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俺を勇者に仕立て上げたこの村を赦さない  作者: 月山
〜クアモス村から〜
1/9

〜俺は勇者なのか?〜

「リューヤよ、おぬしは勇者らしいのだ」



時は遡り30分前、いつも通り丘の上から海を眺めてぼーっとしていた少年がいた。その少年の名はクズリ・リューヤ、濃い紺色の髪を寝起き同然にボサボサにしており、水色の空を切り取ったような美しい瞳は、見つめたものすべてを睨みつけるような、目つきの悪さによって台無し。眉間によっている(しわ)もそれに拍車をかけている。そんな彼はこの世界最大の大陸マグナ大陸の最南端に位置するクアモス村で両親とともに農作業を営んでいる。いまは収穫期をすぎて種植えをするまでの期間のため、ほとんど仕事がなく、昼過ぎは暇を持て余す時間があった。ゆえに怠け癖を持つリューヤは日課だと言わんばかりにこの丘に訪れ、ただぼーっと海を眺めているのだ。しかし今日は天候が悪く曇り空であったため、いつものような気持ちの良い風は吹いてこず、わずかに肌寒さを感じ家に戻ろうとした時リューヤは村に違和感を抱いた。


「今日はやけに静かだな…」


いつもはこの狭いクアモス村はたった30人ほどしかいないにもかかわらず、活気にあふれ日が出ている間は常に賑わっていた。そのためこの静けさは異常だと言わざるを得なかった。波の音、木々が揺れ木の葉同士がこすれ合う音だけがやけにはっきり聞こえる。そんな時突然魔法による通信、所謂(いわゆる)念話(ねんわ)がつながった。この魔法は魔法使いならば誰でも使うことができる基本的な魔法であるが、音質やラグなんかは熟練度や魔力量で差が生じる。これだけスムーズな念話が行える人物をリューヤは二人知っている、村長であるイガナ・ロージと…

「なんでしょう、村長」

念話とはほとんど強制的で相応の魔法の熟練度がなければ拒むことはできない。ゆえにつながった段階で応答しなければならず、リューヤはもう一人の候補を頭から消し去り、対応した。

「リューヤよいま暇であろう?」

「まぁ、その通りですが、その言い方ですと俺がいつも暇みたいじゃないですか!」

「その通りじゃろ…まぁ細かいことは気にするでない。おぬしに伝えなければならいことがある。いますぐにわしの家まで来るのじゃ。」

「わっかりましたよ」

リューヤがそう答えると、ロージは念話を終了させた。これがこの魔法の本質だろうな、とリューヤは感じていた。本来この魔法は上層部から下っ端に対する一方的な命令を下すために存在する魔法だと、そう結論づけた頃合いで、村長の家にたどり着いた。村長の家といっても周囲の村民の家と構造は同じで藁でできており、地面はそのままで布だけが敷いてあるといった、非常に貧相な造りであった。唯一違う点といえば、たった10㎡広いだけだろう。扉もないため、ノックすることができず、入り口の前で声を張るという行動をとるしかない。

「ロージ村長!呼ばれたんで来ました!」

とあからさまに態々(わざわざ)来てやったと言わんばかりの態度で声を上げると

「おお、早かったの〜構わん入れ」

すぐに返事があり、その言葉に従い家の中に入る。藁の中ということもあって、わりと匂いはいい感じだ。それにリューヤの家に敷いてある布よりも少し高価な物らしく結構肌触りがいい。そして村長の前であるというのに、リューヤはどかっと胡座(あぐら)をかいて座った。

「まったくおぬしも変わらんの…いやまだ敬語を使おうと心がけただけでも進歩といったところかの〜同い年のサーシャはあんなに素直だというのに」

目の前のヒゲやら眉毛やらが真っ白で目も口も毛で覆われているのにもかかわらず、頭だけは素肌(さら)し放題で、外に出るときは帽子を被らなければならないこの男、イガナ・ロージはその毛のない頭をぽりぽり掻いて悩ましげな表情を…多分しているんだと思う。

「サーシャはサーシャ、俺は俺ですよ。それで?突然俺のことを呼び出して何の用なんですか?わりと俺だって忙しいんですよ」

「なにが忙しんだかしらんがの、まぁよい…それで本題に入るのじゃが」

突然ロージの声に真剣味が増す。外の天気はまだ変わらないのだが、わりと奥の方に二人は座っているため、陽の光が届かず、お昼過ぎというこの時間帯でも蝋燭の灯りに頼らざるを得ない、それゆえにロージの顔…というか毛が生み出す影が、僅かに揺れる。


「リューヤよ、おぬしは勇者らしいのだ」


「え?」


突然のことにリューヤは敬語を忘れて唖然とした顔でロージに問い返す。

「勇者って何ですか?」

「なんじゃおぬし勇者を知らんのか?勇者というのはじゃな、時は10万年前にさかのぼ」

「勇者という存在もこの世界での役割も知っています。そうではなく、なぜ俺が勇者らしいんですか?」

ロージはふざける時は全力でふざける人間だということは、リューヤも熟知している。その反面、真剣な時はとことん真剣であることも知っていた。ゆえに、ロージの言葉は真実であり、嘘、偽りは存在しないと。だがそれでも理解ができなかった。自分が勇者であると。


