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その1 いざキャラメイク

セイジ(ハードボイルド(笑)に生きよう主人公)がやってたゲームのお話が書きたくて書きたくて……。主人公はセイジじゃないけどね。

 じりじりと大地が揺らめく。僅かにしか吹かない風がもどかしい。しかし、草は青々と心地よさそうに踊っていた。そこに三つの人影と、一つの巨体がいた。


「見ない敵ですねぃ。大分先で見かけるものですが、どうしましょう?」


 熱気を振り払うような咆哮をBGMにし、のほほんと言葉を紡ぐものがいた。細長の目が印象的な美人だ。髪の色が黄味がかった明るい小麦色なため、どこか狐を彷彿とさせる。


「私ならまず逃げる。一番楽なのは死に戻りだが、パーティとして考えるなら……期待の新人(ルーキー)に丸投げだな」


 狐のような人物に答えたのは壮年の男性だ。無造作に括られた枯れ葉色の髪とは対照的に、顎髭はきっちりと整えられている。和服のような衣装をした狐のような人物に対して、この男性の格好を例えるならば貴族だ。あまりにもちぐはぐな組み合わせといえるだろう。


「いや、ちょっと待て! 丸投げってなんだよ。手伝えよ! ってかヒルネスキー、お前オレが期待の新人(ルーキー)って呼ばれる意味知らずに使ってるだろーが」


 最後に、あちこちに跳ねた朱色の髪が特徴の青年が巨体の攻撃を躱しながら怒鳴った。この彼こそが、この物語の主人公である。





 ある技術が法整備され一般化したことにより、様々な娯楽が我先にと取り入れんとした。その恩恵を受けることができる条件、そのうちの一つが『満十五歳以上』である。


『ようこそ、リュエンドクライムへ。あなたを……待っていました』


 複雑な模様が彫られた白い柱が並び、その中央に座する女性が歓迎の言葉を発した。その場面を端的に表すならば、『神殿』と『女神』であろうか。これは、このゲーム――ホワイトドラゴンズという――のメニュー画面に相当するものだ。コントローラーを持ち、項目を選ぶ時代はもう終わったのだと言わんばかりの光景がそこにはあった。

 ある技術、それはバーチャルリアリティー技術と呼ばれている。現実ではない、しかしあたかも現実であるかのように展開され、見ることも、触ることも出来るようになったのだ。

 あまりにも現実に近いものが作成できるようになってしまった弊害というものがある。現実と区別がつくようにという親切心から、五感のうち一部は態と未対応、あるいはニセモノらしい表現に変えている。それでも体感できるというのが良いのだろうか。この技術で作られたゲームは人々をワクワクさせるには充分であった。


「うわ! 景色すっげぇ」


 今日初めて、このバーチャルリアリティー技術で作られた世界を体験するこの青年もまた、例外ではない。しかし、まだメニュー画面なのだ。


『新しく、この世界リュエンドクライムへ降り立とうとする戦士よ、あなたの望む姿を与えましょう』


 忙しなく辺りを見渡す少年を気にもかけずに、神殿の中央にいた女性が話を進める。女性が手を一回、叩くのを合図として景色が崩れ落ちるように分解されていく。そして真っ白な空間が青年の目の前に広がった。少年が女神のいた場所に顔を向けると、動かない一人の男性と端末があった。キャラクターメイク、青年の分身となるキャラクター、アバターの姿を作成するのだ。

 このキャラクターメイク、ホワイトドラゴンズというゲームの肝ともいえるシステムである。バーチャルリアリティー技術を使用したゲームの大半が、プレイヤーのリアルの姿からほとんど変更できなかったのに対し、体格も、性別も思うが儘となっていた。惜しむらくは種族が『異界種』と呼ばれるもの固定だということか。人外と呼べる物体まで作成出来るため、その見た目にあった種族の名前が欲しいと願う者もいただろう。

 青年は時間をかけ、理想のキャラクターを作成した。現実ではどんなに筋トレしても筋肉がつかなかったため、目視でわかる程度の筋肉をつけた。マッチョと呼ぶには厚みが足りないが、細マッチョと呼ぶには少々つき過ぎだ。顔立ちは割と整ったものになった。調整がうまくいかずシステム任せにしたからだ。

