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俺を勇者に仕立て上げたこの村を赦さない  作者: 月山
〜クアモス村から〜
4/9

〜魔物なのか?〜

リューヤとサーシャは歩いていた。とにかく歩いていた。ひたすらに歩いていた。

「かれこれ2時間ってところか…」

リューヤは視界に映る数値から算出した時間から、村を出てからどれくらい時間が経っているのかを確認してため息をついた。ロージの家にあった地図を簡単に写してきたものと、リューヤの特技を併用すれば方向に迷うことはないが、現実問題的に一番重要なのが距離であった、もともと直線距離で120kmあると踏んではいて、それなりの覚悟を持っているつもりだったのだが全く景色が変わらないこのガヅイ草原に精神的に参ってしまいそうだった。

「でも、この草原ってたまに薬草とか生えているのよ、食品も少ししか持ってこれなかったから、現地調達しなきゃ!」

そういいながら手に薄桃色の花を実らせ、力強い緑の絵の具で染めたような葉のない茎だけの植物”回復至草(ヒールグラス)”が握られていた。

「お前何気(なにげ)(たくま)しいな。まぁでもそれには同意だ、俺も探しながら歩こう」

リューヤはずっと先の方ばかり見ていた視点を地面に移す。するとちょうど足元に数値的に食べることが出来て魔力を持った植物があった。

「あぁ…薬草とかわかんねぇけど多分これだな、ま、まだそこまで腹減ってないし、母さんに作ってもらった弁当もあるしな」

リューヤは肩から下げていた、バッグに薄い布を巻いてしまいこんだ。この魔法鞄(バッグ)はロージの家からパク…いや借りた魔道具(アイテム)であり、容量は見た目の数倍はある。また、収納したものは腐敗や劣化などがしにくく魔道具(アイテム)の中では人気で高価な代物だ。その中には、リューヤの母特製のおにぎりが10個と短剣と地図の写しそして野営セットだけが入っていた。しかしそこには先ほどからサーシャのとっている回復至草(ヒールグラス)がそのままどんどんと詰め込まれていった。

日が頂点を越して、さらに4時間ほど経過した時、リューヤとサーシャの目の前に初めての魔物が現れた。二人は以前にも魔物にあったことはあるが、それはお互いになんの力も持たないもっと幼い頃であり、当然戦闘などになるわけもなく、ティーガを含んだ3人におおきな傷を負わせることとなった。それ以降クアモス村の外に出ることをしなかった、2人は再度対面した虎のような魔物ニアティガーに一瞬だけ、後ろに下がってしまった。通常の生き物と魔物の違いは純粋に魔力を持っているかどうかということになる。しかし厳密に言えば魔力とはすべての生物が生来持っているもの、そのため、魔力を使って生きている存在を魔物という、つまり人間も分類的には魔物であるのだ。そして魔物には、この世界全体で定めた強さの基準が存在する。その基準というのは固体としての戦闘能力、保有する魔力量から見て決定される。そしてこのニアティガーと呼ばれる魔物は、最下位のDランク、そもそもこのガヅイ草原にはDランクの魔物がほとんどなので何も不思議なことはないのだが。しかし最下位であっても魔物には変わらず、野生の虎よりも数段強いのは、間違いなく相手が圧倒的な強者と認識しないかぎり、自らが逃げるという選択肢はなく、当然後ろに下がった敵に対して追撃をしないわけがない。そして戦闘において後ろに下がるという行為は決して間違った選択ではない、しかし時この場において自分よりも速い敵に対して行う行動としては間違いであった。

「サーシャ!」

過ちに先に気がついたリューヤがサーシャを突き飛ばす。直後ニアティガーに噛みつかれ鮮血が飛び散る。噛みちぎられなかったのは幸いだったが、明らかに動かすことのできない損傷と、苦痛に顔を歪める。空いている右腕で魔法鞄(バッグ)から短剣を取り出し斬りかかる、しかしさすがの反射速度で躱されるが、相手もビビってくれたのか、噛みつきを緩めてくれたおかげで飛び退く際に引きちぎられることはなかった。リューヤとニアティガーはにらみ合う、リューヤは左腕をまったく動かせないが、痛みを意識せず右腕だけで構えて見せる、対するニアティガーは無傷なのにもかかわらず攻めあぐねているのは、対峙している相手の力量を読み取った故に次撃を慎重に行動しなければ手痛い反撃を食らうと察知したからだ。

