if 白雪姫~七つ子頑張る!~
猟師の助けで王妃から逃れ、7人の小人と暮らしはじめた白雪姫のもとに魔女に化けた王妃がやってきて、毒のはいったりんごを差し出しました。
おいしいりんごをあげよう。 魔女からそれを受け取った白雪姫は、けれどそのりんごを渋い顔でみつめるだけで、いっこうに口にしようとはしません。
なんせこの白雪姫は、りんごが世界中のなによりも一等きらいなのですから。そして白雪姫は冷たい視線で魔女にこう言いました。
「あなた、アタクシの事知らないの? 他のフルーツを持って出直してらっしゃい」
何と門前払いをしてしまったのです。小人たちの前では笑顔を絶やさない白雪姫ですが、それはあくまで小さい人に向けられた笑顔だったのです。
(白じゃなイ! 黒雪姫だイ……!)
その様子を見た小人の長男のコイチは、七つ子の兄弟達の元に走って行きました。
「おおーい! コニ、コサン、コシ、コゴ、コロ、コシチ! 僕見たイ! 白雪姫様の本性!」
「本性? そんなもんあるかニ」
コニが尋ねると、コイチはかくかくしかじか、見た事の一部始終を話しはじめました。驚いた兄弟達は焦り始めます。
「どうするサ。このままだと僕達の白雪姫の物語が進まないサ」
コサンが聞くと、コシが答えます。
「何としても白雪姫に毒りんごをたべさせるシ!」
「でも、どうやるゴ?」
コゴの言葉に小人達は悩みました。するとコロが思いついたのです。
「りんごの皮をむいて、千切りにしたりんごをサラダに混ぜるんだロ!」
「すごいシチ! 天才だチ、コロ!」
コシチが褒めると、コロはえっへん! と鼻を高くしました。
小人たちは城に戻ろうとする魔女に化けた王妃を追いかけます。でも、全員ではありません。コイチ、コロ、コシチの三人で向かったのです。
かくかくしかじか、コイチは王妃に、物語通り毒りんごを食べさせたいと説明しました。王妃は問います。
「お前たちは、白雪姫の命を奪いたいのかい?」
そんな事はしたくない小人達に、王妃は自分の役目を奪うなと言います。困ってしまった小人達は、一人ずつ王妃と握手をして家に帰りました。
がっくりと落ち込んでいる小人達ですが、コロだけは笑顔でいます。なんとコロは、王妃が持っていた毒りんごの一つを盗んでいたのです。
家に着いて小人達は相談します。まず、予定通り千切りにしたりんごをサラダに混ぜよう。
それでも食べなかったらどうしよう? カレーも作ろう。カレーに摩り下ろしたりんごを入れよう。
「みんなー! そろそろお夕食に時間ね。今日は何を作って下さるの?」
「カ、カレー!!」
白雪姫の機嫌のいい声に、ついカレーだと全員で言ってしまった小人達。物語を進めるため、小人達は震える手でりんごをサラダとカレーに入れます。
まだかまだかと夕食を待っている白雪姫。その様子を、りんごが減っている事に気づいた王妃が覗いています。
ようやく出来上がったカレーとサラダをみた白雪姫。ですが、少々お顔が曇っていきます。
「ねぇ、何入っているのかしら? これ」
何と白雪姫、皮を剥いたりんごのサラダを指差ししているのです。
「アタクシがりんごが死ぬほど嫌いって知らないの? 同じ顔を七つも並べて、一人も知らないの?」
にっこりと笑いつつ、怖い言い方をする白雪姫は、小人達の前でも黒雪姫となったのです。
「ごめんなさい! 僕のだったニ!」
慌ててコニがサラダを下げました。お気をつけなさい、とカレーに手を付けた黒雪姫は、ゆっくりと口に入れて味わっています。
「うん……」
りんごが入っているとバレないだろうか。ドキドキしている小人達は、ごくりと固唾を飲みます。王妃は気づきました。小人達がカレーに毒りんごを入れていると。
「あら、美味しいわね」
すると一口、また一口と食べて行きます。りんご擦りおろし作戦、大成功です! 小人達は、これで物語が進むと大喜びしました。その瞬間、窓を破った老婆の姿をした王妃が白雪姫を指差したのです。
「ひーっひっひっひ! 白雪姫! その中にはねぇ! あたしの毒りんごが入っているんだよ!」
「な、何ですって!?」
