無敵の要塞、現る!!
──要塞地下の隠し部屋。
入口には『松山キョウヘイ』と書かれた表札が書かれていた。
立花が握りこぶしでドアを破壊すると、そこには冴えない男がディスプレイの前でブツブツ言いながら気持ち悪い笑みを浮かべていた……。
「おいキサマ。カレンダーを見ろ。今は何年何月何日だ?」
小汚い男の胸倉を掴みながら立花が言った。
「ちょっ!? おたくどこから入ってきたんっスか!」
「あ゛あ゛ん? 粉々されたいのかテメェ! 今は何年何月何日だ!?」
「ひぃっ! ……にっ、2019年5月23日であります」
「そうだ。前回キサマが投稿したのはほぼ2年前だ」
「はぇー……もう2年かぁ」
「舐めてんのかゴラァ!!」
「ひっ! ごめんなさいっ!」
「キサマ1話の冒頭でなんて書いた!?」
「お、覚えとらんと…です」
「読め! キサマが書いた文章だ」
「う……(もーなんなんだよぅこの人)」
「早く読め!!」
「はい……。『プロットも何もありません。何も考えずに好き放題書きたくなったので、期待しないでください。た れ な が し ま す!』」
「なーにが『た れ な が し ま す!』だぁ? キサマ!! 2年も連載放置して何をしていた!! 便秘か!?」
「い、いやだって、忙しいもん。それにほら、別の作品でブクマいっぱいとれちゃったし……」
「知るか! ぶん殴るぞ!!」
ベキッ!!
「ふぎっ! い、痛いですってば! もーやめてくださいよぉ……」
「うるさい!! いいか! 『生意気に中学生が少しずつ女になってしまったせいで、ギスギスした恋模様の話』とか、『離島で生まれ育った純粋無垢な世間知らずの病弱少女が健気にネットゲームにチャレンジする話』とか、そんな頭のおかしい話などに需要など無い!! つまり頭のおかしいキサマがいくら必死に書き続けてもブクマなど増えんのだ!!」
「い、いや、確かにブクマは少ないかもしれないけど、熱心に読んでくださる読者の皆様がいますし……」
「そんなもんは捨てろ!」
「ひっど!」
「そんな軟弱もやしな読者共は捨てて、とっとと俺の話の続きを書け!!」
「えーやだー」
「まだ分からんのかこのメガネめがっ! ブックマーク1000憶万の俺様の活躍の続きを書けと言っている!」
「いや、この作品ブックマーク10人しか……」
「しかとはなんだぁ!! 読者様に失礼だろうがーっ!!」
「グボァァァァァァァ!!」
小汚い男は肉片がバラバラになって砕け散った……。
「あ。またコイツをミンチにしてしまったぜ。これで1677万7215回目だ。コイツに続きを書かせようとするといつもこうなっちまうな……」
部屋の外に隠れていたフローラがそそくさと出てくる。
「あ、あの、ショウさん」
「なんだ?」
「きちゃない肉片にまみれて、こんなのが落ちてたんですけど……。
「なになに? 『不良界で伝説的存在の男が異世界に行った件 第三話』だと? なんだ、次話があるじゃないか。よしフローラ、その可愛い声で俺に読んで聞かせろ! 自慢じゃないが俺は小学校をトップの成績で中退したので漢字が苦手だ!」
「は、はい……。では続き、始まります! (……カンジって何かしら?)」
立花によって破壊された吊り橋の向こうには、王国と対峙する帝国軍の前線基地があった。
だが、王国軍があまりにも貧弱すぎたため、前線基地の帝国軍はやりたい放題。
厳しい軍規は今や乱れに乱れ、もはやただの暴徒の集団と化していた……。
「も、申し上げます!!」
全身にきったない脂身をまとった太りに太った男が、女の侍らせてちゅっちゅ♪しているところに、無礼にもボロボロになった真面目そうな兵士が駆け込んできた。
「おいキサマ、せっかくのイチャイチャパラダイス中に何の用だ!」
「も、申し訳ありません、ゲリブ殿下! ひ、東の、最果ての要塞が……落ちました!!」
「なにぃぃぃ!? 貴様もう一度言ってみろ」
「最果ての要塞が……落ちましたーーっ!!」
最果ての要塞。
元は王国の最東部に位置する要塞であり、魔物が蔓延る王国東部を開拓するために建てられた要塞だが、こたびの帝国の侵攻によりあっけなく落ちた。
「何? 魔物の群れでも来たか!?」
「それが……変な服を着た男が暴れまわり……我らが部隊は壊滅! 師団長の……えーっと名前なんだったかなーアイツ。……と、とにかくコテンパンです!」
「ふん。なるほどよく分かった!! それでおめおめと逃げ帰ってきたという訳か」
(今ので分かったの!?)
