表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/46

第二十二話 睦月、船員を泣かせる



 ーー早朝。


 民間船に化けた海賊船は、堂々と白劉都の船着き場に帆船を停めた。


 あれから、うとうととしてたようだ。椅子に座り、テーブルに突っ伏したまま朝を迎えた。


 目を覚ました私は、窓に目を向けると布の端を少しめくる。帆船が停泊しているのに気付いた。白劉都に到着したようだ。


 眼下には、時代劇のセットを思わせるような、城下町が広がっていた。斜面に村を造ったと聞いていたから、白劉都もそうだと思っていたけど、全く予想とは違っていた。


(凄い……)


 チラッとしか見えなかったけど、かなりどころか、すごく栄えている。私は天狗という種族の力が垣間見えた気がした。


「睦月様、起きていらっしゃいますか?」


 部屋をノックする音の後、私を起こしに来た栞の声がした。


「うん、起きてるよ」


 私は返事をする。


 すると、栞が「失礼します」と声を掛けてから、部屋に入って来た。


「おはようございます、睦月様。昨晩は、よく寝れましたか?」


 当たり前のように今日着る服を用意しながら、栞は尋ねてくる。栞は当然のように私の世話をする。そんな生活に慣れていない私は苦笑する。


「栞は眠れた?」


 反対に私が尋ねると、栞は苦笑しながら「いいえ」と答えた。


「私はあんまり眠れなかった。やっぱり、緊張してるのかな」


 少し笑ってみる。


「大丈夫です、睦月様。必ず上手くいきますから」


 栞は私に服を渡しながら、そう断言する。


 微笑みながら断言する栞の言葉を、私は疑うことなく信じた。


 この日のために、皆がどれだけ動いていたか、私はこの数日間、この目でしっかりと見てきた。だから、私は皆を信じることが出来るんだよ。


 ーー絶対、成功する!!


 そう、心から思える。


 渡された服に着替えると、私は栞とサス君と一緒に食堂に向かった。眠っているサス君を抱っこしたままで。


 食堂には大勢の船員が座っていた。全員があやかしだ。人型のあやかしもいれば、そうでないあやかしもいる。半々ぐらいかな。座りきれずに、立っている者もいた。


 私たちが食堂に入ると、今までざわついていた声が一斉に消えた。皆、私たちを見ている。正確に言えば、私を見ていた。紺も熱い目で見ていた。


 固まっている私に、栞が横から声を掛けてきた。


「彼らは、睦月様の御言葉を待っているんですよ」


(私の言葉!? 冗談だよね……?)


 あやかしたちを見渡す。確かに彼らは、栞が言った通り何かを待っているようだった。


(ほんとに、私が何か言うのを待ってるの……?)


「睦月様」


 栞が促す。


 やっぱり、私が何か言うのを待っているようだ。それなら、私が言う言葉は決まっている。


「……おはようごさいます。私たちのために力を貸して下さって、本当にありがとうございました。皆さんのことは絶対に忘れません。本当にありがとうございました」


 私は深々と頭を下げる。船員の間にざわめきが広がった。栞が慌てて私に言う。


「頭を上げて下さい。神獣森羅様である睦月様が、頭を下げるひーー」


 必要がない。それは違う。私は栞の言葉を途中で遮った。


「私は神獣森羅である前に、ただの人間だよ。人としてお礼を言うのは当然のこと。彼らは見知らぬ私のために、ここまでしてくれたんだから」


 私の言葉に栞は何も言えなかった。黙る栞とは反対に、食堂は咽び泣く声が響いた。


(……えっ!?)


 彼らは皆、隠すことなく泣いている。腕で目頭を押さえて泣く者。布で目頭を押さえている者。何も押さえず泣いている者。様々だ。


 予期せぬ展開に、私は違う意味で固まってしまう。


(一体、何が起きたの!?)


「……あの?」


 訳が分からす栞に助けを求めた。しかし、栞もまた目頭を押さえていた。


「…………」


 もう……立ち尽くすしかないよね。


 立ち尽くす私の目の前では、「森羅様が……あの森羅様が、俺たちにみたいなものに頭を下げて下さった」という声が、あちこちで上がっていた。その度に、彼らの咽び泣く声が一段と大きくなった。


(誰か、これどうにかして!! お願い、泣かないで!! この空気重すぎるよ……)


 私の心の叫びは誰にも届かない。


 伊織さんもこんな場面あったのかな? 今度教えてね。






 最後まで読んで頂いて、本当にありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