第9話 波に呑まれゆく者
さて、と......どうしようか。こんな事あったら修行どころじゃないし。
「なあ、アルト。結局、縛ってどうすんの?」
「いや、俺に聞くなよ...。まあ、一応起きるまでここに縛り付けとけばいいだろ」
「そうだな。暴れられても困るだけだし」
とか何とか話した挙句カールは木に縛り付けたまま一時放置ということになり、カールがいないと修行にならないので村に降りてヘルトを呼んでくることにした。
「何かほとんど動かない日があると修行する気起きなくなってくるな」
「動いただろ、山2往復とジジイのやつ」
何だこいつ、ウザイ。話続けさせろや、まったく、だからアルトはダメなんだよ。
「言い間違えた。動いてない時があると修行する気起きなくなってくるな」
「今歩いてるけどな」
何だこいつ、ウザイ。......ちょっと訂正。本当にウザイ!
「いちいち、面倒なやつだな!何だっていいだろ!」
「俺はいつも今の俺みたいにいちいち文句言われ続けてきたんだよ。お前にな」
「そりゃどうも〜。すいませんでしたね〜。俺が行ってくるからお前帰ってろよ」
そう言って俺はアルトを置いて走り出した。
「ちょっと、おい!待てよ!」
「いつも置いてかれる俺の身にもなれ!」
「くっそ!待てー!」
結局歩いていくつもりだったのに2人共走って山を降りていった。
アルトと話すと喧嘩ばっかりだわ。でもこっちからも言い返せたから少し満足だな!
村に到着した。だが、辺りは静まり返っていた。物音一つ聞こえない。まるで世界から音が消えたかのように。
「はぁはぁ、これじゃいつもと変わんないな」
「全くだ。元はと言えばお前が走り始めたんだろ」
「悪かったよ。それよりさ、なんか静かだな。レジスの印象が強すぎてあんまり覚えてないけど、ここまで静かではなかった」
「まあ、このままじゃ何もわかんないし、自兵連合の兵舎に行こう。ほとんどヘルトはそこにしかいないからな」
「あいわかった、じゃあ早速行こう」
という訳で、やって来ました!自兵連合の兵舎です!ひと月前に来たときより随分と静かですね!というかなんの音もしません!どういうことでしょうか!
「説明しろよ、アルト」
「いや、わかるかよ!」
結局来てみたけど誰もいない。ヘルトの部屋にもどの部屋にも人がいない。
「しっかし、本当に誰もいないな。他に心当たりのある場所とかない?隠れ家的な場所とか」
「ないな。てか、何の音も聞こえないならもう全員村にいないんじゃ......」
「そうだな。なら手がかりでも探すか。結局ここにいないって事がわかっただけで、ヘルト達がどこに行ったかはわからないからな」
「わかった。じゃあ俺はここのベッドの上を探すお前は兵舎全体と酒場を見てきてくれ!」
「お前も働け!」
もうこれ事件だろ、いきなり村人全員いなくなるとか本当に意味不明だ。カールがおかしくなったのと何か関係あんのかな。いや、同じ日だし関係あって当たり前か。
一応アルトに言われた所は全部調べた。アルトには適当に村で誰かいないか走り回らせてる。1人に押し付けようとした罰だ。心して励め。
てなわけで調べ終わって今アルトと合流するために酒場の前に来ている。だけど、全然アルトが来ない。何でだ。もう1時間以上経ってるのに来ない。事件だよなこれ、アルトも多分巻き込まれたよな。帰ってこないし。
「全く、いつになく嫌な日だな今日は」
どんどんみんないなくなるっていうね。脅しですか?本当に。何なんだし、誰か出てこいよ。もしアルトがここに来たら一応俺の名前聞いとこう。カールみたいにおかしくなってたら困るしな。
「お〜い」
ほい来た。まったく、タイミングいいやつだ。
「おい、俺の名前言ってみろ」
「?ドルフだろ?」
あれ?違ったか。なんだ、あいつは正常か。来るなら早く来いよな。ホント、余計な事考えちゃうから。
「どうだった?誰かいたか?」
「い〜や、誰もいないな。一応村の中央塔から外見渡したけど動く物は何も見えなかった」