「リューヤ!!避けて!火を収束、飛べ!!”火玉(ファイアボール)”」

その言葉と視野に温度が上昇した数値を見て、とっさにしゃがみ込む、直後音速のような速度で通り過ぎる小さな火の玉。それは基本5大魔法、火を司る初級魔法が一つ火玉(ファイアボール)だ。初級魔法だが極めれば発動速度が速いため、侮ることのできない一撃となる。ましてや発動するための詠唱する言葉がほとんど決まっているため、他の要因で他者と差を作らなければならない、それは魔法量による魔法の大きさも然り、サーシャのように大きさをわざと極限まで小さくして速度特化にすることも重要だ。リューヤをスクリーンとした不意打ち、いくら獣を上回る反射速度を有していても音速を超える火玉(ファイアボール)を交わすことができず、額に直撃を食らってしまう、しかし射出速度を優先したために、頭を破壊するほどの威力は出ず、表面の毛が焦げる程度であったが、ちょくげきした衝撃まで殺せたわけもなく、ニアティガーが戦闘に意識を引き戻すために要したわずか1秒!そのわずかな時間ででリューヤの短剣はニアティガーの首を深々と切り裂いた。ニアティガーの瞳は一瞬鋭くなるが、あっという間に光を失い、崩れ落ちるように倒れ、血の海へと倒れ込んだ。それでもまだ生きているらしく血が流れるのは止まらず、全身に通っていた血が全部出たのではないかと思うほど血を出して初めてニアティガーの持っていた魔力が消失すなわち、死んだのだ。

「リューヤ、大丈夫!?」

「まぁな…ってか避けれなかったら俺、ハゲになってたんだが」

「避けれたんだからよかったじゃない、それよりもその腕よ」

戦闘中は意識をそらせる対象があったため、紛らわせていた痛みも、それがなくなれば耐え難い激痛がリューヤを襲う。それでもサーシャ(意中の女性)をまえに見苦しい真似をするわけにはいかず、魔法鞄(バッグ)から布に包まれた薬草を取り出し、そのまま飲み込んだ。するとリューヤの体内にある魔力量が急激に増大し、魔法の詠唱を行っていないのにもかかわらず、足元に魔法陣が出現し魔法により生じる光、”現象光”がリューヤの全身を包み左腕の怪我どころか、普段からなぜか痛かった箇所まで自分の体に受けていた痛みと呼べるもの全てが消失していた。さらに驚くことに増えた魔力量はそのままとなっていた。

「なんだこれ…回復至草(ヒールグラス)ってこんな劇的な効果があんのか?」

「しらないわよ、私もロージ村長に聞いてただけだけど…話を総合してみても軽度の擦過傷を自らの魔力を消費せずに回復させることができる薬草だということしか言っていなかったはずよ…まぁ不思議だけどしっかり治せたんだからよかったじゃない」


戦闘にかかった時間はわずかであっても、費やした精神力は結構大きく、二人はここで野宿をすることにした。魔法鞄(バッグ)からテントを取り出し組み立てる、サーシャも手伝おうとしたのだが、あまりにも手際よく素早く行うリューヤに隙を見出せず、ニアティガーを(さば)き始めた。構造は虎と同じ、様々な生き物を狩って捌き、旅商人に売ってわずかなお金を稼いでいたクアモス村で生活しているレバ自然と身につく技術であり、無論それはサーシャも例外ではなく、ニアティガーはあっという間に部位ごとにわけられていった。近くに水場がありこれ幸いにと利用する。当然汚染されていたり有害な可能性もあるため、水と土を司る複合魔法の中では覚えているものも多い”浄化”でほぼ完全な真水へと変えた。テントを完成させ布を束ねて座布団代わりにし、目の前で焚いた火にニアティガーの肉を放り込む、当然全部たべれるわけもないため、余る分は全て魔法鞄(バッグ)の中に詰め込んだ。