「今朝、祈り姫である、サザミ・サーシャに”神の御告げ”があったそうでの。その内容というのがな『クアモス村のクズリ・リューヤは勇者であり、世界の救世主になるであろう』というものだったのじゃ。」


サザミ・サーシャ、リューヤと同じ12歳でありながら、祈り姫と呼ばれる役職に就いている。最早(もはや)都会の方では存在自体が都市伝説化している役職であるが、クアモス村のような田舎であるならば、今なお代々継がれる重要な役職の一つである。祈り姫というのは一言で言えば神の代弁者だ。神からの言葉を聞き、それを周囲に伝える。その時に扱われる言葉を”神の御告げ”と呼ばれ、その発言力はこの村において、村長よりも重要となっている。


「なる…ほど。まぁ納得しがたいですが、信じることにします。他ならぬサーシャの言葉…いえ神の御言葉ですからね。」

「そうか、それではの。マクシム王国にはすでに伝達済みゆえ10日ほどすれば確認者が来るじゃろうて。」

「確認者?なにを確認しにくるんですか」

「君が本当に勇者かどうかを、だよ」

少し安堵した表情(?)を見せるロージに対して再度質問をするリューヤだったが、その答えを返したのはロージではなかった。声のした方向を見ると、そこには縦にも横にも大きく僅かに青く輝く甲冑を身にまとい、腰には鞘に収められた剣が布で巻かれ固定されていた。そしてその右手には頭部分の甲冑を腰と挟むような形で抱えており、視線を上にあげれば少し首を痛めそうな位置に、いわゆる堀の深いイケメン的な顔と無駄にごわついた黒い毛髪がそこにあった。

「誰かね?ノックもなしにワシの家に入って来るとは無礼ではないかの?」

ノックってなんだろう、っと思いながらも言葉には出さず、リューヤはじっと青甲冑の男を睨むように見つめていた。身長は178.5センチ、リューヤよりも30センチ近く差がある。いわずもがだが当然小さいのはリューヤの方だ。

「それは失礼した。だが我は、マクシム王国序列10位の実力を誇る3人居る軍隊長の1人、ジラン・ゲルカと申す、以後お見知り置きしておいた方がいい、いずれ世に広く通る名だ。我に直接会ったとなれば、一躍人気者になれる日もこよう」

どんだけ自信家(ナルシスト)なんだよ、しかしマクシム王国の軍隊長様か。面倒な奴が来たもんだ

「これはこれは、申し訳ございませんの〜なにぶん田舎者ゆえ、よもやこんなに早く来ていただけるなど思いもよりませんで、ご無礼を御赦しください。」

「構わぬよ、我は心の広き者ゆえ、些細なことは気にせん。そうか、君たちは見たことが無いのだな、超高度にして複雑なAランクの転移魔法」

わざとらしい演技でもって答えたロージに対し、そんなのを微塵も気づかなかった様子のゲルカは得意げに踏ん反り返っていた。


「仕方あるまい、特別に見せてあげよう。まぁ転移魔法というのは多大な魔力を使うのでな小さな物となるが、そうだな…この腕輪を君の腕に移してあげよう」


ゲルカは自身の左手首に通してあった、銀色に輝く腕輪を人差し指で示しながら、小さく呟く。おそらく詠唱を聞かれないようにするための工作なのだろう、当然の事と言える。魔法にとって重要なのはこの詠唱なのだから。いかに早く、いかに正しく、構築し発動させるかが魔法を使う上で重要で、詠唱というのは言ってしまえば、事象の上書きを言葉で伝えること。いかに省略して正しく伝えられるかが鍵であり、聞き手であるのは神様らしいが、そいつが結構いい加減で曖昧に言ってしまえばそれなりに適当に効果が発動してしまうのだ。つまり、省略して言って正確に発動したならば以降もそれは使用可能であり、それを売り出せば割と大金を稼げるらしい。だがほとんどは秘密にする。当然だろう、戦いにおいては、それだけで奥義になり得るのだから。しかし、リューヤの前で使っては小声で言おうが口元を隠そうが意味が無いのだ、|言葉を発さなければ発動しない《・・・・・・・・・・・・・・》それゆえにリューヤには視えてしまうのだから。


ゲルカの詠唱が終わり、魔法である証拠としてゲルカの腕輪を中心に魔法陣が展開され、その直後リューヤの左手首にも同じ魔法陣が出現し先ほどゲルカの手首から消えた腕輪がリューヤの手首に出現した。


「おお!素晴らしい魔法じゃ、わしも少々魔法を(たしな)んでおりますが、そこまで美しく転移を行うことなど出来ないのお」

「そうであろう、そうであろう。」

得意げに笑っているが、ロージの言葉に違和感があった。美しく転移を行えない、ということは転移魔法を扱えるのだろう。つまりゲルカがすぐに来れた理由もわかった筈だ、しかしカマをかけたのだ。本当にマクシム王国が寄越した確認者なのかどうかを、それを感づいても言わなかったのは、ロージの顔を立てるわけでも、嬉しそうに笑うゲルカに水を差すのを躊躇(ためら)ったわけでもなかった。


