第二十九話 決戦前夜
いよいよ明日だ。
明日で、全てに決着が付く。
最終確認を兼ねた打ち合わせを済ませた伊吹が部屋を出た後、栞が用意してくれた布団に、そのまま入る気には到底ならなかった。
私は浴衣のまま縁側に立つと、満月を見上げる。
満月の明かりだけで、字が読めそうな程の明るさだった。
日本ではまず見れないよね。よほどの田舎に行かないかぎり。常世の空はスモックが覆っていないから、澄んでて美しいんだと思う。
魔法、霊力、法力の代わりに、地球では科学の力が進歩した。科学の力で大抵のことは出来る。
でも、こんな満月を見ることは難しくなった。綺麗だけど神秘的で、でも何だか怖い。そんな満月は……。
人間はあらゆるものを犠牲にして、身の回りの便利さを手に入れた。その結果、大切なものを失った。常世には、そんな人間が捨て去ったものがいっぱい残っている。
私は満月を見ながら、そんなことを考えていた。
こうやって、夜空を見上げるのは何度目だろう……。
突然、誘拐から始まった旅は、もうすぐ終わる。
一か月と数週間の旅は、私にとって、驚きと緊張の連続だった。
何度、息が詰まりそうな感覚を味わった事だろう。でもそんな中で、私は掛け替えのない親友と呼べるべき存在に出会った。日本では絶対に、そんな風に言える存在と出会うことは出来なかっただろう。絶対に!! 断言出来る。
良いように変化した切っ掛けはおそらく。
(……伊織さんたちに出会えたから)
彼らと出会えて、色んな意味で変わることが出来た。
アヤカシだけど、人を信じることが出来るようになった。もう一度私は生き直す切っ掛けを、彼らが与えてくれたからだ。私は心から思う。
自分はすごく、幸せだ。生まれてきてよかったと、思うんだ。
「睦月様、眠れませんか?」
栞がいつの間にか、私のすぐ側に立っていた。
「流石に、緊張してるのもあるけど……もうすぐ、旅も終わりかなっと思うと、少し残念かなって」
「このまま旅を続けたいのですか?」
魅力的な言葉だった。しかし、栞の言葉に私は頭を横に振り断った。今なら言えるかもしれない。
「ここが潮時だよ、栞。……あのね、栞……今回の件が片付いたら、族長に頼んで北の大陸に帰るつもり」
今まで悩んでいたのが嘘みたいに、自然と言葉に出来た。
「……そうですか」
少しの間の後、栞は小さな声で答える。強張った硬い声だ。でも、反対はされなかった。
「うん」
反対に、私は落ち着いていた。その顔には笑みが浮かんでいる。
「栞、この旅が終わったら、お願いがあるんだけど……」
この時になって、私は栞に視線を向ける。悲しそうな、辛そうな、何とも言えない表情をしていた。
「お願いですか……?」
「うん」
私は栞と同じ目線まで屈む。
「旅が終わったら、私のことを睦月って、呼び捨てにして欲しいの」
完全に予想の範疇外だったのか、栞は驚愕の表情を浮かべポカンとしている。イタズラが成功したような感覚がして、少し楽しくなった。私は続けて爆弾を投下する。
「今までは主従関係だったけど、今度は私の親友になって欲しいんの。……駄目かな?」
「…………私が、睦月様の親友に?」
「うん。あっ、勿論敬語も駄目だからね」
私はそう告げると、栞をその場に残して部屋に戻った。何か照れて、栞の顔が見れなくなったからだ。
障子越しに、栞が床に手を付くのが見えた。声は聞こえない。
私は布団にもぐり込むと、目を閉じた。
最後まで読んで頂き、本当にありがとうございましたm(__)m
ラストまでもう一息!!
頑張ります(〃⌒ー⌒〃)ゞ




