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超絶仲良しだ!

「あー、楽しかったな! アイ、今度から今日買った服を着ような」


 俺とほむらの両手には、大量の服が詰め込まれた紙袋がある。地味にほむらの服まで買わされた。

 値段にして4万円、親からもらっている仕送りの中から、普段節約してちょっとずつ貯めた俺のへそくりは半分にまで激減した。

 バイトでもしようかな?


「アキト……ありがとう……!」


 不意にアイが満面の笑顔を浮かべて俺に礼を言ってきた。

 突然の不意打ちに俺は頬がほころび、思わず泣きだしてしまいそうなほどに感動した。

 アイが、俺に笑顔を浮かべてありがとうって、そう言ってくれて、尋常ではないほどの嬉しさがこみ上げる。


「ほむらお姉ちゃんも……ありがとう……!」


 次いでほむらに対しても礼を言い、ほむらは力の限りアイのことを抱きしめた。


「アイちゃん可愛い! いいのよお礼なんて! アイちゃんはただ笑っていてくれるだけでそれでいいの!」


 全くの同意!

 俺は心の中でほむらの意見に賛同した。

 たとえこれからどんな困難が待ち受け得ていようとも、アイの笑顔さえあれば俺は幸せだ。そのことだけは言い切れる。


「っと、そうだほむら、アイのことは誰にも言うなよ?」


 この感動のまま家路について至福なまま今日という日を終えたいが、ほむらの口止めをしておかなければいけない。

 どこから竜王機関にアイのことが伝わるか分かったものじゃないからな。


「ええ~、何で?」


 あからさまに不快な声をあげるほむら。こいつ、言いふらす気満々だったな。


「色々と事情があるんだよ」

「アキトがロリコンってバレると困るってこと?」

「ちが……くはないけど、それとは別にもっと問題があるんだよ」

「もんだい~? 私はアイちゃんと、市子とかと一緒に遊びたいんだけど」


 アイに友達が増えるかもしれないほむらの考えには俺も同調したいが、だがやはり、アイのコミュニティを必要以上に広げることは得策ではない。

 特にほむらの友人、市子の兄は高校卒業の時点でAランクであり、今は竜王機関に所属している。それも新入りにとってはそれなりの、中の下ぐらいの役職にもついている。

 アイについて知られてしまえば99%すべてのことが竜王機関に伝わる。

 そうなればアイは元のモルモットとしての生活に戻り、そのモルモットを勝手に自分の家に連れ込んだ俺も、秘密裏に処理されるか、適当な罪をでっちあげられて公に処分されるかのどっちかだろう。

 それだけは何としても避けなければならない。

 俺のために、アイのために。


「頼むほむら。アイのことは誰にも知られちゃいけないんだ。でもそれはアイのためなんだ。誓って本当だ。だから、アイのことは秘密にしてくれ。頼む!」


 俺はいまだアイに抱き着いているほむらに、これ以上ない真摯な態度で懇願する。


「アイちゃん、アキトが頼んでるんだけど、私はどうしたらいいと思う?」

「……わたしは、アキトの、困るかお……みたくない」

「分かったわー! アイちゃんが言うんじゃしょうがないわねえ!」


 ……俺、結構マジメな態度で話しているつもりなんだけど。

 まあでも、ほむらは自分で言ったことは死んでも曲げない女だ。ちなみに他人の言った事でも常に曲げさせない。もしも自分の言ったことに責任を持たない行動をしようものなら、その者は消し炭になることが確約されたも同然である。


「じゃあアイちゃんと遊ぶときはアキトの家に行くわね」

「あ、ああ、まあいいか」


 それぐらいなら別に構わないか。いくらアイに他者との接触は控えるようにといっても、傍にいるのが俺だけじゃアイも寂しいだろうし、同じ女性の友達の方がアイも気が楽だろう。


「これで夏休みの楽しみが増えたわねー。ふっふーん」


 陽気に鼻歌を鳴らしながら歩み始めるほむら。

 うむ、精神年齢がアイと近そうだし、気が合うかもな。こうなったら大地のことでも呼んでやろうかね。補習のせいでどうせ俺の家に来るのは夜遅くになるだろうけど。

 と思っていると、目の前にもう一人の補習生、雪姫こと氷室飛鳥が俺たちの目の前で歩いている。


「あ、飛鳥ー、今帰り?」


 ほむらが何の躊躇もなく氷室に向かって大声を上げた。

 前を歩く氷室はこちらを振り向き、露骨に嫌そうな顔を向けた。


「あなたは……青峰さんに佐藤君ね」


 おお、覚えてくれてたのか。

 どうせ名前なんて覚えられてないと思っていたから、名前を呼んでもらえたことにほんの少し喜ぶ。


「ねえ飛鳥、大地はまだ補習中?」

「そうね、月野先生は下校時刻の夜8時まで残らせるって言っていたわ」


 あいつ、本当にギリギリまで学校に残らされてるのか。こりゃあ補習期間中はずっと夜中までコースだな。


「それとその子は……2人の子供?」

「アハハ! 飛鳥が冗談いうなんて珍しいわね」


 ほんとびっくりだ。まさかアイのことを俺とほむらの子供と言うなんて、いつものイメージとはずいぶんとかけ離れている。


「……? じゃあ誰の子?」


 冗談だったんだよな?

