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第二十五話 侵入





 空気が澄んでいるからか、気持ち良い風が空気穴から入ってくる。空気穴から、僅かだが外を見る事が出来た。


 大勢の天狗たちが、空を行き来しているのが見える。


 皆同じような服装をしていた。行者のような、山伏のような格好だ。民族衣装なのか、制服なのか……そこは分かんないけど、見た限り、刀をさしている者はいないようだ。黒翼船で見た茜たちのような格好をした者は、誰一人飛んでいなかった。


(……領土の外だったからかな?)


 そんな事を考えながら時間を潰していた。


 何分程飛んだだろうか……。正確には分からないが、二十分ぐらいは軽く飛んでいると思う。


(そんなに、遠いのかな?)


 海賊船の窓から覗いたら、意外と近くに見えたんだけど。実際の距離は、思っていたよりかなり違っていたみたいだ。


 栞も二時間は木箱の中だって言っていたよね……。栞との会話を思い出していると、目線がだんだん下がって行った。


(着いたのかな……?)


 心の中で呟く。


 木箱が丁寧に置かれた。しかし数分後、また木箱は宙を浮く。


 そんなことを二、三回繰り返した後、木箱はどこかの倉庫に保管されたようだ。同じような木箱が何箱も置かれ、積まれているのが見える。


 扉が閉まる音がした。天狗たちは皆出て行ったようだ。誰かいる気配がしない。


 バレずに侵入出来たことに、私はホッと胸を撫で下ろす。そして、大きく息を吐き出した。



 ーー第二段階、無事突破。



(後は……誰かが来るのを待つだけなんだけど……)


 自分で板を持ち上げることは出来ないし。


 昨日箱に入って調整してから、栞が黒劉山に入ってからの手筈を教えてくれた。


 おそらく奉納品は、何ヵ所に分けられて倉庫に保管される。


「果物や栗、芋とかは、同じ倉庫に保管されますから、皆一緒ですので御安心して下さい」と、栞は告げた。そして「頃合いを見定めて、族長の手の者が迎えにいきますから」と、重ねて告げた。


(……いつまで待つんだろう。栞は、二時間くらいって言ってたんだけどなぁ……)


 とうに過ぎているような気がする。それとも、まだ二時間たってないのだろうか。時間の感覚が分からなくなってきた。


 今私が出来ることは、息を殺して、迎えが来るのを待つだけだ。







          





「…………睦月様!! 睦月様!!」


 私の名を呼ぶ声がする。体を軽く揺らされた。いつの間にか眠っていたのか、目の前には、栞と知らない女性がランプを片手に、私を見下ろしていた。


「遅くなってすみません。睦月様の木箱だけ、違う場所に置かれてしまっていて、こちら側の不手際です。申し訳ありませんでした」


 栞と女性が私に深々と頭を下げ、必死で謝る。あまりにも必死なので、私は怒る気が完全に失せていた。それに、元々怒ってもいなかった。


「顔を上げて下さい。謝らなくていいです。何とも思っていませんから」


 私は二人に言った。そう言わない限り、二人は顔を下げ続けるだろうと思ったからだ。私は二人の気を反らせるために、別の話題を出した。


「それより、茜は?」


 一緒に来たはずなのに、茜はこの場所にはいなかった。周囲が騒いでないから、茜だけ敵に見付かったとは考えにくいが、それでも心配になる。だって、私にとって大切な仲間だから。


「姉上でしたら、別室で休んでいます。本来なら……一緒に睦月様を探さなければいけないのに……」


 心底申し訳ないように、栞は告げる。


「栞が謝る必要はないよ。それに、茜も悪くない。本当に皆、無事でよかった」


 笑って答える。栞は何ともいえない顔をしていた。私は敢えて気付かない振りをする。


「それより、栞……私、寝てた?」


 起き上がりながら尋ねる。栞たちは何も言わずに微笑んでいた。


(完全に寝顔を見られたよ!!)


 昨夜、睡眠不足だったからって、この緊張下で寝るかな? 普通。思わず、自分自身に突っ込みを入れてしまったよ。


 女性が足下を照らしてくれる。私は木箱からようやく出れた。


 空気穴から木箱が積まれているのは分かっていたが、その数の多さに、私は言葉が出なかった。広い倉庫の中に数え切れない数の木箱が並んでいたのだ。それが幾つもあると、栞は言っていた。


 つまりこれ全部、私に対しての奉納品ってことだ……。


 栞とサス君から、神獣森羅の化身が如何に神聖化された存在かを、散々聞いていた。海賊船で乗組員たちに泣かれた時も実感してた筈だ。


 でも……この奉納品の箱の数を見て、私は認識の甘さを思い知る。


 急に、自分が怖くなった。思わず、自分の腕を強く掴んで黙り込む。


「……森羅様、いかがなさいましたか?」


 女性が立ち止まったままの私に、声を掛けてくる。私の意識が瞬時に戻った。栞は心配そうに私を見詰めている。


「……あっ、うん。大丈夫」


 私は二人にそう答えた。笑みを少し浮かべて。


「森羅様。御部屋に御案内致します」


 安堵の表情を見せ、女性は先頭に立って歩き始めた。私を挟んで、栞が直ぐ後ろを付いて来る。


「森羅様、段差がありますので、お気をつけ下さい」


 倉庫を出る際、女性はランプの灯りで段差を照らす。


「ありがとう」


 私は女性に礼を言う。女性は少し驚いた表情をするが、すぐに元の表情に戻した。


 段差を跨いで倉庫を出た私は、もう一度後ろを振り返った。


「……睦月様?」


 立ち止まった私を心配して、栞が私の名前を呼ぶ。


「ごめん。行こうか……」


 私は前を向く。


 この倉庫の光景を絶対に忘れてはいけないと、心の奥底からそう思った。







 最後まで読んで頂いて、ありがとうございました。

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