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第三十三話 神獣の化身と晴れ舞台



 私の長かったようで短い冒険の旅は、ここで終わったかのように思っていたが、実は……まだ終わってはなかった。


 うん。終わっていなかったよ……。


 そう、最大のイベントが待っていたのだ。


「本当にしなくちゃいけないの?」


 ぶつくさと文句を言いながら、ほぼ強制的にきらびやかな衣装を栞に着せられていた。前に着た着物とは違うが、それよりもはるかに豪華な衣装に目眩がする。逃げ出したいよ~~。


 そんな私に苦笑しながらも、容赦なく帯を締めていく。八分目でご飯止めててよかった。


「いい加減諦めて下さい、睦月様。凄くお似合いですよ。流石、朱雀様です」


「朱雀様?」


 意外な人物の名前が出てきた。今回の件の発端の一人だよね。


「この衣装、朱雀様がお選びになったんですよ」


(朱雀様が!? 何のために? 罪滅ぼしかな?)


 何か意図でもあるのかな? ふと……そんな考えが過るが、もしそうなら、伊吹が私にこの着物を薦めはしないだろう。ここは、素直に貰っといてもいいんだよね。


「睦月様、こっち向いて下さい。今、紅を引きますからね」


 栞の綺麗な指が、私の頬に触れる。手際よく、薄紅色の紅を引く。


「……はい、出来ました。お美しいです、睦月様」


 高いテンションの栞に対して、私のテンションは反対に沈んで行く。ぶくぶくと。


「本当に、やらなくちゃ駄目?」


「いい加減諦めて下さい」


 もう一度、栞は同じ台詞を言った。この頃、栞は私に対してはっきりとものを言うようになっていた。私はそれがとても嬉しかった。


 そんな私たちのやり取りを、紫さんは微笑みながら見ている。平和だよね。


 栞は私の手を掴むと立たせる。


 紫さんが障子を開けると、伊織さんとサス君が私たちを待っていた。二人は、私の姿を見て息を飲む。


「とても綺麗ですよ」


「本当に、よく似合ってますよ」


 二人は口々に褒めてくれる。私は何だか照れくさかった。たまにはこんな衣裳着てもいいかな。着るだけならね。


 私を待っていたのは、伊織さんとサス君だけだった。そこには、茜の姿も錦さんたちの姿もなかった。


 あの後、錦さんは重鎮たちを一喝し、この件に関わらず、全ての権限を伊吹に任せる旨を再度言い渡した。


 そして一晩悩んだ末、伊吹は刑を決めた。


 私を殺そうとした重盛は、両翼を切り取られ、国外追放となった。極刑を望む声もあったが、重盛の性格を考えると、楽に死なすよりも両翼を切り取る方が堪えるらしい。


 翔琉も片方の翼を切り取られ、重盛と同様に国外追放となった。


 天狗が翼を切り取られるということは、死刑に次ぐ刑の重さだ。


 天狗の法力の源は、その翼にあると言われている。


 つまり重盛は、以後、法力を使うことは出来ないということだ。


 この世界では、法力や霊力、魔力の強さが寿命を決める。


 両翼を失うということは、重盛が最も軽蔑し、蔑んだ人間に近い状態になったことを意味していた。重盛にとってその刑は、死よりも重いものだったに違いない。重盛は以後、人間のように年を重ね生きて行く事になる。


 そして茜は、二人の刑が確定し、執行され、追放されたその日の夜、黒劉山から姿を消した。伊吹も栞も、紫さんも、茜を探すことはしなかった。


 錦さんたちは、翔琉たちが連行されたその日のうちに、白翼船に戻った。「自分たちが長居することは、ここにいる者たちのためにならない」と言って。琉花さんや重里さんの気持ちを考えたからだと、私は思う。


 今回の件で多くの人が傷付いた。


 その傷は……一生消えないしこりとなって、皆の中で残り続けるだろう。


 でも今は皆、その傷の痛みを胸の内に隠して笑っている。何事もなかったかのように、いつもの日常を送っている。悲しみや辛さから逃げるのではなく、それを真正面から受け入れ、笑っているのだ。その強さは一体どこから来るのだろう。不思議に思う。


 若輩者の私には分からない。だけど……皆が笑うのなら、私も笑おう。声を上げて笑おう。皆が喜ぶのなら、腹を括ろう。


 私は栞に手を引かれてやぐらに登る。櫓の下には、大勢の人が集まっていた。白劉都の大通りを埋め尽くす人だかり。上を見上げれば、十隻以上の帆船が空を覆っている。


(嘘でしょう!! 何でこんなに集まってるのーー!!!!)


 思わず、たじろいてしまう。このまま回れ右をして逃げ出そう。本気でそうしようとしたが、勿論それは許される訳なく……。


「睦月様、笑って手を振って下さい」


 少し離れた場所から栞が指示を出す。


 私は引きつりながら笑うと手を振った。


 振ったと同時に、拍手と喝采が沸き上がる。それは地面を揺らすほどだった。櫓は揺れなかったよ。それに驚いて、振る手が止まると、すかさず栞が「振り続けて下さい」と指示を出す。私はしばらくの間、笑みを浮かべ、ひたすら手を振り続けた。


 その時の私の映像は、最悪なことに、常世中を駆け巡ったらしい。


 私はそれを後に知ることになるのだった。






 最後まで読んで頂き、本当にありがとうございますm(__)m


 後二話で終わります。

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