第8話 修行中の異変
あ〜もうやだ。
これ以上動いてると体壊れそうだ。
修行が始まってから1ヵ月が経過した。
俺は最初の10日間体力づくりで1日中走らされた。その後は実践ばかりで剣も振ったことないのに魔物と戦わされ何度も怪我をした。
休日とか入れてほしいよ。
「魔物とばかり戦うのもいかん。午後の修行は全てわしと戦ってもらう。1人ずつかかってこい。人間くらい1人で相手できるようにならんといかんからな」
また、変な事言ってるよ。カールに殴られる数が増えるだけだろ。でも、人と戦うのはいいかもしれない。今度どこか行った時に絡まれて攻撃されても、やり返せるなら行動の幅が広がるし。
「さぁ、早くかかってこい」
「え、もうそんな時間!?」
何で休憩時間ってこんなに短く感じるんだろ。
まあ、でもやるしかないか。
「じゃあ行きますよ」
「来い!」
カールがドルフに向かって一直線に走った。
かなり低い前傾姿勢で突っ込んでくる。
おい!こっちが行くって言ったのに何でお前から来んだよ!クソッ!
カールはそのままの勢いで右拳を振り上げた。
ドルフはいきなりの事だったので避けるのにかなり無駄に動いてしまった。
体勢が崩れたドルフにカールは左拳を打ち下ろした。
「ぐぉえ!」
「何じゃ?まーた油断しとったな」
「そ.....そりゃ、だって......こっちが行きますって言ったのに、そっちから来るとは思わないだろ!」
「どんな事があっても油断する奴が負けるんじゃ。全員が嘘をつかない訳じゃないんじゃからな」
この人は本当に俺が作戦立てたとしても、全く予想外な事するから戦いにもなんないわ。こんなの、素人にどうしろって言うんだよ。全部見破って倒せってか?無茶言うなよ。
「へっ、ドルフよぉお前ダメだな。対人は俺の十八番だ任せときな!倒してやっから」
こういう奴に限ってダメなんだよ。よく分かんだね。
結果は...言う必要ないか。何通りも作戦立ててたみたいだけど、木の上から奇襲をかけられて瞬殺。
さっき俺に言ってたセリフ、全部カールに聞こえてたらしく、説教されてた。本当に懲りないよな。最初あった時はこんな奴だとは思ってなかったのに。
結局カールに触れられるまで2週間かかった。アルトは俺より4日早く触れられるようになって今は攻撃を1.2発は避けられるようになってた。流石は対人専門だよな。口だけにならなくて良かったなアルト。
また2.3週間ほど経った。
「山の頂上まで2往復して来い、それで今日は終わりだ」
「「少な!?」」
「なんだ、不満か?」
「い、いやいやとんでもない!今日もが....がんばろ〜!」
意味がわからない。なんだ今日の修行は、少なすぎだろ。今までだったら2往復どころじゃなく10以上は軽く超えてたぞ。
「なんかジジイおかしくないか?」
「お前、完全にジジイって呼び方定着してんな」
「いや、そこどうでもいいから。なんか隠してそうな気がすんだよ」
「隠すって何が?」
「昨日、別荘に連絡用の鳥が来たんだよ、お前と俺がいない時に」
「いない時に来たって何でわかるんだよ」
「お前いちいち細かいんだよ。話こじらせんな。」
「わかったわかった。続けて」
「ジジイがそいつから紙?を受け取った後今まで見たことないような顔してたんだよ。ていうか笑ってた。それも気持ち悪い感じのやつ」
「待って、今の気持ち悪い感じな所で全然わからなくなった。結局、どういうこと?」
今の説明でわかることなんてあるか?カールが変態だった以外の考えが出てこないわ。アルトは何が言いたい?確かにカールは厳格そのものみたいな顔しかしないけど。
「あのジジイは笑い慣れてないから、多分あれでも普通に笑ってたんだと思う。言うの忘れてたけど、カラキシ村から少し北に行くと大きい町がある。そこでは闘技会が行われる。ちょうどそのくらいの時期だし、もしかしたら.......」
「出られるかもしれないって?」
「つまりそういうこと!」
闘技会かぁ、修行の成果を見てみたい気もするけど、負けんの怖いなぁ。今まで勝ったことないから怖いわ。
「つーかその頭の回転を修行に活かせよ!カールとの戦いに活かせよ!間違ってんだろ使い所!」
「もういいだろ、そんなこと」
「さっさと終わらせようぜ、今日の修行」
「そうだな」
今日は少ししか動かなかったので午前中に終わった。戻ってきたらカールが本当に気持ち悪い顔をしていた。
「あの、さ、これ本当に笑ってんの?」
「いや、そんなこと聞かれてもよ、昨日はここまで気持ち悪くなかった...ぞ?」
明らかにおかしい。カールの顔がぼやけたような気持ち悪い顔になっている。これが笑った顔には到底見えない。
「さて、今日も修行は終わったようじゃな...ですね」
「「?」」
「どした?ジジイ?」
「何がじゃ?」
気のせいではない。確実に今カールは口調がおかしくなった。どうなってる?カールはどうしたんだ?
