表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/46

第二十八話 居場所



 重盛が黒劉山に入山するまでの間、私は奥座敷の一棟で軟禁状態を余儀なくされていた。


 あまり人が立ち入らない奥座敷でも、多くの女中が働いていれば、作業している庭師たちもいる。奥座敷に立ち入らぬよう、伊吹が命令していても絶対はない。


 神獣森羅様の化身()が黒劉山を訪れ、伊吹と面談するのは三日後の予定だ。


 重盛が黒劉山する日に、全てが終わる。


 なのに、神獣森羅らしき者と迎えに行った者が黒劉山にいては困るよね。本来なら、この場に存在しないんだから。という訳で、私と栞は共に奥座敷の一棟で仲良く軟禁されていた。


 軟禁っていう言葉は悪いけど、私は全く苦にはならなかった。黒翼船、海賊船。この一ヶ月あまり、ずっと私は軟禁状態に近かったしね。慣れたって言ってもいいかな。でも、気持ち的にはずっと楽だった。


 何も知らないまま軟禁状態でいるのと、色々なことを知ったうえでなるのとでは、気持ち的に全然違う。それに、一人じゃないしね。紫さんも時間があれば、色々なお菓子を持って遊びに来てくれた。紫さんが淹れてくれたお茶はとても美味しかったし、皆でするおしゃべりもとっても楽しかった。


(楽しいけど……)


 私の本当の居場所はここじゃないって、思い知る。


 栞は私がこのまま、ここに住むことを願ってる。紫さんは私の気持ちを優先してくれている。


 栞の気持ちは凄く嬉しいけど……。遠く離れている今だからよく分かるんだ。私の居場所がどこなのかが。少なくとも、ここじゃない。


(私の居場所は……)


 全てが終わったら、伊吹に相談してみようと思う。


 栞は反対するかもしれない。泣くかもしれない。それとも納得して、笑って送り出してくれるかもしれない。分からないけど。それでも……私は……。


「睦月様、どうかなさいましたか?」


 考えごとをしている私に、栞が声を掛けてくる。


「あっ、うん。何でもない」


 私は言葉を濁した。お茶を淹れてくれてる栞の横顔を見ながら、私は思う。


 近いうちに、栞に話さなければならないって。


 全てが終わったら、私は北の大陸に帰るという事を。あのふざけた店名の本屋が、私の居場所だという事をね。


 この三日のうちに、言おうと思ってるんだよ。でも……いざ、栞の笑顔を見ると、私は言えなくなる。だって、あまりにも幸せそうに笑うから。


 いつの間にか、栞の存在が私の中で大きなものになっていることに、嫌というほど気付かされた。栞のせいじゃない。私が栞と離れたくないからだ。栞を失いたくないんだ。


 だから……どうしても、言えなかった。


 栞が微笑みながら、湯のみをテーブルの上に置く。最中も一緒に。私は複雑な胸の内を隠しながら、出されたお茶と一緒に言うべき言葉を飲み込んだ。







 最後まで読んで頂き、本当にありがとうございましたm(__)m


 今回、かなり短いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