第十九話 目前
朱王都から南の方角に、常世最大の砂漠、赤砂漠がある。
その赤砂漠を越えた更に先の先、切り立った山々の一際高い山が、天狗の総本山、黒劉山である。
遥か昔。
まだ〈常世〉が五聖獣によって平定されていなかった時代。
黒劉山を中心に、天狗たちは切り立った山々の斜面を開拓し村を造った。
翼を持つ彼らにとって、切り立った山々に村を造ることは、種族を護るうえで特に重要なことだった。
最も攻め込みにくい場所に城や村を築けたからこそ、今の確固たる地位が築けたのだ。
今もその名残が、村のあちこちに残っている。その名残の一つが、戦いが終結し平和になった今も、天狗たちが山の外に村を造らないことだ。
そしてもう一つ、黒劉山に住むことが許されるのは、昔も今も族長の一族だけ。
族長の兄弟や姉妹は臣下に下るため、黒劉山には住むことは出来ない。彼らは黒劉山の麓にそれぞれ居を構えた。故に、村々の中で一番に栄えているのが、黒劉山の麓の白劉都であった。
私たちを乗せた空賊船が天狗の支配地に入ったのは、茜が目を覚まして二日後である。
後一日で、白劉都に到着する予定だ。そこで、私たちを降ろす算段になっていた。
箝口令がひかれているせいで、天狗たちは神獣森羅様の化身が行方不明である事実を知る者は少ない。ましてや、民間の間では皆無といっても過言ではなかった。
悠里曰く、そこをつくのだ。
神獣森羅様を迎えるための宴を催すために、多くの民間船が白劉都に集まってきている。食料を運んだ帆船であったり。旅芸人であったり。一目神獣森羅を見ようと、わざわざ来訪するものも大勢いた。人が集まれば、自然と商人も多く集まる。
そんな中で、民間船に化けた海賊船が潜り込むのは簡単なことだ。現に支配地に入っても、一度も天狗たちに監査を受けることはなかった。
一応私たちは用心して、支配地に入ってからは一度も甲板には出ていない。栞や茜に至っては、それぞれの部屋の窓に布をかけ、外からは見えないようにしていた。族長の娘たちである二人の顔を知る者が多いからだ。
後一日で、私たちは今回の首謀者が待つ、白劉都に到着する。
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