというのは、これです……!! じゃじゃーん!」


 スミカがごそごそとポケットから銀色のカードを取り出した。

 厚みがあって、どことなくクレジットカードみたいな感じだ。表面に数字や文字がびっしり書いてあるので、なおさらそう見える。


「これこそ由緒正しきアイリス魔法学院の学生証です! このカードには倒した悪魔族の記録が自動的に残され、成績ポイントとしてカウントされるのです。卒業には一定数の悪魔を倒して、成績ポイントをゲットしないといけませんから」


 なるほど、ゲームだとよくある設定だ。

 でも……そうなるとこれって、俺も戦わないといけないパターンでは?

 家庭教師のはずなのに!


 カードをくいっと見せびらかすスミカは、そのまま俺の不安に気づかず話を進める。

 絵に描いたようなドヤ顔だ。でもかわいい。


「成績ポイントを貰えるのは、カードの所持者が悪魔族にとどめを刺した時だけです。さらに戦闘中、キョウスケさんの力は借りられません。もし学生以外の関与がバレたら、成績ポイントは没収されて罰を受けることになります」


「ふむふむ、自力で倒さないといけないのか。というか、危険はないの? 悪魔族と戦うとか」


「今回みたいに街の外壁に現れるのは、E級かD級の悪魔族です。それくらいなら学生でも後れを取ることはないどころか……即座に討伐されちゃいますよ。早いもの勝ちなんです!」


 だから走っているのか。

 見上げると、走る方向の先に何本も赤い煙が立ち上ってる。


「悪魔族は魔力を含んだ武器や魔法でないと傷つけられません。外壁の兵士さんは悪魔族が現れると、ああして煙を上げて知らせてくれるのです」


 赤い煙がだんだんと近づいてくる。

 けっこうな距離を走っているけれど、全然疲れない。

 前世では数百メートルくらいでひいひい息が切れたのに。


 もしかしてアスリート並みの身体能力ではないのだろうか。

 隣を走るスミカは、若干息が切れて汗が浮かんでる。


「もう少し、もうちょっとですよお! 成績ポイントのためにい!」


 外壁が大きく見えてきた。曲がりくねった狭い路地をスミカは迷うことなく進む。

 そんな中、路地の先に人が仁王立ちしているのが見えた。


「あ……! しまった、こっちは駄目でした! 引き返しましょう!」


「よーう、スミカ。逃げることはねぇだろう? 同じ学院に通う仲じゃねえか」


 仁王立ちしていたのは、スミカによく似た服を着た大柄な男だった。

 金髪碧眼、高校生くらいだが体格と鋭い目つきのせいで、威圧感がある。


 さらに男は、右手に巨大なガントレットをつけていた。

 ここがファンタジーな世界なので、あまり違和感はなかったけれど。

 ゲームでよく見るやつだが、殴られたら無事じゃすまない。


 スミカは目の前の男を認めてから、明らかに警戒している。

 いままでとは180度違う雰囲気だ。


「……他に行きましょう、キョウスケさん。」


「いいのかよ、スミカ? 成績ポイントが足りないんだろ? このままじゃお前は進級できずに退学のはずだぜ。目の前の悪魔族は、是が非でも倒したいはずだよなあ? このゴンザ様の仲間が、先に倒しちまうぜ」


 スミカに向けて、ゴンザがにやにやと言葉を吐く。


「隣にいるやつは、どっかから連れてきた冒険者か……? もう赤の他人の手を借りるしかないものな、お前は。本来は貴族しか入れない学院で、平民出身のお前を助ける奴なんていねぇしよ」


「……っ!」


 スミカが眉を寄せるも、唇は引き結んだままだ。

 怒ることも反論することもない。

 多分、それはゴンザの言葉が事実だからだろう。


 そして俺は自分がここに呼ばれた理由がわかった気がした。

 本来であれば学校を卒業するのに、大真面目に神頼みなんてしない。


 だけど、ここは異世界。

 日本じゃなくて、貴族や平民がいる世界なんだ。

 当人の力じゃどうしようもないことが起きてしまう。

 勉強であってさえも……。そういう理不尽なことがある異世界なんだ。


 なんだかムカムカしてきたぞ。

 勉強に、そういう格差はいらない。


「なぁ……いい加減、俺の女になれよ。そうしたら進級も卒業も簡単だぞ。俺様は後々公爵になるんだからな。平民からすれば、俺に抱かれるだけでも上出来な人生だろ?」


「ふざけないでくださいっ。そうやって、弱い立場の女性を何人も追い詰めて……!」


 ゴンザはゆっくりと俺達に近づいてくる。

 獲物を見定めた肉食獣みたいだ。


「弱い、追い詰められる奴が悪いんだよ! この世界は弱肉強食だ。頭が良くてもな、努力なんかしても意味なんてねーんだよ!」


 ぶちっ!

 俺の頭の中で、何かがキレた。


「今、何て言った?」


「ああん? 平民風情の努力なんて、無意味だって言ってんだよ。なにが学院初の平民学生だ、馬鹿らしい。四の五の言わずに、弱い奴は尻尾を振ってりゃいいのさ! てめえも、身の程を知りやがれ!」


 ゴンザは言い放つと、俺に向けてガントレットをいきなり振り下ろしてきた。

 それを冷たい目で見ながら、俺は手を差し出した。

 喧嘩なんてしたこともないのに、こんな奴に睨まれただけで前世ではちびってただろう。


「キョウスケさん……!!」


 スミカの悲鳴を聞きながら、一瞬のうちにどうすべきかがわかる。

 身体の中から――エネルギーが通り抜けていく。


 本能が俺に、それが魔力だと知らせる。

 どうやって使えばいいのかさえも俺はわかっていた。

 神様の約束通りだ。


【鏡返しの盾】


 イメージ通り、瞬時に俺の腕に魔法陣が組み上がる。

 ゴンザのガントレットが魔法陣に触れた瞬間、それは起こった。


【鏡返しの盾】は物理攻撃を反射する高難度の防御魔法。

 魔法陣に触れた物理攻撃の威力を、そのまま相手に返すのだ。

 ゴンザの攻撃は、逆に自分自身に返るだけの結果になった。


 自分自身のパワーに、ゴンザはたまらずふっ飛ばされた。

 そのまま、路地にばったりと倒れ込む。

 まさに因果応報。


 俺はそれを見て、きっぱりと宣言する。


「勉強する奴を笑うな! はっきり言って真面目に努力する奴を邪魔するのは、最低だ!」

お読みいただき、ありがとうございます!


『面白い』『続きを読もう』

そう思いましたら『ブックマーク』や画面下にある『評価』を頂けると、とても励みになります!

よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