「も、申し訳ございませんっ! ですが『ガンジョーナ吊り橋』を破壊したので、当面危険は無いものと思われます」
(本当はあの男が壊したんだけど……)
「昇進」
「へ?」
「おまえ、最果て将軍に昇進!」
「あ、ありがとうございます!!(なんだそれ……)」
「部下を一人つけてやるから、最果ての要塞を取り戻してこい。でなきゃ死刑」
「ははっー!(よし、逃げよう!)」
………
……
…
「というわけだアネット君。今から私の指揮下に入ってもらう」
「なるほど、分かりました」
前線基地の厩舎の一角で事の経緯を話す最果て将軍ことヤーマダ。
今回新たに部下となった赤毛単発の美少女騎士のアネットは齢15歳にして《ホワイトナイツ》に抜擢された実力の持ち主。
ちなみに《ホワイトナイツ》とは、角の生えた白馬に乗って戦う帝国騎兵の特殊部隊で、羽も生えていないのに空中を陸のように翔けることができるチートすぎる騎兵部隊だ。
「ですがヤーマダ将軍、2人であの要塞を攻略など、無茶にもほどがあります」
「だが、ゲリブ殿下はこう言われた。一人で落とせる程度ならば倍の人数で落とせるだろう、と」
「なるほど確かに……」
(たしかにじゃねーよ!)
と、心の中で叫ぶヤーマダ将軍。
相手は化け物じみたあの男だ。まともに殺り合えば即死するのは明らかだ。
「ですが、どう攻めるにせよ、まずは定石通り、その要塞の偵察をするべきかと」
「そ、そうだな。頼む」
「お任せください!」
美少女騎士のアネットは一角白馬に跨り、東の空へと駆けて行った。
◇ ◇ ◇
東の空を駆けること10分。
ようやく最果ての要塞が見えてきた。
が、様子がおかしい……。
「な、なんだあの橋は!? 破壊されたのではなかったのか!?」
以前アネットが見たときの《ガンジョーナ吊り橋》は木製だった。
底の見えない谷から吹き上がる風でゆらゆら揺れて、渡るだけで失禁する者を多数見てきたのでよく覚えている。
だが、目の前にある橋はあまりにも異様である。
アルファベッドのHの形をした鋼鉄の橋脚から、鉄の綱でずっしりと支えられた鋼の吊り橋。
もう説明が面倒なのでぶっちゃけ言えば、横浜ベイブリッジっぽい橋へと建て替えられていたのだった……。
「なんとすさまじい橋だ……。だが敵の気配はない」
ユニコーンの天敵である長弓兵を警戒しつつ、アネットは慎重に崖の上の空を闊歩する。
橋の巨大さに目を奪われていたアネットが、その先にある最果ての要塞に目を移す。
「なんだこれは……!! これが、あの最果ての要塞だというのか!?」
それは要塞と呼ぶにはあまりに異様であった……。
見たことのない白い城壁に、半分ほど開け放たれた鉄格子の門。
そして、集団で練兵ができそうなただっぴろい広場と、それを囲むようにL字型に配置された建物。
要塞と言えば、古今東西あらゆる敵の侵入を防ぐために様々な工夫が凝らされているものだが、こんな型破りな要塞は今まで一度も見たことがない。
身の危険を感じたアネットは、ヤーマダ将軍に報告するため、急いで引き返したのだった。
◇ ◇ ◇
「キーン、コーン、カーン、コーン!」
教室にチャイムが鳴り響くと、教室内の左後ろの席(通称主人公席)で鼾をかいてぐっすり熟睡していた立花が目を覚ます。
「ぐがぁー……。ぐごぉー……」
「ショウさん、ショウさん! お昼のチャイムが鳴りましたよ!」
主人公席の隣に座っている制服姿のフローラが、立花の背中をやさしくさすりながら起こした。
「ふあああぁぁぁぁ……」
──どけどけー! 焼きそばパンは俺のものだぁぁー!