 青年の見た目が確定したことにより、青年は神殿へと戻ってきていた。姿は作成したばかりのキャラクターのものだ。


『戦いに秀でた加護をあなたに与えます。ここからはわたくしのサポートを務めるこの妖精に聞きなさい』


『それでは、Mジョブを選択してください』


 女性が手を叩くと半透明の武器を持った人々が現れる。女性と手のひらサイズの妖精と呼ばれた小人に従い、青年はジョブを決めるべく半透明の人々の近くへ歩き出した。

 Mジョブとは、メインジョブの略。ジョブとは簡単に言えば戦い方、だろうか。剣士を選べば剣を使うキャラクターになり、魔法士を選べば魔法を使うキャラクターになる。青年は迷うこともなく一人の半透明な男性の所に立った。その男性は身の丈と変わらぬ大きさの剣を担いでいた。


『Mジョブ:重剣士にしますか?』


「はい」


『Mジョブ:重剣士に設定しました。Sジョブを選択してください』


 Sジョブとはサブジョブの略である。ジョブを決めると、装備できる武器と、ステータスに影響が出るのだが、Sジョブはその補正が少なめとなっている。Mジョブの長所を伸ばしたり、逆に短所を補ったりできるからか、Mジョブほど簡単に決められないようで青年は辺りを行ったり来たりしていた。


「あーもう決めた! 火力第一、火力最高」


『Sジョブ:斧戦士にしますか?』


「はいっ!」


『Sジョブ:斧戦士に設定しました』


 ジョブの選択が終わったため、半透明の人たちは消えていった。しかし妖精は消えず、青年の周りを一周してから再び口を開いた。


『スキルを振ってください。残りSP:20』


 妖精が青年の後ろに移動したため、青年も振り返った。そこにはキャラクターを作成したものと同じ形の端末があり、ステータスが表示されていた。


――――――――――――――――

ステータス | スキル・称号

――――――――――――――――

Mジョブ:重剣士

Sジョブ:斧戦士

レベル:1

体力  :★★★☆☆

魔力  :★☆☆☆☆

腕力  :★★★★☆

器用さ :★★☆☆☆

素早さ :★★☆☆☆

守備  :★★☆☆☆

魔力効率:★★★☆☆

――――――――――――――――


「ステータスに振れってことかと思ったけど、スキルってタブがあるな」


 ぽちっとなという独り言と共に、青年が『スキル・称号』と書かれている場所を押すと画面が切り替わった。


――――――――――――――――

■重武器共通

『アクティブ:振り落とし』SP:10

『アクティブ:一刀両断』SP:15

『パッシブ:ノックバック軽減』SP:10


■斬撃武器

『アクティブ:薙ぎ払い』SP:10

『アクティブ:2連斬』SP:15

『アクティブ:回転斬』SP:20

『アクティブ:溜め払い』SP:15

『パッシブ:武器払い』SP:10


■打撃武器

『アクティブ:叩き潰し』SP:10

……


――――――――――――――――


 どうやら、青年のジョブにあったスキルと呼ばれるものを習得できる画面のようだ。スキルに対する説明は妖精や女性はしなかったが、青年は他のゲームのものと大して変わらないだろうと判断し特に確認はしなかった。スキルの『アクティブ:一刀両断』と、ステータスの腕力に振って完了とした。


『アバターのステータス、レベルアップ後のSPの振り分けはギルド内の端末で行うことができます』


 このゲームの特徴として、不親切さというのがよくあげられる。通常のゲームならば、何らかの手段でメニューを開き作業ができるのだが、このホワイトドラゴンズにはない。ステータスを見るならば端末での操作、ログアウトするなら専用の道具を使用する必要があるのだ。この不便さが、現実っぽさがあってよいと好意的にとるプレイヤーもいるようだ。


『最後に、名前を入力してください』


 妖精の言葉に青年はついにこの時が来たと言わんばかりに力んだ。その名前を付けるのを見越してキャラクターを作成したのだ。


「俺は……俺の名前は、ヴァーミリオンだ!」


『その名前は既に使用されています。他の名前を入力してください』


「えー……」


 青年はがっくりと肩を落とした。台無しである。

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