第二十八話 居場所
重盛が黒劉山に入山するまでの間、私は奥座敷の一棟で軟禁状態を余儀なくされていた。
あまり人が立ち入らない奥座敷でも、多くの女中が働いていれば、作業している庭師たちもいる。奥座敷に立ち入らぬよう、伊吹が命令していても絶対はない。
神獣森羅様の化身が黒劉山を訪れ、伊吹と面談するのは三日後の予定だ。
重盛が黒劉山する日に、全てが終わる。
なのに、神獣森羅らしき者と迎えに行った者が黒劉山にいては困るよね。本来なら、この場に存在しないんだから。という訳で、私と栞は共に奥座敷の一棟で仲良く軟禁されていた。
軟禁っていう言葉は悪いけど、私は全く苦にはならなかった。黒翼船、海賊船。この一ヶ月あまり、ずっと私は軟禁状態に近かったしね。慣れたって言ってもいいかな。でも、気持ち的にはずっと楽だった。
何も知らないまま軟禁状態でいるのと、色々なことを知ったうえでなるのとでは、気持ち的に全然違う。それに、一人じゃないしね。紫さんも時間があれば、色々なお菓子を持って遊びに来てくれた。紫さんが淹れてくれたお茶はとても美味しかったし、皆でするおしゃべりもとっても楽しかった。
(楽しいけど……)
私の本当の居場所はここじゃないって、思い知る。
栞は私がこのまま、ここに住むことを願ってる。紫さんは私の気持ちを優先してくれている。
栞の気持ちは凄く嬉しいけど……。遠く離れている今だからよく分かるんだ。私の居場所がどこなのかが。少なくとも、ここじゃない。
(私の居場所は……)
全てが終わったら、伊吹に相談してみようと思う。
栞は反対するかもしれない。泣くかもしれない。それとも納得して、笑って送り出してくれるかもしれない。分からないけど。それでも……私は……。
「睦月様、どうかなさいましたか?」
考えごとをしている私に、栞が声を掛けてくる。
「あっ、うん。何でもない」
私は言葉を濁した。お茶を淹れてくれてる栞の横顔を見ながら、私は思う。
近いうちに、栞に話さなければならないって。
全てが終わったら、私は北の大陸に帰るという事を。あのふざけた店名の本屋が、私の居場所だという事をね。
この三日のうちに、言おうと思ってるんだよ。でも……いざ、栞の笑顔を見ると、私は言えなくなる。だって、あまりにも幸せそうに笑うから。
いつの間にか、栞の存在が私の中で大きなものになっていることに、嫌というほど気付かされた。栞のせいじゃない。私が栞と離れたくないからだ。栞を失いたくないんだ。
だから……どうしても、言えなかった。
栞が微笑みながら、湯のみをテーブルの上に置く。最中も一緒に。私は複雑な胸の内を隠しながら、出されたお茶と一緒に言うべき言葉を飲み込んだ。
最後まで読んで頂き、本当にありがとうございましたm(__)m
今回、かなり短いです。