ただ面倒だったからだ。


「俺は、田舎者だ高貴なゲルカ様と違って教育というものをまともに受けていません、礼を知らないことが多々あります。申し訳ございません。」

「よい、よい、固くなるでない。我は器の大きな男だからな」

大きいのはその脂肪がついた腹なのではないかと、リューヤの思考に(よぎ)ってしまったが、言葉に出すのは自重する。

「それで、訪ねたいのだが、ゲルカ様は確認者なのでしょう?」

「そうだ、我は国王の命に従い、君が本当の勇者かどうかを確認しに来た。最近勇者と偽る者が出始めてのきてな。そのために確認が必要となったのだ。そして確認方法は我に任されておる。よって我と戦ってもらうぞ」

立ち上がって自分と戦えといったゲルカは、態度の大きさとともに体から放たれる圧迫感は相当で戦闘経験の無いリューヤにとってはそれだけで腰が抜けそうになる程の恐怖感を感じていた。それでも立ち上がり、向かい会えたのは、リューヤが勇者だと言ったのがサーシャだったからだ。

「軍隊長様と戦うなど無謀なこと、俺の流儀に反しますが、サーシャが言ったことを嘘にするわけにはいきませんので、俺は剣を取りましょう」

その言葉にゲルカはニヤリと歯を剥き出しにする。

「うむ、戦う理由などどうでもよい、どうせ我に勝つことなど不可能なのだ。ゆえに我が君の実力を見て勇者に価すると判断した時点で国に、本物の勇者であったと伝えよう。」


とてつもなく自身過剰なゲルカに思うところはあるが、それを裏付けるほどの訓練と実践を行ってきたのだろう。それに健闘すれば良い、倒す必要が無い、つまり殺し合いという非常に面倒なことは(さけ)られたのだ。


「それでは、ゲルカ様こちらへ。戦闘に適した広き場所へと案内いたします」



クアモス村から少しだけ北に移動すると、そこはだだっ広い草原その名も”ガヅイ草原”と呼ばれ、このマグナ大陸の外周にそって存在しこの世界最大の草原である。確かに試合をするのであれば、この近辺では最も適した場所だろう。そしてリューヤとゲルカが向かいあっており、その中心にロージが居る。そしてその三人を少し離れて囲うように、2人以外のクアモス村の村人総勢32人…いや31人がそれぞれがそれぞれの思惑をもった表情で見つめていた。その中にサーシャが居る。いつも通り淡い赤の髪を両サイドで結ったツインテールを腰ぐらいまで流し、服装も白を基調とし、所々髪の毛よりも赤い、炎のようなラインがところどころに入った服を着ている。確か巫女服といったか。いつもは元気ハツラツとしているが今日は、すごく不安そうな顔をしていた。

その表情を見て、リューヤは少しだけ顔をしかめた。

「それじゃあ始めるとするか」

ゲルカがそう言い、リューヤが答えるように頷くと、ゲルカはなぜか鎧を脱ぎ出した。

「ちょ、ちょっとすみません!なぜ鎧を脱いでるんです!?」

たまらず叫んでしまう。

「当然だ、勇者といえど子供を相手に全身装備で戦うなど、大人気(おとなげ)ないであろう。それは我の流儀に反するのでな。」

そう言うと剣を鞘ごと手に持ち、半袖半ズボンというどこぞのガキ大将か!と突っ込みたくなるような姿となった。

「ところで俺は武器をどうすればいい?」

リューヤはロージに向かって尋ねると、ロージはヒゲのなかから刃渡(はわたり)が30センチほどしかない短剣が抜き身で出てきた。いや…もう突っ込むまい、と心に強く言い聞かせた。

「お待たせしましたね、それじゃあお手柔らかに」

「当然だ、どんと胸を借りるつもりでくると…」

リューヤが短剣を構え、試合の準備が完了した合図を送ると、ゲルカは持っていた剣の鞘を雑に抜き捨てた、


その瞬間、一気に雰囲気が変わった。ゲルカの体からは何かが立ち込めており、体を囲うように陽炎(かげろう)のようなものが見える。半袖半ズボンの体から膨張した筋肉がわかる、もともとでかい体は更に大きくなる。


「はっはっは!!!クズリ・リューヤ!このゲルカ様が直々に試してやることを心のそこから喜ぶがいい!!」


「え?…ゲルカ…さん?」


前の作品〜自殺転生〜が終わってすぐに書き始めた作品です!

前の作品ではできなかったことやり残したこと、失敗したことを踏まえて作っていきたと思っています。

よろしければBM、一文でもいいので感想などいただけますと嬉しいです。


更新はちょっとゆっくりめで2日に1回を予定しております。

少しでも皆様の時間を頂いた価値がある作品にしていきたと思っておりますのでよろしくお願いします。


月山



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