「い、いや何でもない」
「そうか、なら今日は帰れ」
「は?」
「お、おお、ちょっと間違えたわい。疲れてるみたいじゃ、少し寝てくる」
元気ありすぎのカールが何故か疲れたとか言いながら昼間なのに寝ると言っている。
いつものカールを知っている人なら気づくだろう。どう考えても意味不明なことを何度も言っている。流石のアルトもカールの変わりように驚いてる。
「あんなカール初めて見たよ」
「お、俺もだ」
「あれ、帰ってきた?寝るって言ってたのに」
不気味にニコニコしながらカールが歩いてくる。笑顔なのに普通に怖い。
「ドルフ、少しこっちに来なさい」
行きたくね〜勘弁してくれ。でも、行くけどね。殴られたくないし。
「「来たけど何すんの?」
カールはまだ笑っている。いつもは仁王立ちしてるのに何故か両腕を後ろで組んでいる。
「あ、あの〜カール?カールさん?どうしたん......」
話しかけてる途中でいきなりカールが後ろの手をドルフに向かって振った。手にはナイフが握られている。
「うわっ!ぶね!」
何とか躱すことができた。
危なかった。この修行やってなかったら絶対今ので死んでた。
だがそこはまだいい。何でカールが俺に斬りかかってきたか...だ。何でいきなり。
「あぶね!」
カールはまた斬りかかってきたが2回目だしいつものスピードよりかなり遅かったので避けることはできた。
「そっちがその気なら俺も戦うぞカール!おい!お前も来い!アルト!......アルト?って逃げやがったぁ!あの野郎!しょうがねぇ、よし、カール、修行の成果見せてやるぞ!」
「フッあなたが私に勝てますじゃね」
「知るか!」
ドルフは飛び出した。一直線にカールの元へと。右手を振りかぶって殴る.....かと思わせて、砂を目に投げた。
砂で目を潰した後そのまま後ろに回り込み後頭部へ回し蹴り。
カールがナイフを後ろに振って来たがいつもよりかなり遅いのでドルフは最低限の動きだけで避ける。カールの腕の引き戻しに合わせて懐に入り込み2発3発と顔を殴った。
どうだ?これくらいやれば倒したんじゃないか?攻撃自体入れるの初めてだからよくわからんけど。
「少しはやるようですじゃ。今度はこっちから行くのじゃです!」
さっきから口調がぐちゃぐちゃでわかりずらい。何で敬語が混ざってんだよ。
カールはナイフを振り回しながら突進してきた。振り回すとか意味がわからない。避けるのも簡単だし、何なんだ。......あ。
「フンッ!」
アルトが何故か戻ってきていて、カールを背後から頭に岩で殴りつけた。カールは頭を抑えながら倒れ込んだ。
「が!ぐおおお......ぅ.......」
カールは気絶したようだ。いつもより弱すぎるし、口調も変だし、いきなり攻撃してくるし、危ないから木にでも縛り付けとこう。
かなり今回は長くなってしまったので後半の方は無理に押し込みました。