「なら、どうするか。一応戻るか?カールも縛ったままだし」
「いや、まだいいだろ。2時間と少ししか経ってないしな大丈夫だろ」
「いやいや、もう3時間以上経ってるから。忘れたか?山降りる前と村に着いてから確認しただろ」
「あ〜そうだったな、忘れてたわ」
当たりだわこれ。別荘に時計なんてないし、村に入った時は走ってて時計は見なかったしな。一応様子見しとくか。化けの皮が剥がれてもすぐに対応できるように歩く時はアルトを前につかせよう。
「よし、まだ時間あるしどこ行く?もう村は探しきったから村以外な」
「いや、まだ探しきれてないぜ」
「は?どこ?」
「地下だよ地下。一応ここは兵舎まであるし、ここら一帯で1番でかい村なんだ。だから大きい地下もある」
「地下があるのとでかい村って関係あるのか?」
「あるさ、魔物の群れが襲ってきた時に少人数の村なら全員逃げ切れるけど、ここまで大きいと無理だから地下に避難するんだ」
「あ、地下って避難用だったのか」
「そうだ、本当にこれが事件だったら避難するはずだろ、地下に」
「あぁ、そうだな」
怪しい、実に怪しい。なんでそんな大事な場所を黙ってたんだ?まだ、さっきのうちに探しに言ってたって言うなら信用できるけどな。
「ていうか地下の入口ってどこ?」
「結構色んな所にあるぞ。この村の中央塔と後は村の周りだ」
「なら、中央塔から入った方がいいな。外側だと見張られてるかも」
「そうだな。外側よりは安全に行けるだろ」
アルトが何で地下の事を言わなかったのか考えながら歩いてたけど、地下への入口につくまでにわかることはなかった。
地下の入口は本棚の裏に木の扉があった。余程急いでたのか本が散乱している。中に入ると蝋燭の火だけが頼りの、石で出来た階段があった。何故か階段は濡れていて滑って転びそうになった。
「やっとついたな地下室の扉」
「地下室って言うか、地下村って呼ぶべきだろ。地上の村とほぼ同じ大きさだし」
「そんなにでかいのによく崩れないな」
「一応大量の柱で崩壊は阻止してるから心配はない」
「なら安心だ。ていうかこの扉重くね?いくら頑丈な扉とはいえ流石にこれは重すぎだろ。おい、アルトお前も手伝えよ」
「はいはい、わかったわかった」
「よし行くぞ。せーのっ......はぁはぁ。開かなくね?これ」
「ダメだな。これはいくらやっても無理だろ」
「えー、ここは入れなかったらどこ行けばいんだよ」
「慌てるな。押してダメなら引いてみればいいんだ」
「いや、これ押し扉だぞ.......まさか引いて壊すのか?」
いや無理だろこんな厚くて重い扉、壊せるわけないだろ。万が一もない。絶対無理だ。
「こういう扉は付け根が脆いんだよ。思いっきり引けば外れるかもしれない」
「なんだ、普通に扉壊すのかと思った」
「流石に無理だ」
扉を2人がかりで反対側に無理矢理外すことになった。アルトいわく外すくらいなら前にいくらでもやった事あるらしい。どこでやってたんだが。
「よし行くぞ。せーのっ.....」
「「うううううおおおお!」」
なん、か.....ミシミシって音なってる。あ、これいけるやつ?本当にいけそうだ。
「外せそうだなこれ!」
「いや、なんか嫌な予感がする!」
「なんで!ってあれ?なんか動いてるぞ」
引っ張ってないのに勝手に開き始めた。扉の隙間からは少しずつ水が入ってくる。.......まさかこれって......。
「やばい!上に登れ!」
「わかった!」
アルトも気づいてたみたいでそのまま俺の言う通りに階段を急いで登り始めた。
バキバキバキッ.....ザッパーーーン!!!!!
「まずいぞ!扉壊れたみたいだ!」
「水がもう.....追いつかれる!」
もの凄い勢いで大量の水が迫ってくる。ひたすら走り続けて逃げるが、追いつかれた。
「「うわあああぁぁぁ.........」」
2人共扉から流れ出た水に呑まれて流されていった。
テスト明けで投稿遅れました。
これからはもっと投稿早くなると思います。