──テメェ! そのコーヒー牛乳を寄越せ!
──い、いやだっ! 死んでも渡すもんか! この味はボクだけのものなんだから!
──肉まん……。ああ、一度でいいから食べてみたい……。
──やめておけ。注文したら最後、ハチマキさんみたく死ぬぞ。
──うう、ハチマチさん……肉まんを注文したばかりに、タチバナに……。
──ちくしょう、売り切れだった……今日もウ〇コカレーかよぉぉぉ!!
──もうあのカレーは嫌だぁぁ!!!
廊下では、降伏した帝国軍の元兵士達がなぜか学ラン姿で必死に昼食を奪い合っていた。
「ショウさんって凄いです……。要塞の妖精さんと契約するだけでもすごいのに、敵である帝国軍のみなさんを仲間にするなんて、優しいです……」
「あー、あいつらはオマケだ。無人ってのも雰囲気でねーしよ。そういや地下室の隠し部屋にいた変なヤツ、あいつの名前なんだったか?」
「《ヨウサイのアルジ》さんっていう妖精さんのことですか?」
「おーそいつそいつ」
「いいなぁ、私も妖精さん見てみたいなぁ」
「やめとけ。めんどくせぇぞ? 何かと『ポイント使って難攻不落要塞を作ってね♪』とかワケ分かんねぇこと言ってきやがるし。ま、おかげで肉まんにありつけた訳だが」
「すごいです……」
そう。
立花が最果ての要塞を落としたら、要塞の主を名乗る小人の姿をした妖精が出てきて『あなたのお城を作ってね♪』と言われたのであった。
要塞に籠っていた帝国軍を蹴散らしまくったおかげで、要塞を建設するのに必要なビルドポイントがアホみたいに溜まっていた立花は、かつての自分の城であった底辺高校をここに再現し、残ったポイントで横浜ベイブリッジ風の橋を架けなおしたのであった!!
「フローラ、腹減った。肉まん買ってこい」
「はい!」
フローラはニコニコしながら、コンビニ風の店構えの売店に肉まんを買いに行くのであった。
◇ ◇ ◇
──前線基地。ヤーマダ将軍の帷幕。
「ふむ、そいつは《空城の計》だな」
アネットの報告を聞いたヤーマダ将軍が顎に手を当てながら解説する。
「《空城の計》とは、東洋の兵法書に書かれていた計略で、城門をわざと開けることによって敵をおびき寄せ、城の中で一気に撃滅する兵法だ」
「な、なんと! やはり罠だったのですか!?」
「うむ。だが君の偵察のおかげで敵の狙いが分かった。これで要塞の攻略ができそうだ」
「本当ですか!?」
「ああ。逆に敵が多かったらどうしようかと悩んでいたところだよ」
「ということは、もう作戦はばっちりなのですね!」
「ああ。だが念には念を入れて《ホワイトナイツ》の連隊が欲しいところだな。アネット、どうか君の仲間に声をかけて、内密に協力を要請してきて欲しい」
「ヤーマダ将軍……」
「どうした?」
「それが……。《ホワイトナイツ》で出撃できるは、もはや私のみです」
「な、なんだと……」
「その、仲間達はみんな、放蕩三昧な前線生活で、ユニコーンに乗れなくなりました……」