 氷室の言葉が冗談であったと信じつつ、俺はこう説明した。


「……親戚の子だ。ちょっとした事情で預かることになってな」

「そう。あんまり仲良さそうだったんで親子に見えたわ」

「ああ、俺とアイは超絶仲良しだ」


 とびっきりの笑顔を浮かべ、親指を立ててそう言った。

 それが不快だったのか、氷室はイラついたような顔をして俺から視線を外した。

 あ、ヤバイ。ちょっと心が傷つく。


「アイちゃんか…………まさかね」


 氷室がポツリとつぶやき、視線をアイに移した。


「その子の能力は何なの?」

「それは秘密だ。プライバシーの侵害ってやつだ」


 人の能力を探ることはマナー違反だ。能力を使った大会で勝ち抜くために、出来る限り情報は隠匿しておくことは社会の常である。


「その子の親は?」

「……海外で仕事してるみたいなんだ。詳しい事情はあんま知らねえけどな」

「前はどこに住んでたの?」

「……海外のどっかだったけな」

「年齢は?」

「10歳……なんかやけに聞きたがるね?」


 他人のことなんかまるで興味なさげなのが雪姫なのに、今日はやけに積極的に俺に質問してくる。そんなにアイのことが気になるのか。


「ゆき—―氷室さん、そろそろ帰りたいんだけど」

「……悪かったわね」


 そう言って氷室は自分の家へと歩き始めた。

 その姿勢は凛として、1本の芯が通っているかのようにきれいだ。

 あんだけ私出来る子ですオーラ放っといて、補習組なんだよな。


「アキト……あの人のこと、好きなの?」


 氷室の後ろ姿を見つめる俺の手をくいくい引っ張り、アイがそう聞いてきた。

 心なしかムッとした表情に見えなくもない。


「全然。確かに綺麗な人だけど、恋愛対象にはならねえな」


 いくら見た目が良くてもあの性格だ。俺のストライクゾーンからは些か外れている。

 俺が雪姫を見るのはあれだ、女優とかを見てきれいだなあ、と思うようなものだ。


「大丈夫よアイちゃん、アキトはロリコンだから」


 ほむらがニヤニヤしながらアイにそう言った。

 誰がロリコンか!

 だけどここで無理に否定したらまるでアイのことが好きではない、ひいてはアイのことが嫌いだと言っているように聞こえるかもしれない。

 紳士である俺がそのようなことをするものか!

 だから聞き流しとこ。


「アイちゃんのことはとーっても大好きなのよ」


 うん、間違ってはいない。アイのことは好きだ。恋愛感情かどうかは別物として、アイのことが好きなのは確実だ。


「わたしのこと……好きなの?」


 アイが上目遣いでそう聞いてきたので、俺は無言でうなずく。

 言葉としてアイのことが好きだと言わなかったのは、なんかロリコンであると認めているみたいだからさ。


「ほらね、アイちゃんのこと大好きなのよ。本当はあんなことやこんなこともしたくてたまらないのよ」

「誰がだ! いい加減なこと言うな!」


 さすがに聞き流せる内容ではない。それでは思いっきり性犯罪者だ。


「そんなんじゃなくて俺のアイに対する気持ちはもっと健全なモノであってだな」

「あんなことや……こんなこと?」

「ほら、アイが変な言葉を知ったらどうするんだよ!」

「過保護ねえ。こういうことは早めに知っておいた方がいいのよ。そんでもって好きな子には小さなころから積極的に行くのよ。そうしないと女としての幸せはつかめないわ!」


 切実だな。もっと早く大地にそういうアピールをしといたほうが良かったと、後悔しているんだろう。

 だが! アイには関係ない。アイは純真無垢な女の子として生きていくんだ!

