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第三十話 鍵





「ちゃんと言えてよかったね、睦月ちゃん」


 伊織さん(先代)が「良い子、良い子」と、私の頭を撫でてくれる。


「伊織さん!?」


 茜を蘇生した後、血を吐いて倒れて以来だ。そんなに日が経ってないのに、すごく久しぶりな感じがする。


 そもそも、これが夢か現実かって訊かれたら、ちょっと返答に困るかな。だってね……。


 実は、ここに来たのは三回目。


 いつも寝ている時か、意識がない時に来ている気がする。そういう状態でしか会えないから。


 来る毎に、不思議な場所だと思う。


 住んでいる人も、とても神秘的な人だ。


 でも……私にとって、すごく安心が出来る場所でもあった。伊織さんが、私の事を何でも知っていても、全然気持ち悪くは思わない。ほんと、不思議なことにね。


「頑張っている睦月ちゃんに、プレゼント」


 伊織さんは満面な笑みを浮かべながら、私に一本の鍵をくれた。今時の家の鍵じゃなくて、蔵を開ける鍵の様にしっかりとした鍵だった。


 私は首を傾げながらも、素直に「ありがとう」と礼を言って受け取る。


(いったい、どこの鍵?)


「大丈夫。いずれ時が来たら、この鍵が何なのか分かるから」


 伊織さんはにっこりと笑う。


(いずれ使う時ね……)


 それ以上は教えてくれなかった。


「…………伊織さん。伊織さんも神獣森羅様の化身ですよね」


 どうせ、これ以上鍵について訊くのは無理そうだから、別の事を質問してみた。黒翼船に乗ってた時、栞や他の天狗たちが話しているのを耳にしたからだ。


「ええ、そうよ。私は神獣森羅の化身()()()


 伊織さんは隠すことなく答えた。やっぱり、と私は思う。だけど、何か引っ掛かるものを感じた。


(だった……?)


 伊織さんは確かにこう言った。「……化身()()()」と。


 だった……。過去形?


 もう、神獣森羅様の化身ではないかのような言い方に聞こえる。どういうこと? あっ! それとも、もう違うって意味かな。って事は、化身の荷を下ろせる日がくるの?


「言い方を間違えたようね。正確に言うと、もう森羅の力がないと言った方が正しいかな」


 伊織さんは分かり易く説明してくれた。


「力がない?」


 私は訊き返す。


「そう」


 伊織さんは頷く。そして続けた。


「神獣森羅様の化身になれるのは魔法使いだけなの。それは知ってるよね。森羅様が力を分け与える場所は、異世界と異世界を繋ぐ通路だけ。何故なら、森羅様が棲む聖域がそこだから。それも、もう知ってるよね」


 私は頷く。


「魔法使いは異世界を自由に渡ることが出来るから、移動中に遭遇することもあり得る。それに、普通の人間と違って魔力があるから、力の一部を受け継ぐことが可能になるって事?」


 今までのことを頭で整理しながら、言葉を紡ぐ。


「九十点かな。一つ付け加えると、魔法使いはあやかし程頑丈に出来ていない。そんだけ、死に近い場所にいるということなの。異世界の界渡りは、本来、そんだけ危険なんだよ。森羅様が力を受け渡す方法は、睦月ちゃんなら分かるよね」


 伊織さんが言おうとしていることが、私なら十分過ぎる程分かる。という事は、伊織さんも、私と同じような経験をしたことがあるって事よね。


「……私も界渡りの途中一度死んで、森羅様に命を与えられた。魔力だけでなく、他の力もそうだけど、永遠にその力を持ち続けることは不可能なこと。いずれ、必ず力を失う日がくるわ。私はもう……森羅様の力はほぼないわね」


 伊織さんはそう告げると、少し寂しそうに微笑んだ。


 森羅様の力を失ったから、伊織さんは一人、ここで暮らす事になったのかもしれない。そう考えると、掛ける言葉が見付からない。何も言えなかった。無理して何か言っても、それは嘘っぽい、軽い言葉にしかならないだろう。


「でもね。まだ魔力は残ってる。だから、睦月ちゃんともこうして会える。また遊びに来てくれる?」


 自信なさそうに、伊織さんは私に訊いてきた。私は伊織さんの寂しさが少しでも晴れるように、力強く頷いた。


「絶対に遊びに来る!! 何回でも!! 伊織さんが嫌がるほど遊びに来るから!!」


 嘘偽りのない言葉。


 伊織さんは泣きそうな顔で笑う。笑いながら、小さな声で、でもはっきりと、私に「ありがとう」と言った。









           



「………………様……睦月様……睦月様……」


 栞の声で私は目を覚ました。


 目を覚まして気付く。右手に伊織さんから貰った鍵を握っていたことに。やっぱり、伊織さんとの会話は現実なんだ。改めて、実感する。


 夢の中でしか会えない人……。


 でもその人は、私の大先輩で、孤独を背負った、強くて優しくて、とても綺麗な人だった。


 私は伊織さんから貰った鍵を、サス君から貰った御守りの紐に通して無くさないように首に掛けた。




 最後まで読んで頂き、本当にありがとうございましたm(__)m

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