最終決戦当日
とうとう、この日がきた。
待ちに待ったこの日。今日で全てが決着する。
同時に、私の旅も終わる。
最後まで見届けると、私は伊吹と約束を交わしていた。伊吹からの申し出だったけど、それは私自身が願っていたことでもあった。だから、快く了承した。
栞と紫さんの手を借りて準備をする。
千葉睦月から、神獣森羅様の化身としての役割を果たすために、それに相応しい装いをする。幾層にも着物を重ねて着る。金の髪飾りを付けて、私は神獣森羅様の化身になった。
私は座って、その時を静かに待つ。
錦が白翼船を改造してくれてたおかげで、二週間で白劉都まで来れた。
数日前。
天狗の支配地に入った時、白劉都で神獣森羅様のお祭りが開催されるという噂が、伊織やサスケたちの耳に入った。その噂通り、航路には多くの帆船が白劉都に向かって進んでいる。
伊織たちには伊吹の意図が容易に想像出来た。
おそらく、天狗族を守るためのものだろうことは容易に想像が出来たが、だがそれが、睦月の安否の答えにはなっていなかった。
伊織とサスケは逸る気持ちを必死で抑える。
逸る気持ちを抑えながら、サスケは甲板に立って意識を集中し、分身の霊力を探る。微かだか……分身の力が感じ取れた。完全に分身が消えていないから、無事だとは思うが。でも、絶対ではない。祈る気持ちでサスケは空を見上げた。
次の日、白翼船は白劉都に到着した。
久しぶりの白翼船の帰還に、別の意味で黒劉山は揺れた。
伊吹によって箝口令がひかれているのだろう。錦たちが黒劉山を訪れたのは、森羅様に挨拶をするためだからだと、多くの天狗たちは思っていた。
反対に、黒翼船の真相を知っている者たちにとって、錦の来訪は恐怖でしかなかった。
まぁ、そうだろう。伊吹に族長を譲ってから長い月日が経ってはいるが、まだまだ錦の影響は大きかった。言い換えれば、それだけ優れた族長だったと言えよう。
「伊吹はいるか?」
近くの天狗に、錦は短く訊く。まだ若い天狗は緊張しながらも答える。
「今、翔琉様たちと会談中です」
「そうか」
錦は短く返事をすると、険しい顔をしたまま伊織たちと共に大広間を目指した。
話し掛けられた若い天狗は、錦の顔を見た瞬間凍り付く。恐怖で言葉を失った。全身が金縛りにあったかのように、全く動かなかった。
廊下を進むより、庭を横断した方が早く大広間に着く。当然、錦は庭の方に足を向けた。庭を横断し大広間が見えた。
翔琉と重盛、そして重鎮たちが一堂にかいして、伊吹を責めていた。錦のところまで、その罵声が聞こえて来る。
多くの者が、伊吹の翼を理由に責めている声が多かった。睦月のことを心配する声は一切聞こえてこない。
「こんなことになるのなら、翔琉様が継げばよかったのだ!!」
次々と上がる罵声の言葉。興奮する天狗の幹部たち。
翔琉と重盛は、これを狙っていたのだろう。
その場にいる全員、自分の保身ばかりを気にしている。如何に、自分の立場を守るか。今、彼らの頭にはそれしかない。伊吹をスケープゴートに仕立て上げ、罪を逃れる。
ーー情けない!!
庭から見ていた錦の表情が、更にとても険しくなった。もうその顔だけで、心臓の弱い人間なら、心臓麻痺を起こしてもおかしくない程だ。
あまりにも醜く、見るに耐えかねた幹部たちの姿に、錦たちが大広間に乗り込もうとした決めた時だった。
廊下を歩く一人の少女の姿が見えた。
煌びやかな姿をした少女は、供を二人引き連れ歩いている。
伊織とサスケ、そしてそこにいる全員、それが誰なのかすぐに分かった。伊織たちは駆け寄ろうとする。
だが、錦はそれを止めた。
錦は左腕を真横にのばし、伊織とサスケを制したまま、事の成り行きをじっと見詰める事にしたのだった。
最後まで読んで頂き、本当にありがとうございましたm(__)m




