第二十四話 奉納品
私たちを入れた木箱は、一旦甲板に置かれると、手際よく果物が詰め込まれていく。瞬く間に立派な奉納品が出来上がった。
私たちからは見えないが、朱色と金糸で織られた豪華な布が箱に掛けられている。
「何があっても、声を出してはいけませんよ」
悠里とは違う男の声がしたすぐ後だった。羽音が聞こえてきた。その音は大きくなり止んだ。天狗が甲板に降り立ったようだ。空気穴の隙間から、下駄を履いた足が見える。
「これが、神獣森羅様の貢物か?」
天狗の一人が威圧的な声で尋ねる。
「はい。左様で」
さっき私に注意した男が答えた。
「中身は?」
「こちらから、北の大陸で取れる柑橘と林檎類。東の大陸で取れる西瓜などの瓜類。西の大陸で取れる栗と芋類、豆類になります」
そう言いながら、男は一つ一つ木箱の蓋を開けていく。
天狗たちは一箱ずつ、提出された書類と照らし合わせながら、確認をとっていった。木箱の中に手を入れ、念入りに調べている。神獣森羅様の奉納品だから、特に念入りの調べようだった。
私たち全員に緊張が走る。私も声を押し殺して、早く検査が終わることを願った。額に掻いた汗が髪を濡らす。掌も汗でべとべとになった。私は息を潜めて、終わるのを待ち続けた。
「通ってよし!」
天狗は書類に判子を押した。
「ありがとうございます」
男の声で私の緊張が解ける。胸の上で抱き締めていたサス君の腕を緩めた。
ーー第一段階、無事突破。
商人の店主に化けた男が天狗に礼を述べると、共に甲板にいた男たちが、木箱の四隅を手早く釘を打ち付ける。そして、布ごと金糸が織り込まれた紐で縛り上げた。箱の真ん中で解けないように一旦結んでから、慶事のため蝶結びをする。
ちょうど結び終えた時だ。
いくつもの羽音が聞こえてきた。複数人の天狗が甲板に降りてきた。彼らが、黒劉山まで木箱を運ぶのだ。天狗でない者の黒劉山の入山は認められていない。
唯一認められているのが、神獣森羅様の化身だけである。つまり、私だけだ。
このことは、前もって栞から聞いていた。ここで、海賊船の皆とはお別れだ。
ここから先は、海賊船の皆の助けはない。
ぎしっという木の軋む音がした後、木箱が持ち上げられた。空気穴から見える目線が、だんだん上がって行く。
「(……本当にありがとう。皆、また会おうね)」
私は心の中で、海賊船の皆にお礼を言う。
(ありがとう……。皆に会えてすっごく楽しかったよ)
海賊船での色々な出来事が頭を過る。その時だ。私はふと、思い出した。悠里が言った最後の台詞と、あのキスを……。
(……子供にするようなものだよね……絶対、そうだよね)
そう思ってしまう事自体、悠里に失礼だと私は思った。
最後まで読んで頂いて、本当にありがとうございました。




