第二十三話 作戦決行
食事の後、一旦部屋に戻った。
小一時間程、軽く部屋を片付けて時間を潰していると、栞が呼びに来た。
(いよいよだ……)
私はサス君を抱き上げると部屋を出た。そして、栞と共に食糧庫に向かった。
悠里は一足先に来ていた。茜も一緒だ。しかし、茜は黙ったまま俯いている。顔色はあまりよくない。生気が抜けたような様子に、私は少し顔を曇らせる。
(茜……)
「食堂では大変だったな」
食堂での出来事を、おかしそうに笑いながら悠里は茶化す。絶対悠里って、いじめっ子体質だよね。
「……まぁね」
一気に疲れた気がした。
精神的に疲れたよ、ほんと。あの後、食堂のおばさんのひと声でなんとかその場は収まったけど、遠巻きに皆に見られながらの食事は、喉に通りにくいものがあった。味も分かんない。
途中で、栞の「これから、こういうことは何回もあると思いますよ」という台詞に、内心、私は大きなため息を吐いた。とどめを刺すのはやめて……お願いだから。まぁとにかく、海賊船の最後の食事は散々なものだった。でも、嫌いじゃなかった。
お遊びはここまで。
悠里は最終確認のために、もう一度計画の再確認を行った。
「今から、お前たちはこの箱の中に入ってもらう。そして、神獣森羅様の供物として黒劉山に入る。以上だ!」
「……簡単過ぎない」
思わず、突っ込みを入れてしまう。
「それ以上、何か言うことがあるか」
悠里は反対に言い返してきた。悠里らしいなと私は思う。悠里の前に立つと、私は彼に頭を下げる。
「本当にありがとうございました。この御恩は一生忘れません」
私が今ここに無事でいるのは、ここにいる皆のおかげだ。
(私は皆に助けられて……今ここにいる)
「頭を上げろ。俺は謝礼をもらってやってるんだ。礼を言われる必要はない」
「それでも、私は助けられた」
顔を上げると、悠里の目を逸らさずに見詰める。それから、悠里の胴体に腕を回した。驚く悠里を無視して、ギュッと抱き締めた後、私は悠里から離れた。
「悠里、少しだけ時間もらえないかな?」
そう悠里に告げてから、私は茜の前に立った。
「……茜。私は足掻くのを止めたの」
突然何を言い出すのか、そこにいる私と茜以外の皆は息を潜め見守っている。黙っている茜に、私は言葉を続けた。
「私は、ほんの数ヵ月前までは普通の人間だった。家族は私を化け物扱いして、決して幸せではなかったけど、それでも争いとかには無縁だった。……ここに堕ちてきて、私は自分が何者かを知ったんだよ。そして……貴方たちに誘拐されて、今度は命を狙われて、悠里たちに助けられた」
私は一旦言葉を切ると、茜の手を握った。とても冷たかった。
「私にとって、天狗たちの争いなんて知ったことじゃない。巻き込まれて、正直迷惑だった。でもね……思うんだ。私が神獣森羅の化身である限り、似たことはこれからも起きるかもしれないって。自分を否定しても、この状況が変わるわけじゃない。だったら、受け入れるしかない。いくら足掻いても状況が変わらないのなら、自分が出来ることをしようと思った」
私は顔を伏せ、言葉を詰まらせる。茜に語り掛けるというよりも、自分に言い聞かせてるようだ。それでもいい。
「……私だって、怖いんだよ。いきなりこんなことが起きて、巻き込まれて……不安で、不安で、どうにもならない時があるんだよ。泣き叫びたい時もあるんだよ」
握っている手に力を込めた。
「それでも、私はこの世界で生きて行く!! 生きて行かなければならないのなら、今は過去を振り返るのは止めようと思った。前を見て行こうと思った。そうしないと……自分が潰されそうだったから。私は、茜が今苦しんでるのは分かる。でも、私や栞に何もすることは出来ない。だから、私は自分の正直な気持ちを言うことにしたの。それでどうにかなるなんて、思わないけど。でも……私は…………」
何を言いたいのか分からなくなってきた。言葉に詰まった私の肩を悠里が優しく叩いた。サス君を抱いていた栞の手が、背中に添えられる。
私は栞からサス君を受けとると、小さい声で二人に「ありがとう」と礼を言う。そして、箱の中に入った。
栞も茜も箱に入る。
最後まで、茜は一言も声を発しなかった。表情を変えることもなかった。でも……握った手を振りほどくことは、最後までしなかったんだ……。
悠里が板を載せようとした時、皆に聞こえないように、私にそっと囁いた。
「また、会いに行く。必ず」
そう囁きながら、私の額に、そっと……キスをした。
いよいよ、次回、黒劉山に乗り込みます(*^▽^)/★*☆♪