「なぁ…魔物って初めて食った気がするが」

「うん…」

リューヤとサーシャは隣でくっつくように座っているがその意識は互いに向いていない、サーシャはともかくリューヤは好きな女性が隣にいるのにもかかわらず、口に運ぶ手が止められない。

「めちゃくちゃうまい!!」

通常虎の肉は、筋っぽくて食べるのに適してはいない、しかしニアティガーは虎と似て非なるもの、その肉は柔らかく芳醇(ほうじゅん)好き嫌いはあるもののクセのある味はどんな肉にも真似ができない奥深さを出していた。野菜の代わりと入れた回復至草(ヒールグラス)もちょうどいいアクセントとなり食が進む。

「さっき食べたのよりちょっと味が違う気がするが、これもうまいな」

「まさか、魔物がここまで美味しかったなんて…」

これは世界共通の認識なのだが、魔物のほとんどは美味いのだ。魔力を使っている影響なのか、肉は柔らかく、そこから溢れる肉汁も、血の一滴さえ美食家の舌をうならせるほど美味いのだ。しかし、いくら美味くても魔物は魔物、たかが村が手を出すにはあまりにリスキーなため、今まで食べる機会がなかった2人は、いくら保存用を取っていたとはいえ2人前よりも多く調理していた飯をほんの半刻ほどで平らげてしまった。

「うわーくったくった!」

リューヤがお腹を叩きながらそう言うと、サーシャはたべ過ぎてしゃべることすらできないのか、それとも未だに肉の味を思い出しているのか黙ったまま火を見つめ時折ヨダレをぬぐっていた。そしてしばらくすると周囲の音が気になりだした、当然このガヅイ草原に身を隠せる場所はなく闇夜にいくつもの瞳が輝いていた、しかしそれらは襲ってくる様子はなく、ただ見に来たって感じだった。

「襲ってこないのはたぶん、ニアティガーの肉を食ってたからな、あいつDランクっていってもCよりの強い種族だし…ってそれニアティガーの骨か?」

焚いている火のあかりから隠れるようにまとめておいてある、白い山を見てリューヤは尋ねる。

「そうだけど…どうしたの?」

サーシャは立ち上がって骨の山に近づくリューヤを目で追いながら聞き返すと、リューヤは足だか腕だかわからないが長くて太い骨を一本取り出し、さらにほかの小さな骨を幾つか拾うともともと座っていた場所に戻り、再び胡座(あぐら)をかいてすわった。

「確か、魔物から得られる素材っていろんな武器にできるって聞いたことがあるんだ、こんな骨なんかも削り出せば武器として使えるのかなって思ってさ」

骨と骨をこすり合わせながら形を整えていく、火のそばで乾かしていたニアティガーの毛皮を少しだけ切り取って柄になる部分に巻きつけ、紐で縛り付ける。そうやってできた骨の刀の切れ味はなかなかで、丈夫さもロージからもらった短剣よりもいいため、先ほどの戦闘で首の肉だけでなく骨にまで剣先が達していたら折れていたかもしれないと思いながら、調節を繰り返し満足のできる出来栄えとなるころには、隣にいたサーシャは寝息を立てて眠っており、さすがに同じテントの中で眠るわけにはいかないリューヤは、いつでも対処できるように焚き火の近くで短剣を構えた状態で眠りについた。


夜明けと同時に、リューヤは目を覚ました。いくら怠けグセがあるといっても、朝早く起きることに苦痛を感じないのは農家の子供だからなのだろうか。近くの水場には野生の獣が敵対もせずに仲良く使っているのを見て、少し和みつつ、自身も体をぬぐったり顔を洗ったりする。一瞬怯えたようだった獣たちも害意がないとみると、そのまま水浴びを再開したり、リューヤに寄ってくるものまでいた。全裸のままリューヤは獣たちと戯れていると、その親や群れなんかが近づいてきたが、それに対して敵対心など見せないリューヤに襲い掛かるようなものもおらず、服なんかが乾くまでのあいだ動物たちと追いかけっこなんかしていた。

