商人ウィンゴット
マクスウェル家というのはこの世界誰しもが知る英雄ともいえる家族、数ある偉業を成し遂げた一族でもある、一番有名なのは遥か北の軍事国家アザナエルを当時反乱軍筆頭であった第一王女、マリア=アザナエルと友誼を結んだサード=マクスウェルが長兄ファースト=マクスウェルと共に上層部と戦い王を討った事だ。アザナエルは奴隷を買い取り非人道な実験、また民を苦しめ人を人とも思わず世界各国に対して戦争をしかけるようなそのような国だった。新聞で見る程度の知識ではあるがウィンゴットにもろくでもない国であったのだという事がわかる。
色々な偉業は知ってるし、それはまたの機会に思い出す事にして、今一番注目しているのはナイン=マクスウェルだ、末子であり、兄や姉よりはまだ何もしていないようには思われているが、それでもウィンゴットは何かあると見ている。
「(名が売れてわずかな期間でランクオーバーに、多くの異種族とも友好を結ぶ、それに恐らく嫁になったとされる冒険者二人は人じゃねえ)」
くわえて村を出来るほどの土地をもらう、魔の森近辺は高レベルの魔物がなわばりとし基本的には立ち入れない場所だ、この村には結界も張っているようだし、ウィンゴットと同じように先を見ている人間達がちらほらいる、まだ雇用は生まれてないようだが、それも時間の問題だろう。
「(ここは、金になるな、インセントの王族もいるようだし)」
自分の今居る簡易的に作ったとされる宿も地球で言う所の民宿レベルの物だったがこちらの世界ではそれなりに高級宿とも言える、風呂も入れるし、温かい飯もでる、水道もあるし、清潔だ。ヴィンゴットは店員の真似事をしている犬の獣人の女性を見ながら正体に気付いていた。
「(獣人は基本的に手先は器用と聞く、この異界の料理も持前の器用さで覚えたんだろう)」
そう思いながら宿の中にある食堂でたこ焼きを食べる、この世界は異世界の知識を持つ転生者によって異界の料理が再現され今や美食が流行している、今まで小麦だけだったのが調味料やレシピが公開される事によって安く美味い料理が普及し、今や庶民も安定した美味しい食事という物ができるようになっている。
「(となるとナイン=マクスウェルは転生者か転生者の知識を持つ人間という風に考えた方がいいな)」
忙しそうに調理場で腕を振るう少年、たしかフィリップ=マーカスといったか
「(まあ面白そうな村だし、まずはあの少年と仲良くすることにするか)」
たこ焼きを食べてビールを飲むとうまそうににこやかに笑った。
戦士ビクトールは思考する。この場所で自分になにができるか、戦士ビクトールの腕は最上級ランクでも遜色ないほどの実力がある。それと言うのも魔の森近くの村に居たからだ。
魔の森の付近入り口までならば個人で戦う事が出来る、幼年期も大人に混じって魔の森に討伐しにいっていたからだ。
戦士ビクトールの体は二メートルはあり巨大な熊のようだ、その体から放たれる剣擊はすさまじい。
今回魔の森が王自らナインの土地にするという声明を出したので近隣の村としては気が気でないのだ。
幸いナインはこちらが後から来たわけだからと何も要求はしてこなかったが、王から賜れた土地というのもあり、貴族連中からなにか言われる可能性もある。例え土地だとしても。
基本的にこの国は善き貴族が多くてもやはり昔ながらの民を蔑ろにする貴族もいる。勿論そんな貴族は今や力もない状態にはされてはいるが、そんな奴はバカな事をすると相場は決まっている。
まあ今のところは問題は起きてないわけだが、王が聖剣を折った事は周知の事実でよからぬ事を企む者もいなくはないが。
「(まああの王なら何もせずとも排除するだろうな)」
ビクトールはそう思いながらも、村にある定食屋でシーフードカレーを食べながらそう考える。
むしろ聖剣を折った事を王自らが話してるのもあり、あまり危機を感じてないと感じている。
そしてなぜ知っているのかと言うとビクトール自身もかつてアーサーのパーティーに所属していたからだ、アーサーがまだ初級の冒険者であった時代、共に成長した王の親友ビクトール、共に魔王を倒した仲間でもあるが、元より村を愛していて帰る事を目的にしていたので魔王を倒した褒章全てを村の全てに使い、村長の娘を嫁にし、息子と娘がいる。
次期村長であるので尚更これからの事に敏感になっているのだ。
「(まあよい風になるだろうなあ、アーサーの事だから)」
ビクトールはにこやかに笑いながらウィスキーを飲み込む。