白雪姫の瞳は真っ白になり、怒りました。毒ではなく、りんごが入っている事に。
「あんたたち、人が大人しくしていれば、こんな事……うっ!」
小人達に怒りの矛先を向けた白雪……、いえ、黒雪姫は、長い時間苦しみました。
「うぅ……! あああ! く、苦しい! 解毒、解毒剤を……!!」
七つ子の小人達は、抱き合ってぶるぶると震えています。そして黒雪姫は、動かなくなりました。
「どどどどどどうしよう、姫様死んじゃったサ!」
がたがたと罪悪感に苛まれるコサンに、コシが冷静に言いました。
「僕達は、お婆さんから買った普通のりんごを料理につかったんだシ。ふつーのりんごだシ」
五人の小人達は頷きました。そして七つ子は、ぐりっと老婆となった王妃の方を向いて叫びました。
「白雪姫の敵ー!!」
手を下したのは七つ子で自分は未遂で終わったのに、何故こんな仕打ちをされるのでしょう。七つ子の目的は物語の進行なので、あとは予定通り王妃を退治するだけです。小人達は、斧や桑を持って王妃を追いかけはじめました。
「毒りんごと知りながら、あたしから盗んだチビ共が! ふざけんじゃないよ!」
「僕達はただのりんごを使ったんだシチ!」
「お前は認めたんだゴ! 自分の毒りんごが入っているっゴ!」
何という事でしょう。白雪姫が倒れた事に喜んだあまり、つい口走ってしまった事で墓穴を掘ってしまったのです。
崖に追い詰められた王妃には後がありません。こうなったら持っているりんごを投げつけるしか、反撃する術はない。
「こんの! チビ共があああ!」
一つ目を投げてかわされ、二つ目を投げてかわされ、三つ目を投げようと振り上げた時でした。雷がりんごを直撃したのです。その衝撃で崖から足を踏み外した王妃は、崖下の海の中へ消えていきました。
「や、やったロ……」
後味が悪い。ですが小人達には使命があります。黒雪姫を綺麗な棺に入れて、王子様が通るのを待つという使命が。
気持ちを切り替えた小人達は木を切って棺を作り、黒雪姫を入れると、中を花で埋め尽くしました。
「後は、王子様が通るのを待っているだけだイ」
コイチの一言に少しだけ不安になるコニは思いました。りんごではなく、りんご入りカレーを食べた事で、王子様は予定通り通ってくれるのだろうかと。
「皆、泣くんだサ。泣いて王子様を待っているんだサ!」
その瞬間、みんなでおーいおいと泣き始めました。白雪姫が、僕達の白雪姫が死んでしまった。毒りんごを食べて死んでしまった。天にも響くような大声で泣いている小人達の声が聞こえたのか、馬の足音が聞こえてきました。
何と、王子様がやってきたのです。
「どうしたんだい? 君たち」
なんと爽やかな好青年の王子様でしょう。この王子様のキスなら、黒雪姫も白くなり、目覚めるかもしれません。
かくかくしかじか、小人達が通常の物語通りの説明をします。これで物語通り白雪姫が目を覚まし、王子様と結ばれるはずです。
「分かった。私の唇一つで、この美しいお姫様が目覚めるならば」
王子様がそっと黒雪姫にキスをしました。すると、黒雪姫は当初の白雪姫の笑顔で目を覚ました。小人達は大喜びをします。
しかし、王子様が息を吹き返した白雪姫の手を取り、立たせた瞬間――
「うっ……!」
白雪姫は何と、王子様に食べたカレー全てを吐いてしまったのです。言葉を失った王子様に、白雪姫はこう言いました。
「ありがとうございます、王子様。アタクシと結婚してくださいますわよね?」
真っ青になっている王子様は、顔をひきつらせています。小人達には。嫌な予感しかありません。
「私には、婚約者がいますのでー!」
王子様は馬に乗って逃げてしまったのです。
「お待ちください! 私の唇を奪った王子様ー!!」
白雪姫は追いかけて行きました。そして、その白雪姫は、もう二度と小人達の前に姿を現す事はなかったそうです。
「みんな、次の白雪姫を待つんだイ。まともな白雪姫を!」
小人達は眠りにつきました。そう、この物語は延々と繰り返します。白雪姫はその度に別の性格になり、まともな白雪姫はなかなか現れません。
あなたの考えた白雪姫が、本当のお姫様かもしれませんね。
おしまい。