孤児院の守護者
王都の外れ、教会のような場所に一人の巨大な男が現れた。そこにいるのは多くの子供達。
「あ、ファーストおじさんだ!」
一人の少年が巨大な男、ファーストににこやかに声をかける。
「久しいな、いい子にしてたか」
少年の頭を撫でると同時にわっと元気に少年少女達がファーストにとびかかる!
「相変わらずだね、あんたも」
修道女にしたらどこか青白く夜の女のような色気のある黒い髪を後ろに纏めた青い瞳の美女が煙草をふかしながら現れた。
「ああ、アリア、久しぶりだ」
アリアと呼ばれた修道女はにやりと笑う。
ここ王都シュベルクは本来の名前は創世国家シュベルクという、創世神クラウディアがかつて降臨された場所で初代勇者アーサー=シュベルクが聖剣を賜り当時の世界を滅ぼす大魔王を倒し建国したのがはじまりとされている。このシュベルクは人口20万人を擁する国家で今も尚人口が増え続けている。王都は王城を中心に中央地区、北部、南部、東部、西部と別れていて、中央地区は主に貴族が住む貴族街として北部は市場や冒険者組合、武具や防具アイテムを売る店等が集まる商店街としてのエリア、東部は一般市民が住む住宅街、西部は教会や学校等の教育機関が軒をつらねる。
ちなみにファーストが訪れている孤児院は教会としても利用されているので西部に属している。
孤児院
執務室
「最近きなくさいねー」
アリアは缶ビールを開けながら飲み干しつつ煙草に火をつける。
「異世界産の酒か、王も妙な技術を取り入れるな」
「今の王は転生者だからね、異世界の食をどうにかして食べたいという事でしょ」
実はこの王都ではつい最近になり異世界の食を召喚できる術式というのが開発され広く民間にも発表された、それというのも今代のシュベルク王が異世界の知識と食の文化を色濃く記憶に残していたというのもあるからだろう、正しくは前世の記憶を受け継いだ勇者の一人、すなわちナインの先輩にあたるクラウディアの加護を得ている、元はとある村民であったが冒険者に扮した現王妃と共に仲間と脅威となる魔王を倒し王となった。そんな経緯がある、そしてナインとも同じ加護を持つ同士というのもあるが、何より父であるレインの弟子でもあるので弟弟子として可愛がっているのでマクスウェル家とは家族ぐるみの付き合いでもある。
「王は、食が豊かであることこそが第一というからな」
「ああ、まず食を重視するのはいい、美味い飯はそれだけで幸福になるからな」
アリアはそう言うと缶ビールをまた開ける。
「なんだかんだ執務室にきたはいいけど、お前、またおっさんくさいな」
「うるせえなー、別にお前と俺のなかだろお?」
「まあな」
ファーストはなれた様子で執務室のソファーに座る。
「で、どうだった?」
「ああ、どうやら喧嘩を売りたいらしい」
ファーストは懐から紙の束を出す。
「ふーん、うちの可愛い子達に手を出すのはこのボケか」
実はこの孤児院、異能力を持つある特別な子供達が居る場所なのだ、主に戦場やなんらかの理由で親と一緒に入れなかった子供や特殊な事情で家に入れられくなった子供達、転生者や転移者とされる事情を持つ子供達、国も保護対象として護ってはいるが、国外からのちょっかいは未だになくならない。
「まあ異能は魔法というより生まれ持った技能のような者だからな、育てれば色々と有益な者になる」
「いい加減諦めてほしいね、今回は裏か?」
「裏だな、もうセカンドがもう突き止めてる」
「じゃあだいじょうぶだな」
「そうだな」
「で、お前は今日一日居られんのか?」
「休みはもらってきたからな」
そういうと空間に黒い穴を出現させて缶ビールにさきいかを取り出す。
「鉄板だな」
「間違いない」
そういうと二人はにやりと笑い飲みだす。
「ぜってえ、アリアと兄貴は酒飲んでんだろうなあ」
「いいじゃねえかよ、俺らと酒でー」
「えー可愛い子とのみたいー」
「あたしに喧嘩売ってんの?」
王都から外れた森の中黒装束の男たちを見ながらセカンドはため息とつく。
「んで、どうすんの?」
