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俺を勇者に仕立て上げたこの村を赦さない  作者: 月山
〜クアモス村から〜
8/9

〜これが霊峰なのか?〜

ウェルニノ山脈の山頂、とてつもないエネルギーが満ち溢れる空間であった。それはすべての生物に反応して魔力を纏わせるように注ぎ込む。低級の魔物や訓練の行っていない人間がこの地に足を踏み込めばそれだけで魔力を処理しきれずに体が爆発してしまうという事態に陥ることもある。実際短期間で成長して見せたリューヤの戦闘力のほとんどは物理に偏っており、魔法というカテゴリーで見れば今現在でも人並みであるのだ。先ほどの大出力の魔法はどんなギミックによるものかわからないが、霊峰の影響が大部分を占めるわけで、リューヤ自身の力ではない、そのため

「空気中の水よ一点にまとまれ」

水魔法の基礎、水を作り出す。注がれる魔法を無駄に浪費するように空中には巨大な水の塊が出現する。

「対象の周囲の温度を下げよ」

風魔法の応用、とは言っても温度の変化という非常に単純な魔法により水を凍らせる。

この工程を何度も繰り返し使っていくと、わずかずつではあるが、リューヤの魔力の器、すなわち魔力の絶対量が増えていった。そしてもう数千と繰り返す頃にはこの膨大な魔力を注がれたとしても体に異常がないレベルにまで成長した。

『意外ね…リューヤはもっと大雑把で適当な性格だと思ってたけど…』

「うちが農家のせいかな、地道な作業は好きなんだよ。ってかサーシャは全然平気みたいだな」

「世界の声が聞こえるんだもん、それにさっきので感覚は掴んだからね、魔力を体の外側で留めるのではなく受け流して山に返すイメージをすれば簡単よ、まぁぶきっちょなリューヤには無理だろうけどね」

とドヤ顔でリューヤを見るサーシャの表情は久しぶりに見た気がする明るい顔で、むかつきよりも微笑ましいと思ってしまったリューヤの負けだろう。その照れ隠しに、魔法で木々を切り倒し、火をつけて焚き火を行う頃には、いつの間にか狩りに出かけていた数匹でチームを組んだ10組前後の金色狼(アウルムヴォルフ)がいろんな魔物を捕まえてきており、そのすべてを火にかけようとしたリューヤをサーシャが止めた

「もう我慢ならない!いっつもいつも、丸焼き丸焼きって、もう少し食に対してこだわりを見せるっていうのがね」

サーシャは最初は怯え見ていた金色狼(アウルムヴォルフ)にぱっぱと指示を出すと、次はリューヤに魔法の練習という名目で高難度の錬金魔法クラスのことをやらせ始めた。精密さを要求される錬金魔法は当然のことながらリューヤには荷が重すぎることであり、石を変形させて鍋を作るつもりであったが、できたのは不格好な大きめの石の器といったところだ、しかめっ面をしたサーシャであるが、諦めの表情をしたのち石の器を鍋として使って、さっき金色狼(アウルムヴォルフ)にとりに行かせたたくさんの薬草をふんだんに使った肉野菜炒めのようなものを作り大きめの葉っぱに盛り付けて適当な切り株に乗せた。直径2m32cmある切り株の92%を埋める葉っぱの上に比喩表現ではなく山盛りに乗せられた肉野菜炒めからは、使われているものの素材を見れば、どうしてこんな食欲をそそるような香ばしい香りがするのかと疑問に思うだろう。しかし、リューヤは決して疑問に思わない。サーシャの料理センスはどういうわけが天才的なのだ。どんな材料であっても、その材料が不足していたとしても、ましてやここのように調味料というものがほとんどないという状況下であっても美味しいものが作れるのだ。そしてそのリューヤの認識は次の一言によってここにいる全員の認識となる。

「『『『「いただきます!」』』』」

一口食べ始めた瞬間から、皆の口から言葉が消える、言葉を発する隙間があるなら、目の前の食料を口にねじ込みたいからだ。魔物の肉はニアティガーの肉同様、美味なものが多いが、そのほとんどは脂だったりする、ゆえに毎日食べるにはこってりとしすぎており、飽きが生まれてしまう、しかしその脂っぽさを払拭するように爽やかなミントのような薬草やほんのりレモンのように香るものなどがベストなバランスで配合されており、高級料理店のような上品さを醸し出す。薬草と肉だけのはずなのに、しっかり塩味がするのは、調味料である塩を入れたわけではなく、特定の植物がその体内で保有する塩分を含んだ水を利用したからだろう、それによってその水分が蒸発する際に生まれる、甘味を含んだ香りもしっかり溶け込み、味に奥行きを作り出している。重さにして100kg以上あった肉野菜炒めもものの5分としない間に切り株ごと存在をなくしていた。ちなみに切り株を食べたのは、テイローだった。本人曰く、無意識だったそうだ。サーシャの料理を美味しそに食べるテイローを見ていた、ウェノフは少し悔しそうにしていたのをリューヤは見逃さなかった。