 とほむらの意見を真っ向否定したら、怒るんだろうなあ。


「ほむら、お前の言いたいことは分かった。ひとまずそのことはあとで話すとして、今は家に帰ろう」

「私もアイちゃんみたいな可愛い女の子だったら、大地の見る目も変わってたのかなあ」

「はいはいそうだな。きっと大地も振り向いてくれただろうな」


 勝手に興奮して勝手に落ち込んでいるほむらに適当に相槌を打ちながら、俺は周囲の目を見にしながら歩く。

 結構騒いでいたからな、ちょっとだけ注目を浴びちゃってるよ。

 とまあ、なんやかんやあって家に着いた。


「ところでさ、ほむらは何で来たの?」


 渋谷を離れた時からついてきたからなんとなくスルーしてしまっていたが、ほむらは一体何の用があって俺の家に来たんだろう?

 もしも一緒に風呂に入っていたりしてることがばれたら、俺の人生即詰みだ。


「久しぶりにアキトの手料理が食べたいと思ったのよ。あんた男のくせに私のママより料理うまいじゃない」


 そんな簡単に認めてしまっていいのか人様の娘っ子さんよ。高校生の作る料理に負けたとあっちゃ、結構ショックだぞ。


「あ、そうだアキト、久しぶりにバイク乗せてよ。あれ気持ちいいのよねえ。風になるっていうのかしら」


 ほむらが思い出したかのように言った。余計なことを。

 まあ確かに俺のバイクは乗ったら気持ちいい。以前にも何度かほむらや大地を乗せてやったら、どっぷりとハマってしまった。

 だが、


「ダメだ」

「え、何でよ?」

「あれ見せたら絶対アイも乗りたいっていうだろ? お前や大地なら多少ケガしても別にどうでもいいけど、アイはダメだ。俺の目が黒いうちは危ないことは絶対にさせない」

「……ケチ、過保護、ロリコン」


 このアマ、自分の思い通りにならないからって好き勝手言いやがって。

 だが何を言われようとも乗せる気は毛頭ない。俺はロリコンじゃないが、アイのためならなんだってやってやる気概でいる。それはつまりアイに頼まれたらバイクに乗せてしまうということだから、その存在を知られてはいけないのだ。


「お前が免許取って自分で乗れ。免許取ったらあのバイクやるからよ」

「それじゃ意味ないでしょうが!」

「だったら同じ能力の奴を探せ」


 ほむらの弁にああ言えばこう言うが、そのすべてが無意味なことであることは百も承知だ。ほむらがバイクに乗っても俺のようには使いこなせないし、同じ能力を持つ者はそもそも少なく、いたとしても俺のように十全に使いこなせないだろう。

 要約すると、お前にバイクは乗せない、と言っているのだ。


「諦めろ。その代わり今日は腹いっぱい食ってけ」

「……覚悟しなさい。たらふく食べてあげるから」

「太らないようにな」

「大きなお世話よ」


 そんなやり取りをしながら俺たちは家の中に入る。

 ……大丈夫だよな? 何も問題ないよな?

 急に不安になってきた。俺をロリコンと決定づけるようなそんな証拠があるんじゃないか。無いとは思っている。というかロリコンじゃないんだからそんな心配すること自体おかしいんだが、図らずもといったことがある。

 やはりここはほむらにご退却を願おう……。


「おじゃましまーす」


 俺の思考自体が無意味であるかのようにほむらが無遠慮に部屋の中に入った。

 こうなってはしかたがない。

 というか、ロリコンじゃないんだから堂々としていればいいんだ。


「じゃあアイちゃん、早速お風呂に入りましょ。お姉さんが隅々まで洗ってあげるわ」


 奇妙な手つきでアイに近づくほむらだが、その動きはすぐに止まる。


「アキトに……いれてもらう、から……」

「……あんた、やっぱりロリコ……」

「あーあー! アイ、ほむらと一緒に入って来なさい!」

「え……でも……」

「お願いしますアイさん。今日はほむらと一緒に入ってください」

「……うん」


 アイは渋々といった感じでうなずいた。

 俺と入りたがってくれるのは嬉しいですけども、今日ばかりはそうもいっていられない。

 すぐそばにほむらがいるのだ。ほむらでなくても、誰かがこの家にいる状態でアイと一緒に風呂に入るなど、自殺行為にもほどがある。


「さ、アイちゃん。私たちはお風呂に入りましょ」


 ほむらの口調は明るい。アイと一緒に風呂に入る喜びか、声だけを聞けば気分が良いように聞こえる。うん、俺を軽蔑のまなざしで見るのは気のせいだ。

 俺は気にせず夜ご飯の準備をしようかね。


「ロリコン」


 ほむらがボソッとつぶやいた。

 違う! 違うんです!

 アイが一人でお風呂に入るのは心細いかなって、俺がアイの心の拠り所になってあげたらなって、そんな気持ちで一緒にお風呂に入っていたんです!

 いかがわしい気持ちはありません!

 と、心の中で言いわけをしながら夕食の準備を始める。

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