セカンドについてきたシャオメイは声をかける。
「んー、あの孤児院の奴らは可愛いからねえ」
「驚いた、お前子供も対象なのか?」
ゲインは肩をすくめる
「ばかいえ、俺はきちんと乳があるのしか対象じゃありませんよ、手のかかる子供が可愛いっつってんの」
「「まじか」」
「傷つくなー、マジマジ、それに子供が笑えない事っつうのはねー」
セカンドは煙草に火をつけると
「まあ、普通にやっとくけど」
セカンドはにたあと笑う。
王都シュベルク路地裏。
「バカめ、だから言ったのだ、この国には手を出してはならないと」
黒い服を着た髭を蓄えたありふれた町人のような男が眉間に皺を寄せた。この男はある国の諜報員でそれなりの立場にいる人間だ、この国の危険性を再三にわたり母国に忠告してきたが、母国が転生者という強力なカードを手に入れた事で野心まで持ってしまった、この男は身分不相応な事はしない主義で、転生者が如何に強力な力を持とうとも個人で覆せるものなどそうそうないと思っている、現に母国に現れた転生者は自分の力を過信し鍛錬も疎かにする愚か者であるし、何よりもこの国にはマクスウェル家の者がいる。
マクスウェル、その姓をこの国で聞けば十中八九あの者達とわかる、あの伝説の不老不死の賢者レイン=マクスウェルの血族、諜報を生業とするものなら誰もが耳にする、ただの人間であるはずはない。
彼等のしてきたことは表でわかるだけでも通常の冒険者が為しえないような偉業をこなしている。しかも全員が規格外の魔法を使い、末子に至っては全属性を操るときている。
如何にその危険性を聞こうとも、実際に見なければわからない、バカな部下がセカンドに捕まるのを見てすぐ退却した、どんな方法でしたのかを確認するのも必要な事なのだが、確認する前に心臓がつかまれたかのような恐怖を感じた。
「幸い気づかれてないはずだ、本国に」
「まあ、ゆっくりしてけや」
煙草に火をつけ吸いかけた瞬間、軽薄な声が聞こえた。
「まああんたは命はとらねえよ、進言してたみたいだしい?」
「な、なぜ」
「いやそんなガタガタしてたらばれるだろ」
そういうと暗がりからセカンドが現れる。
「しっかし、あんた有能なのに大変だな、他の国もあの孤児院にちょっかい出した奴の末路は知ってるだろうに」
「…転生者がきてな、私はそちらの言うように忠告したんだが」
「あー、転生者は普通の奴に比べたら能力によっては一国を滅ぼせるからな」
セカンドも煙草に火をつける。
「でももうこの国狙った時点で詰んでるぞ、少なくとも転生者は数えちゃいねえが、少なくとも三人以上はこの国にいるし、何より転生者ならもうすでに何人か殺ってるしな」
「…!?」
「過ぎたる力ってのはためにならない、そんで転生者はすげえ力を持っていて万能感に晒されやすい、まあ精神性が善性や中立性がある人間なら問題はねえが、心が歪み狂っている奴は転生者だろうとなんだろうと毒にしかならん」
「それはあなたもでは?」
「俺は選んでるからねえ、手の汚し方も自分の生き方も」
セカンドは煙草の煙を吐き出すと
「まあ、もうあんたの国は滅ぶの決まってるし、あんた死なすの惜しいから俺んとここない?いや、俺ら以外に感知されずにいられるの大したもんよ?」
「…身内もいない、母国にも愛国心もないしな、給料はいいんだろうな?」
「お、いいねえ、調べただけの事あるよ、あんた食う物と酒にはうるさいもんな」
「諜報部の予算は必要最低限だからな、民にも重税を課す、寧ろマクスウェル家に運営を任せたいくらいだ」
「バカいえ、うちらはうちらで今の生活に満足してるよ」
「やれやれ、ではセカンド、そちらの傘下に降りよう、あなたの事だ、もうすでに全て知っているのだろう?」
「ああ、俺の女は全世界にいるからねえ」
「羨ましい事だ」
「あんたもそこそこイケてる面をしてるし良い女に会えるよ」
「だといいがな」
長年連れ添った友人のようにセカンドは肩を叩き路地裏を後にする。
後日、孤児院を襲ったとされる国は三人の男女によって滅ぼされた。