がさっと音がする、その音を数値として認識できるリューヤもそもそも鋭敏な五感を持つ獣たちも揃って音の方へ振り向く

「あ…り、リューヤおはよ」

障害物のない場所ゆえに割と離れた位置にいるサーシャがリューヤを見つけられてのは当然のことであった

「おう、サーシャ!おは…あ」

サーシャの視線を追っていくと、そこはリューヤの股間であり、そこに存在するは男性の象徴であり、他人様(ひとさま)の前にぶら下げていいものではないし、ましてや意中の女性に見せるのには段階的に早すぎる。ゆえに取れる行動は互いに一つであり、リューヤは水中に潜り込み、サーシャはすぐに振り返った。

「ちょっと待ってろ」


日光が直線的にあたるため、わずか数分でリューヤの服は乾いており、すでにリューヤは着替えを完了させ、逆にサーシャが顔を洗ったり髪の毛を整えたりしていた。さすがに服は全部脱がず、胸や腰には布が当てられていた。しかしそれでも直視するには勇気がなく、あったとしてもサーシャの反感を買うことは間違いないので、おとなしく子狐を抱っこして撫でていた。時刻は8時となるころにはテントも片付け終え歩き始めることにした。が…リューヤの足元に擦り寄る巨体…もとい狼がいた。歩こうとすると体をくっつけてきてそれを阻害する

「ちょ、俺たちは向かうところがあるんだ、悪いけど」

「ねぇ、リューヤその子…乗れっていってる気がするんだけど」

そうなのか?と思いながら2m31cmの巨体を誇る狼はリューヤと視線を合わせると尻尾を大きく振りながらかがんだ。


「ひゃっほおおおおおおいい!!」

「きゃあああああああ!」


リューヤは歓喜の声をあげて、サーシャは声が枯れるかのような叫び声を上げる。巨体の狼は魔物であると気づいたのは1時間ほど経ってからであった。数時間経過しあと同じくらい走れば、森に到着するところで休憩を取っていた、ちなみにサーシャは途中で意識を手放しており、今ではぐったりとリューヤのかたに頭を預けていた

「普通魔物ってのは、人間に敵対するものなんだけどな…それに初めて見た魔物だけど…明らかにあのニアティガーより強いよな?」

『当然であろう、我が名は帝狼(エンペラーウルフ)世界に二つと無い種族の名だ、我を呼びたいならば気軽にテイローとでも呼んでくれ。そして人間の間に存在するランクで表すならばAランクであろうな、がっはっはっはっは!』

「ちょ!は?Aランク?なんでそんなのがこのガヅイ草原にっていうかなんで俺ら乗せてんだよ!?ってかしゃべれんの?」

『がっはっはっは!全くよく質問がたくさん出てくる青年だな、質問に答えるのだ、そうだな主の名を教えてくれ』

「え…俺はリューヤ、そしてこいつが俺の幼馴染のサーシャだ」

『そうか、リューヤというのか。それではリューヤよこれは我の気まぐれだ、気にせず我に乗っていくと良い。ここにいる理由は我の誇りに関わるからな聞かないでくれると助かる。そしてリューヤは魔物を見るのは初めてか?』

「いや、昔に一度と昨日ニアティガーとで2回だな…それでも話しかけてくるやつなんかいなかったが」

『そうか、確かに魔力が少ない者に魔力による伝達ができないのは仕方のないことだ。これにはそれなりの知能と魔力が必要だからな。人間も似たようなことをしているだろう?』

なるほどな、とリューヤは納得した。確かにこの声の聞こえ方は念話のそれとよく似ている。いろいろと思うところはあるのだが、敵意がないのは既知のことでありあまりに距離のあるこのガヅイ草原でこれだけの速度を出せる足があるのは助かるので、このままテイローに乗っていくことにした。


テイローが走っている最中にサーシャは目を覚ましたが、何も話すことなくリューヤの腰に必死にしがみつくだけだった。サーシャの控えめな胸では感触を楽しむこともできないが、正直それ以上にくっついていることに意味があるのだと言わんばかりに、表情は緩んでいた。もうすでにニアティガーの匂いはついていないが、それ以上の魔物、テイローの上に乗っているのだから、他の魔物が近づくわけもなく、その足を止める者はなにもなかった。


そして夕方になる手前、予定よりもだいぶ早くリルロ大森林に辿りついた。まさに大森林の名にふさわしく巨大な壁のように大小様々な木々が生え、いままでに見ない、リューヤの背丈くらいある草花が生い茂っていた。

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