「はぁ…くったくった!さっすがサーシャだな、料理の腕で言えば誰にも勝てないだろ、いやぁ良い嫁になるな!」

と何とは無しに思ったことをいったリューヤは、それが地雷にも変わる自殺行為だとは気がついていない。しかし、それを野生の勘で敏感に感じ取ったテイローを含む金色狼(アウルムヴォルフ)達は、食後の運動だとか言って、四方八方に散っていった。彼らAランクという魔物にとっては、現在のサーシャやリューヤが魔法を撃ち合おうが、特に被害は受けないのだが、痴話喧嘩はなんとやらってことで、とばっちりを防ぐために皆避難したのだ。

「それって、どういう意味よ」

あえて地雷を浮き彫りにするサーシャも意図的ではない、サーシャもれっきとした思春期なのだ、同年代の男子にどう思われているのか気になってしまうのは、本能に近しい部分でもある。

「どういうって、そのまんまの意味だよ。サーシャみたいな料理の上手い女の子が嫁だったら、毎日美味しいものが食えるんだろうな。って思ってさ」

「何よ、それじゃあまるでご飯目当て見たいじゃない」

「でもさ、メシってのは一緒に食べる奴がいて、そいつの笑顔見ながら食うのが一番美味いんだよな。サーシャとならいつまでも笑ってメシを食っていられそうだ」


ボンっという擬音が出そうなほど、顔を朱に染めたサーシャはそっぽを向いて、座り込んだ。

「どうした?体温上がってるみたいだけど、体の調子悪いのか?」

リューヤはやはり鈍感だが、どれにツッコミをいれれるものがいない今、そのセリフはスルーされ、その日は眠りにつくまで2人がしゃべることはなかった。


リューヤはまたサーシャが起きる前に目を覚ました、前と違うのは、自然に起きたのではなく、起こされたという点だ。しかし起こした相手に見覚えがなかった。いや正確に言おう、リューヤの体をつつくリューヤの顔よりも大きな鼻の形は紛れもなくテイローのものなのだが大きさが、昨日最後に見たときの2.2倍になっていた。すなわち6mを超える巨体が目の前にあった。

「ふわぁ…これがこの山のエネルギーの力ってことか?昨日の魔法で感じ取ってはいたけど相当だな」

『ここが霊峰と呼ばれるだけはあるな…だが人間にとって巨大なエネルギーを宿す場所というのは、より強力な魔物を生み出す危険な場所でしかない。だがこの山にはそんな魔物ですら避ける地点が存在する。』

幾分かのぶとくなった声がテイローから発せられる言葉には、おそらく帝狼(エンペラーウルフ)としてそもそも持っている威厳のようなものが込められており、その圧力はリューヤに鳥肌を立たせるだけでなく、背中には冷たい汗をかかせた。それでもリューヤが平然を保って入られたのは、精神力がもともと強いのと、数日間ではあるものの、テイローという魔物を理解していたからだ。

「へぇ、そんな場所があるのか、それで、どうして俺に?まさか…行けっていうんじゃないだろうな?昨日の魔法リピートのおかげで、この地域ぐらいなら、平気になったけどさ、これ以上ってなると…」

リューヤは現在も肌で感じているあふれんばかりの魔力を、おそらく見えているであろうテイローにむけて手を広げて見せつけると、テイローはリューヤの何かを調べるように、目を細めた。

「リューヤよここに来る前の自身の魔力量を覚えているな?今のと比べどれだけ増えている?」

「ん?まぁ大体覚えてるけど…」

とリューヤは自身の体に意識を集中させる。リューヤの特技視野内数値化(エリアナンバー)は無意識であっても様々なことを数字に変換しリューヤの脳に返す力だ。しかし無意識下では自分が不要と思ったものを即座に切り捨て、脳に届けない情報も存在する。普段の生活においても魔法を重要視しないリューヤにとって自身の魔力量を見る機会などほとんどなく、時々自らの戦闘能力を数値化する際についで程度で見るぐらいだ。

「えっと…12万4750…!!!?なんだっこれ!!」

リューヤが驚いてのは当然だ、自身の魔力量はよくも悪くも平均値だったはずで、たとえエリグラスを食べた後でも少し増えたかなという程度であったが、今の数値はそのときの20倍を示していた。

『わかったかリューヤよ、この場所に限って言えば、お前はあのエリグラスという薬草を摂取したときと同じ状況にあると言える。ただし今回は体の傷ではなく、魔力という一点に絞られるがな。そしてお前はその急上昇に耐えられる特殊な人間だ。我はそんな人間がどこまで強くなれるのか見てみたいのだ。』

実際魔力というのはそんな簡単に上昇しない。てっきりリューヤも自身の魔力に興味を持っていなかったために、少しだけ上昇したためにここにいることが苦にならなくなったと思っていたのだが、実際には魔力の器が大幅に上昇したために出来た当然のことだったわけだ。しかし前に言った通り魔力の総量は上昇しにくい、世の中にはエリグラスのようなとんでもない力を秘めた薬草を食べることによって僅かな底上げは可能だが、自身の魔力総量に対して1割以上急激に増えるようなことがあれば、自身を構成していた魔力が一気に薄まってしまい、生命活動に異常をきたしてしまうのだ。しかしリューヤはその例外らしく、常識はずれな20倍という魔力総量の上昇に耐えて見せた。そのことを面白がったのかわからないが、テイローはより一層エネルギーの集まる地点…下っていくような形をしている洞窟へと案内した。

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